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「ぼっち」の賃貸生活を楽しくする――誰もやらないけれどやってみてよかったこと

朝倉 継道朝倉 継道

2021/07/02

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イメージ/©︎elsar77・123RF

一人暮らしは楽しいけれど寂しく緊張も絶えない

賃貸住宅での一人暮らし。それをしている人によって、いろいろな想いがあるだろう。

まずは、「楽しい」だ。理由は「自由であること」と語る人が多い。学生など若者だけでなく、例えば、離婚し、一人暮らしをはじめた40代の女性が、イキイキとそう語っているのも見たことがある。

さらに、「寂しい」。寒い冬の夜、残業疲れの重い体を引きずりながら誰もいない部屋に帰り、親から送られた宅配便の不在連絡票を手にする。涙がついこぼれ、床に……。そんなシーンも、賃貸一人暮らしにはつきものだ。

そして、これは案外自覚のない人も多いのかもしれない。「緊張」だ。職場との往復を重ねる毎日。一歩部屋を出れば、そこは家族も友人も知り合いもいない、不安な世界。隣室、上下階、窓の外、ドアの向こう、物音がするたび、それはつねに警戒の対象となる。心が一番休まるはずの自分の家なのに……。

そんな、一人暮らしのシーンのうち、「寂しい」や「緊張」は、できれば誰しも極力少なくしたいものだ。

そこで、この記事では、賃貸一人暮らしの「寂しい」「緊張」を少しでも払拭するための2つの提案を示したい。ただし、これはかなり変わった提案だ。現実感を持てない人も多いだろう。「そんなことホントにやる人いるの?」と、多分、多くの人が思うにちがいない。なので、ちょっとした夢物語として聴いてもらってかまわない。

ただ、実際にこれらを行い、毎日を楽しくした人物が身近にいるのだ。それは誰か?

私自身だ。

町内会に入りご近所は知り合いだらけに

賃貸一人暮らしをしながら、私は町内会に入ったことがある。

ちなみに、町内会や自治会といえば、多くの地域でいまは老人会だ。なので、そのとき私はすでに結構な歳になっていたが、「若者だ。珍しい」ということで大いに歓迎された。

入ると、環境は一変した。住んでいる小さな賃貸マンションの、お向かいも、お隣も、斜め向かいも、そのまた隣も、すべての家の方が、皆さん顔見知りとなった。

朝昼、出かけようとエントランスをくぐれば、「いってらっしゃい」の声が近くの庭から聞こえてくる。

夜道を帰ってくれば、「おかえりなさい」の声が、これから散歩に向かう飼い犬のうれしそうな吐息とともに、お隣の玄関から響いてくる。

要は、つねに見守られているということ。何かあれば、助けを求め、飛び込める場所が、自分の周りにいくつもできたのだと、そのとき深く実感した。見知らぬ土地に一人で暮らしていて、こんなに心強いことはなかった。

逆に、ご近所の方からも、私は大変感謝された。

「誰が住んでいるのか、得体の知れない集合住宅がそばにあるのがこれまで不安だった。顔見知りがいると本当に安心だ」

そのため、私がこの物件から引っ越すことになった際は、皆さんが別れを惜しんでくれた。

冬の夜、一緒に防犯防火の夜回りをしたり、春夏、共に路上清掃に汗を流したりした皆さんとは、いまも交流が続いている。

物好き? おせっかい? 物件の掃除を買って出た

賃貸住宅に暮らしていて、何かにつけ「管理会社の対応が遅い」「掃除が雑だ」など、ストレスを感じている入居者は、それこそゴマンといるだろう。

私も、かつてはそのひとりだった。「何のための管理費〇千円だ」と、腹を立てることも多かった。

そこで、ある物件に暮らした際、私は発想を変えてみた。一入居者の立場ながら、汚れた共用部分の清掃を自ら始めてみた。

ただし、嫌味やあてつけに取られても困るので、管理会社には初めに申し出た。

「私の部屋の前の廊下に土ぼこりが溜まっているので、担当の方が次に来られる前に、私が軽く掃除させてもらってもいいですか」と、いった感じだ。

次いで、徐々に手を出す範囲を広げていった。エントランス、階段、駐輪場と、「汚れていたら勝手にやらせてもらいますね」を進めていったわけだ。

そのうち、共用水栓を開け閉めする許可ももらい、放置物や落し物があれば保管場所にしまい、管理会社に連絡し、処理を引き継ぐといった流れもこしらえた。さらには、切れた電灯の取り替えも買って出た。

ただし、これらはもちろん無償のボランティアだ。箒も、デッキブラシも、ゴミ拾い用の火ばさみも、すべて自分で買い、出費した(替えの電灯は一旦立て替え払い)。

しかし、これをしたことでのリターンは少なくなかった。まず、何よりもストレスが生じない。

「あそこが汚れていて不快だ」のストレス、「いつになったら掃除しに来るんだ」のストレス、さらには清掃後の「全然キレイになっていないじゃないか」のストレス……。

まさに「あるある」な、3重のストレスを自らの手で冒頭から葬ってしまえるのは、ある意味、快感だった。昔テレビでよく耳にした「暗いと不平を言うよりも、すすんで明かりを点けよう」の意義が、実によく分かったものだ。

さらには、コミュニケーションが増えたのもうれしかった。

掃除の最中、たびたび出会う同じ物件の入居者たち、連絡を取り合う管理会社の担当者(と、思っていたら社長だった)、さらにはエントランスで顔を合わせるご近所の方……と、さまざまな人と知り合うことができた。

あるとき、私の姿を見て「管理人が住み込み始めた」と思った近隣の人が話しかけてきた。

「おたくの玄関前によく停められている車のことで、相談があるんだけど……」

そうなのだ。さきほど記した町内会への入会は、実は、これがきっかけだった。

賃貸住まいは、本当は地域に飛び込みやすい

以上、「『ぼっち』の賃貸生活を楽しくする、誰もやらないけれどやってみてよかったこと」をまったくの私的な体験にもとづいて書いてみた。

なお、幸いにして、私はこれまで経験したことはないが、住まいとその近隣をめぐる人間関係については、もちろんよいことばかりではない。リスクもある。

隣人との思わぬ軋轢や対立を抱え、深刻に悩んでいる人も、全国津々浦々には少なくないはずだ。

そのうえで、ちょっとズルい考えかもしれないが、ひとつ指摘しておきたい。

賃貸住宅に住む人は、もしも嫌になれば、そういった面倒な人間関係を捨ててその場を離れるのは簡単であるということだ。つまり、環境を変えやすいのが賃貸住宅のメリット。

そう。裏を返せば賃貸住宅の住人のほうが、地域のコミュニティには気軽に飛び込みやすいのだ。このことは、多くの人がいまは忘れているが、古い人はぜひ思い出してみてほしい。

はるか昭和の昔や、もっと過去の人々など、メリットとしてこれを十分に享受していたといえるだろう。

 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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