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居住用賃貸で「SOHO」している入居者が勝手に会社を設立 これって契約違反・法律違反?(1/2ページ)

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イメージ/©︎lanastock・123RF

郵便受けに見知らぬ会社名が…

ある賃貸住宅オーナーの話だ。先日、自身が経営しているマンションのエントランスをくぐり、郵便受けの前を通りかかった際、見慣れぬものが目に飛び込んできたそうだ。

「あれ? 〇号室の郵便受けのプレートに会社名が書かれている。株式会社云々……なんだこりゃ?」

オーナーにはまったく心当たりがない。ちなみに、このマンションは全室が居住用だ。いずれの部屋の賃貸借契約書においても、「借主は居住のみを目的として本物件を使用しなければならない」と、明記されている。

「そういえばこの部屋の入居者のAさんは、フリーのウェブデザイナーとやらをやっている人だ。部屋はあくまで住むために借りるが、そこでパソコンを使って仕事もしたいということだった。つまりSOHO(Small Office / Home Office)だ。彼に何が起きているんだろう。この会社はAさんのものなのか……?」

オーナーは早速本人に連絡し、事情を尋ねたそうだ。するとAさん曰く、これまで個人事業主だったものが、いわゆる「法人成り」したとのことだった。

「おかげさまで仕事が軌道にのり、収入が増えてきました。そこで、税金や対外的な信用性など、いろいろと考えて法人の肩書を持つことにしたんです。ただし、業務の実態はこれまでと全く一緒です。部屋の中で私ひとりが終日パソコンと格闘しているだけです。ただ、今後は会社名あての郵便物が増えるはずなので、郵便受けと部屋のドア横のプレートに、私の苗字とともに社名も表示させていただきました」

これを聞き、なるほどそうだったかと、オーナー一旦ひと安心。ところが……

「では、これからもがんばってください」

物分かりよさそうにそう応じたものの、実のところどうも気分がよくない。なぜならば……

「う~ん、ひとこと相談してほしかったな。社名を掲げた部屋があると、まるで人の出入りが頻繁なうるさいマンションに見えてしまう。入居者募集に影響が出なきゃいいが」

それに加えて……

「法人成りしたということは、部屋を勝手に商業登記したということだ。私の方に現状影響はないだろうが、そこも気分が悪い」

さらには……

「それに待てよ。これってよく考えたらAさん個人から設立した会社への物件の無断転貸にあたるんじゃないか。つまり、歴とした賃貸借契約違反だ。がんばってくださいどころか、本来ならば契約を解除されても仕方のない行為なんじゃないのか?」

苦虫を噛み潰すような思いがムクムクと湧き上がってきているオーナー。このことについて、少し考えてみよう。

契約違反であり、法律にも抵触

結論からいうと、上記のAさんの行為は、オーナーが「待てよ」と想像したとおり、契約違反であるとほぼ判断されるはずだ。

どの建物賃貸借契約書でも条文に必ず定められているとおり、このマンションにあっても、「借主は、貸主の承諾を得ることなく、本物件の全部または一部につき、賃借権を譲渡してはならず、転貸してはならない」旨、はっきりと書かれている。

加えて、契約違反のみならず、この行為は法律違反にもあたる可能性がきわめて高い。上記条文の根拠といえるものだが、民法第612条には以下のように記されている。

(第1項)
「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」

(第2項)
「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」

このとおり、「契約を解除されても仕方のない行為では」とのオーナーの疑問に対しては、「そのとおりです」との答えに通常はなるだろう。

すなわち、Aさん個人とAさんが設立した会社は、実体はどちらもAさん本人だが、法的な主体としてはこれらはあくまで別個のものだ。

よって、Aさんの会社は、現状、Aさんとオーナーとの間に結ばれている賃貸借契約の当事者とはいえない状況だ。なので「無断転貸にあたる」も、もちろん正解といっていいだろう。

ただし、今回はオーナーがAさんに対し事情を尋ね、その答えを聞いた時点で部屋の継続使用を「これからもがんばって」と認めている。そのため、事後承認のかたちですでに無断転貸は解消されている状態だ(なおこうした際、オーナーによる書面での承諾を条件とするケースもある)。

さて、そうしたわけで今回、Aさんの行動がいささか癪に障ることとなったオーナーは、部屋の継続使用を認める以前の段階であれば、「勝手なやり方は困る」とAさんに対し契約解除を迫り、退去させることはできたのだろうか……?

その答えは、ほぼ無理だろう。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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