ハラハラ、ドキドキ、往年のハリウッド、スター映画を楽しめる娯楽作
兵頭頼明
2018/07/31
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1980年代の初めごろまで、民放テレビ各局のゴールデンタイムには外国テレビドラマの放送枠、業界用語でいうところの「外画枠」が設定されていた。連日アメリカやイギリスのテレビドラマが放送され高視聴率を獲得していたが、中でも『スパイ大作戦』(66~73)は外画の代表格とも言える人気シリーズであった。
「実行不可能な指令を受け、頭脳と体力の限りを尽くし、これを遂行するプロフェッショナル達の秘密機関の活躍である」というオープニングのナレーションが示す通り、『スパイ大作戦』は極秘任務を遂行するスパイ組織IMF(Impossible Missions Force)の活躍を描いていた。7シーズン続いた長寿シリーズであり、繰り返し再放送されている。5拍子の強烈なテーマ曲、そして「おはよう、フェルプス君」で始まる指令の声はシリーズの代名詞となり、数多くの亜流とパロディ作品を生んでいる。
一世を風靡したこのシリーズの映画化に乗り出したのが、ハリウッドを代表するスター、トム・クルーズである。彼は自らプロデューサーとなり、96年に『ミッション:インポッシブル』(以下『M:I』)を製作公開した。この『M:I』はキャストも豪華で娯楽作品として文句なく面白いのだが、テレビシリーズのファンを唖然とさせる作りとなっていた。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、端的に言えば、トム・クルーズは禁じ手とも言える反則技を使って、意外な結末を用意したのである。この反則技には驚いたが、それは一旦シリーズをリセットし、クルーズ版『M:I』シリーズとして再スタートさせるためであった。第1作は大ヒットし、今夏は第6作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』が公開されるのだから、彼の戦略は間違っていなかったことになる。
トム・クルーズは往年のハリウッド映画らしい「スター映画」の最後の作り手である。映画界華やかなりし頃、ハリウッド映画は自社専属のスターをいかに輝かせるかに心を砕いて製作されていたが、現在は映画会社専属のスターは存在せず、まずは企画ありきで製作されている。そんな中、セルフ・プロデュース能力に長けたクルーズは外部から持ち込まれる企画を吟味する一方で、『M:I』シリーズ、『ラスト サムライ』、『アウトロー』シリーズ等の主演作品を自らプロデュースしている。
近年のクルーズのプロデュース作品がすべて優れた「スター映画」となっているのは、彼がスターとしての自分を輝かせるため、そして作品の質を高めるために、進んでリスクを負っているからである。『M:I』シリーズでは毎回危険なスタントシーンに挑戦している。最近のアクション映画はCGばかりでつまらないが、本作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』には手に汗握るアクションシーンが用意されている。彼の本物志向がCG慣れした観客を驚かせ、楽しませてくれるのである。
また、彼は『M:I』シリーズの監督を一作ごとに交代させてきた。毎回、個性豊かな監督を起用し、異なるテイストの『M:I』を作りだしてきたのだが、今回初めて前作と同じ監督クリストファー・マッカリーを続投させている。二人の監督・主演コンビ作は3本で、他に脚本やプロデュース協力作が4本ある。このことから、トムがいかに彼の力量を評価しているかがわかる。マッカリーはクルーズの期待に応え、シリーズ総決算とも言うべき作品に仕立て上げた。脚本家出身の監督だけあって、ストーリー展開が巧みである。シリーズをリセットしたとはいえ、おなじみのテーマ曲に乗せたオープニングタイトルをはじめ、テレビシリーズのファンへの目配せも忘れない。
トム・クルーズの生身のアクションと二転三転するストーリーテリングを同時に堪能できる上質の「スター映画」である。
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
監督・製作・脚本:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ/サイモン・ペッグ/ヴィング・レイムス/レベッカ・ファーガソン/アレック・ボールドウィン/ミシェル・モナハン/ヘンリー・カヴィル/ヴァネッサ・カービー/ショーン・ハリス/アンジェラ・バセットほか
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:http://missionimpossible.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/missionimpossibleJPN/
公式Twitter:https://twitter.com/mimovie_jp
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。