【大島てる】事故物件はすべて晒す。気にするかしないかはあなた次第です
ウチコミ!タイムズ編集部
2016/05/30
『大島てる』と不動産業者は対立しない なぜなら…
——サイトには日本国内はもちろん、海外の事故物件情報も掲載されていますが、どのような人が利用しているのでしょうか?
大島:データを取っているわけではありませんが、まず興味本位の人、それから物件を探しているけれど事故物件は避けたいという人、そして不動産業界の関係者ですね。
ここは重要な点なのですが、実は私たちと不動産業者の間には対立はまったくありません。なぜかというと、ご存知のように不動産業者、仲介業者の場合ですが、貸す人と借りる人、あるいは売る人と買う人をつないで手数料をもらうのです。ですから、お客さんが事故物件は嫌だといえば、事故物件ではないものをすすめればいいだけです。別に事故物件の情報が公開されても、他人事という立場なので、本質的に対立関係にはないのです。
ただし、不動産業者が大家の代理人かのように連絡をしてくることはあります。大家のなかには高齢者が多くいますから、「うちの物件が載っているらしいんだけど、ちょっと調べてくれないか」とか、「苦情を言ってくれないか」とつきあいのある不動産業者に頼むケースがあるのです。
——情報を出されて困るのは大家さんだということですね。
大島:情報を隠したがるのは圧倒的に大家の側です。不動産業者はあくまでも大家の代理人のように連絡してくるだけです。
このサイトをご覧になっている方にとっては、釈迦に説法だと思いますが、大家と不動産業者は一般には別物ですから、その利害は必ずしも一致しないのです。不動産業者は宅建免許がなければ営業できませんし、当然、宅建業法に規制されますが、大家には免許もいりませんし、宅建業法に規制されることもありません。
この免許というものには大きな意義があって、何かルール違反をして宅建免許を取り上げられてしまったら不動産業者は商売上がったりになってしまいます。ですから、はじめは大家と一緒に悪さをしても、役所にチクりを入れれば、終いには必ず 「ここから先はご自分だけでどうぞ」と身を引くのです。ところが、大家業には免許制度がないので、大家のほうは、それこそ警察沙汰にでもならない限り、怖いものなしのやりたい放題なのです。いちいち裁判を起こすのも大変ですからね。
そういう意味では、宅建業法には告知義務が規定されているので、不動産業者のほうが事故物件については敏感で、サイトを熱心に見てくれているように思います。不動産業者自身が、事故物件と知らずに客付けしてしまう可能性も十分にあるわけですから。
大家に嘘をつかれたら、不動産会社はどうしようもない
写真はイメージです
——不動産業者が事故物件と知らずに客付けしてしまうことがあり得るのですね?
大島:そうです。大家と不動産業者の関係は、大家が客付けを依頼するところから始まります。うちの物件に1部屋空きが出たから入居者を探してくれないかという具合に依頼をするわけです。この時点で、その物件が事故物件かどうか、普通は不動産業者が把握しているはずがありません。いくら地場の不動産業者といっても、取引のプロに過ぎず、情報に関してはズブの素人ですから、知らなくて当然なのです。
ですが、いざ何かトラブルが起きたときにクレームを突きつけられるのは不動産業者です。そこで、不動産業者が大家との間で念書を交わすことがあるのです。これから入居希望者を集めるけれども、告知義務があるから本当のことを教えてください、過去に入居者の自殺などないですよね? などと大家に確認を取るわけです。
もちろん、ここで大家が嘘をつく場合がありますし、実際に嘘をつかれてしまったらもうどうしようもない。でも、こうして念書を交わしておくことで、いざ問題が起きたときに不動産業者は保身ができる、「私たちも騙されたのだ」と言えるわけです。目的は保身なのですが、何も知らされないまま事故物件に住んでしまう人が出てしまうことを防ぐ上では一定の機能を果たしているといえます。
事故物件の告知義務はすべてが「あいまい」
——事故物件の告知義務について説明していただけますか?
大島:事故物件の告知義務についていえば、宅建業法には具体的なことは何も書いてありません。それこそ、「大事なことは告知しなさい」というレベルです。
事故物件とは心理的瑕疵がある物件、平たく言えばそこに住むことに心理的な抵抗がある物件のうち、殺人や自殺といった理由で人が亡くなっている物件のことです。心理的瑕疵としては、ほかには隣に暴力団の事務所や風俗店があるといったものも該当します。包含関係でいえば、「心理的瑕疵物件」という大きな括りのなかに「事故物件」が一部としてあるという位置づけですが、宅建業法には「心理的瑕疵」という語さえも登場しないのです。
当然、たとえば自殺があった場合は何年間は告知しなさいとか、何人目までの入居者には告知しなさい、といったことも法令上は一切書かれていません。では、何を拠り所にしているかといえば、裁判例です。ひとつひとつの紛争事例ごとに裁判所が判断しているのですが、その裁判所の判断を踏まえて、これは告知したほうがいいとか、これは告知しなくても大丈夫だろうとか、不動産業者が判断しているというのが現状なのです。
——明文化されたルールはないのですね?
大島:本当にケースバイケースです。ただ、なかにははっきりしていることもあって、たとえばマンションなど集合住宅の場合、実際に人が亡くなった部屋の隣の部屋や上下の部屋については裁判所は心理的瑕疵を認めてくれていません。
また賃貸物件の場合は、事故後、ひとり目の入居者には告知するけれども、ふたり目には告知しなくてもいい、というのが業界の潮流になっています。これは、過去にそういう裁判例があるのですが、私見では、ひとり目に告知すればそれで十分などとはまったく考えられませんし、ひとり目の入居期間が短かかったり、事故の影響が大きかったりすれば、当然、裁判になったときに「もうふたり目だから」というだけでは通用しない可能性は十分にあると考えています。
ですが、少なくともひとり目には告知しなければまずいというコンセンサスが業界にできつつあること自体は、かつてに比べれば進歩したといえるのは間違いありません。
もちろん、なかにはそうしたコンセンサスがあることを知りながら、ひとり目に対してさえ事故物件であることを告知せずにすませてしまおうとする不動産業者もいます。また、たとえば知り合いや社員を、ひとり目としてごく短期間だけ入居させて、お客さんにはもう告知義務はないからと開き直るケースもあります。
「あいまい」だから「告知しておこう」と判断させる作用がある
——消費者保護のためには、明確なルールが必要ではないですか?
大島:実は、私は明確に告知義務のルールを決めてしまうことには懐疑的なのです。たとえば、告知義務の期間を「自殺の場合は5年間とする」と決めたとします。そうすると何が起こるかといえば、間違いなく「5年と1日経ったらもう告知しなくていい」と逆にとらえられるだけでしょう。
ですが、現在のように「知っていたら契約しなかったかもしれないような事実はすべて告知しなさい」という非常にふわっとしたルールであれば、不動産業者は「これを告知しなかったらまずいんじゃないか」と身構えるはずです。迷った上で、 安全策を取るなら「とりあえず告知しておこう」という判断をするでしょう。あらゆることが「あいまい」なことのメリットとして、そうした作用を期待できるというのが私の考えです。
それに、司法の判断は別にして、何年経ったからもう大丈夫などということは大家や不動産業者が判断することではありませんし、そもそもその物件に住む本人の判断を尊重すべきなのです。
便器を歯ブラシで磨いて、その後薬品で消毒して、「もうきれいだからこれで歯も磨けます」と言われても、やっぱり嫌な人は嫌なわけですよね。気のせいだとか非科学的だとかいわれても、そんなの関係ないわけです。
情報はすべて出す、その上で、気にするか気にしないかはあなた次第というのが、最もフェアなやり方なのではないでしょうか。
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宅建業法の告知義務について、「非常にあいまいなことにメリットがある」という大島さんの指摘には、なるほどと納得させられました。事故物件公示サイトというと、オカルト的な怖いもの見たさのような印象を受けるかもしれませんが、決してそのようなスタンスではなく、その運営方針からは消費者保護の意識がとても強く感じられます(第3回に続く)。
【第1回、第3回はこちら】
第1回 圧力があっても削除しない! 【大島てる】が事故物件にこだわる意外な理由とは?
第3回 【大島てる】事故の連鎖を招きかねない「脱法」リフォームを公開する!
大島てる(おおしま・てる)
平成17年9月に事故物件公示サイト『大島てる』を開設。当初は東京23区のみの事故物件情報を公示していたが、その後、徐々に対象エリアを拡大、現在では日本全国のみならず海外の事故物件をも対象としており、英語版も存在する。「事故物件ナイト」をロフトプラスワンウエスト(大阪)にて不定期開催中。公式Twitter・Facebook・Lineアカウントがある。元BSスカパー!「ALLザップ」特捜部最高顧問。その活動は『ウォール・ストリート・ジャーナル』でも紹介された。取材・執筆協力した書籍に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『事故物件サイト・大島てるの絶対に借りてはいけない物件』(主婦の友社)がある。
大島てる CAVEAT EMPTOR: 事故物件公示サイト
http://www.oshimaland.co.jp/
この記事を書いた人
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