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【家族信託活用事例】一般社団法人と信託の組み合わせ――先祖伝来の財産を分散させないで守るために

谷口 亨谷口 亨

2020/03/17

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イメージ/©︎belchonock・123RF

都会で暮らしていても、田舎に親から引き継いだ不動産をたくさん所有している方がいらっしゃいます。

先代、先先代はいわゆる地主さんで、こうした方々の多くは相続税や固定資産税対策のためにアパートや駐車場を経営されています。そして、「土地は代々受け継ぐもの」という考えを持ち、どうにかうまく次の世代に渡すことに注力しています。

ただ、時代も変化し、子どもの代になると考え方も変化しています。家族との話し合いの時間を十分に取る必要があますが、世代間で考え方が違う、そんな事例をご紹介していきましょう。

相談者=小林 和夫さん(仮名)75歳。
相続人は妻、長男、次男の3人。

 

<相談のやりとり>
小林:今は東京に住んでいますが、実家が長野にあります。地元では古い家で、私で18代目。先祖伝来の家屋敷の敷地も、田畑もかなりありますし、亡くなった私の親がずいぶん不動産を持っています。そういった資産を全て長男の私が相続しています。

谷口:小林さんの長野のご実家は、現在どんな状態ですか。

小林:10年前に母親が亡くなってから空き家になっていますが、近くに住んでいる私の妹が週に一度は実家へ行って、風を通してくれたり、家の管理をしてくれています。家墓もあるので、そこも妹がよく見てくれています。私名義ですので、どこか傷んだりして直すときは、修繕費などは私が払いますが、私は年に1~2回、行くくらいです。

谷口:妹さんは、まったく相続されていないのですね。

小林:ええ、先祖代々の土地屋敷は長男にすべて継がせていました。

谷口:その長野のご実家や資産をどうするかということでしょうか。

小林:はい。私には妻と息子2人がいます。しかし、息子たちは長野の家になんの思い入れもないのです。妻も病弱で、どうしたものかと。私自身は長野の家は、先祖からバトンを受けて、私が預かっていると思っています。代々受け継いできた資産ですから、簡単に処分するわけにはいきません。次世代へ、きちんと引き継ぎたい思いです。ただ、相続税の支払いもあるし、思い入れのない不動産を管理していかなければいけないことも息子たちに負担になると思うのです。そうなれば処分したいと考えるでしょう。

そこで私もいろいろと勉強して、長野の資産を一般社団法人にして残すのはどうかと思ったのです。

谷口:一般社団法人に信託することを考えたわけですね。

小林:ええ、このまま相続が発生して、妻や息子たちで分割するというのは困ります。田舎の資産はひとまとめにしておきたい。今、息子たちは長野の土地屋敷には興味がないようですが、いずれ定年でも迎えると気持ちが変わるかもしれませんし。

谷口:社団法人の理事には、どなたをお考えですか。

小林:妹です。ただ、妹も71歳ですから、うちの息子たちや妹の子どもたちにも理事として関わってほしい。

谷口:息子さんたちには話されましたか。

小林:長男には話しました。長男が次男に話してくれています。

谷口:小林さんが一番気になっているのは、長野の土地と家の行く末ということですね。

小林:そうです。そして、長野の家賃収入などは、いずれ長男の子に行くようにしたいのです。

谷口:そのことを信託契約の内容に記したいというわけですか?

小林:いずれその孫に理事になってもらいたいからです。また、長男は一度離婚していて、そちらにも1人子どもがいます。まあ、いろいろあったので、何があってもそちらに財産を渡したくないという気持ちがあり、そこも何かできれば。


<相談の要点>
・一般社団法人を設立して、長野にある家と土地、収益不動産をすべて信託する。理事は妹にしたい。
・一般社団法人に入る収益の一部を、長男の子に行くようにしたい。
・長男の前妻とその子には、財産を渡したくない。

<提案>

・妹さんを理事に、息子さん2人を社員にした一般社団法人を設立し、長野の資産はすべて社団法人に信託する。
・社団法人の財産の使い道を決めるときに、受益者の中に長男の子の名前を入れ、「その子のために使う」という仕組みを作ります。
・小林さんの預貯金、東京の自宅の一部を遺留分のある次男の子どもたちに生前贈与する。

<提案のポイント>
1)一般社団法人を受託者にするには、設立時社員2名以上/理事1名以上で可能/配当の分配は不可/という条件があれば簡単に設立できます。社員の地位は相続できないので、都合の悪い相続人に社員の地位を相続されることはありません。

2)次男には2人の子どもがいて、1人は現在体調を崩して自宅療養中。社団の名義にすると、自分がもしも将来お金に困ることがあった場合も、お金はもらえないのか不安になっています。父と息子、兄弟の仲が良くても実際に相続の話になると、将来への不安から金銭はできればもらっておきたいとなるものです。
そこで次男の子どもたちには、小林さんの預貯金から非課税枠を使った生前贈与を提案しました。

3)長男の資産に対しては、先妻の子に遺留分が残ります。しかし社団に信託された長野の不動産は、長男が相続することはありませんので、先妻の子にいくことはありません。

<一般社団法人への信託の特徴>
今回のケースのように、信託の受託者は個人でも法人でもなることができます。家族の資産を長期的に財産管理することを検討している場合は、親族間で一般社団法人を立ち上げるのも一つの方法です。

一般社団法人を受託者にして、相続人の全員を理事におくことで、複数人による意思決定になりますから財産を公明正大に管理できるという利点があります。また、社員の資格を例えば「〇〇家の親族」などと規定することで、親族以外の第三者の関与を排除することができます。

ちなみに個人が受託者になった場合は、受託者が死亡した場合、新たな受託者を選任しなければなりません。もしも、受託者がかけたまま新受託者が決まらない状態が1年間継続した場合は、信託法により、信託が終了してしまうという心配がありますが、一般社団法人は社員2名がいればいいのです。社員の数が足りなくなる場合は、新たに社員を加入させれば可能です。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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