住宅ローンの一括返済はおすすめできる? 得するケース、損するケースをプロが検証
牧野寿和
2017/09/12
住宅ローンの一括返済とは?
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住宅ローンの一括返済とは、現在融資を受けている住宅ローンの残高を一度にすべて返済して、借入金を完済することで、全額繰り上げ返済ともいいます。
一括返済の手続き方法は、金融機関によって違いがありますし、返済額の計算方法も住宅ローンの金利タイプによって違います。また、一括返済は繰り上げ返済になるため、手数料がかかります。まずは融資を受けている金融機関に問い合わせをしてみましょう。
一括返済のメリットは?
一括返済にはメリットとデメリットの両面があります。たとえば、一括返済することで、支払う金利がなくなるのはメリットですし、住宅ローン減税が受けられなくなることはデメリットです。
人によって、現在の家計状況も違いますし、将来の家計収支も違ってきますから、一括返済をすることで得られるメリットとデメリットのどちらが大きいかは一概には言えません。
そこでまずは、一般論としての一括返済のメリットとデメリットについてお話ししたいと思います。まずはメリットから見ていきましょう。
(1)金利負担が軽減される
住宅ローンを完済することで、利息の支払いがなくなります。一括返済しなかったとしたら、将来的に支払うはずだった金利分の負担がなくなり、家計の負担も軽減できます。
(2)保証金が戻ってくる
住宅ローンを借りるときに、保証料を一括で支払う契約をした人の場合には、保証金が返戻される場合があります。このお金のことを「戻り保証金」といいます。
ただし、保証金が戻ってくるかどうかは一括返済を行なう時期によるので、返済期間が末期になると、戻り保証金がない場合があります。
(3)心理的な負担が軽減される
借金を背負っているという心理的な圧迫から解放されるという人もいます。家計には直接関係ないかもしれませんが、心に安らぎをもたらしてくれるメリットがあります。
一括返済のデメリットは?
次に一括返済のデメリットについても見てみましょう。
(1)手持ちの現金が減ってしまう
一括返済に手持ちの資金を使ってしまうと、完済後の家計収支が回らなくなることがあります。
たとえば、手持ちの現金が減ってしまい、その後の子どもの教育費などにあてる現金がなくなってしまった場合、住宅ローンよりも金利が高い、教育ローンを借りなくてはならなくなることもあり得ます。
(2)一括返済の手数料がかかる
金融機関によっては、一括返済の手続きに手数料がかかるところがあります。なかには、通常の繰り上げ返済をする場合の手数料は不要でも、一括返済をする場合には手数料がかかる金融機関もあります。また、手数料の額は金融機関ごとに違います。
実際に一括返済をする場合は、手数料について事前に金融機関に確認をしておきましょう。
(3)住宅ローン控除が受けられなくなる
住宅ローンを借りている人の多くは、住宅ローン控除の適応を受けています。これは、年末の住宅ローン残高の1%にあたる金額が、10年間にわたって、最大400万円まで所得税額から控除される制度です。
仮に、住宅ローンを借りて住宅ローン控除を受けていても、たとえば借り入れから5年目の年の途中で一括完済をしたら、借入残高がなくなり、その年の年末以降は住宅ローン減税を受けられなくなります。
なお、一括返済をした場合に軽減できる利息の額が、住宅ローン控除で受けられる減税額を超えるのであれば、一括返済のほうが得ということになります。逆に、軽減できる利息の額が減税額よりも小さいのであれば、一括返済はしないほうが得と言えるでしょう。
一括返済すると団体信用生命保険もなくなる
なお、一括返済をして手持ちの現金がなくなってしまった後に、夫もしくは妻が亡くなる、もしくは病気になるなどして、収入が途絶えたときのことを心配する人がいらっしゃいます。
ローン返済中であれば、多くの場合は団体信用生命保険(団信)に加入しているので、保険金が支払われて住宅ローンの残債はゼロになります。
ですが、団信はあくまで住宅ローン返済中のリスクに対応するための保険です。一括返済すると、当然、保険期間は終了します。
したがって、住宅ローン返済の時期を問わず、団信とは別に必要に応じて、万が一のときの遺族の保障や、病気やケガをしたときの収入保障のための保険などに加入しておくべきでしょう。
一括返済でどれくらい利息が軽減できるのか
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では、住宅ローンを当初の予定通りの期間で返済した場合と、途中で一括返済をした場合を比較してみましょう。
借り入れの条件は次の通りとします。
・住宅ローン借入額:3000万円
・35年間固定金利
・金利:年1.0%
・毎月の返済額:8万4686円
借入れから15年後に一括返済した場合と、25年後に一括返済した場合では、10年間で利息の支払い額の差は約142万円(507万円−365万円)になります。同様に25年後と35年後では約49万円(556万円−507万円)です。
借入れから25年後くらいになると毎月の返済額のうち、利息よりも元本分が占める割合が多くなります。つまり、返済も後期になると、同じ10年間の差があっても利息の負担額の差は小さくなるということです。
早期に完済したほうが、住宅ローン控除の恩恵を受けつつ、実質の利息の支払い額が軽減されることがご理解していただけるでしょう。
ですが、やみくもに早く返すことが必ずしも正解ではなく、上で述べたように将来に発生する子どもの教育費の負担や老後資金の準備についても考えた上で判断しなければなりません。
一括返済で得するケース、損するケース
また、手元の資金を返済に回すのではなく、運用に回すことも検討することをおすすめします。これだけの低金利ですから、住宅ローンの金利以上の利回りで運用することは決して不可能なことではありません。
たとえば、借入れから25年目の時点で、一括返済を行なうと、必要な資金は974万円です。
仮に、この時点で手持ちの現金が974万円あった場合、このお金を使って一括返済するか、それとも一括返済ではなく、老後の生活費を含めた資産形成のための運用に回したほうがいいのか、どちらがいいのでしょうか。
仮に、一括返済は行なわず、35年目まで10年間、毎月8万4686円を返済していくと、10年間の返済額は約1016万円(8万4686円×12カ月×10年)になります。
25年目で一括返済した場合よりも、10年間で42万円(1016万円-974万円)の利息を多く支払うことになりますが、10年間の運用でそれ以上の成果を得ることができれば、一括返済ではなく運用を選択するメリットがあったということが言えるでしょう。
どのような選択をするか、将来の設計を含め慎重に検討をすることが大切です。
一括返済してもいい条件とは?
一括返済をすることが家計のためにも有効なケースは、主に次のふたつに限られています。
(1)住宅ローン契約当初から一括返済をする時期を決めて、計画的に資金を貯めて実行する場合
(2)相続や贈与で当てにしていなかったまとまったお金が手に入った場合
(1)の場合でも、上記の表のケースで言えば、「住宅ローン返済25年目に974万円貯めて完済する」と当初から決めていても、実際に一括返済を行なうときには、住宅ローン契約時とは家計や景気も変わっていることも考えられます。
その時点で改めて、将来の家計収支をシミュレーションしてから実行するかどうかを決めることが必要です。
また、退職金を住宅ローンの一括返済にあてたいと相談を受けることがありますが、退職金が入ってくる時期は、通常、上記の表の25年目以降にあたります。ここで老後の生活資金である退職金を使って、住宅ローンの一括返済をするのは賢い選択と言えるでしょうか。
お客さまからのご依頼で、退職金利用のシミュレーションをすることがありますが、すでに公的年金のほかに老後の生活のための資金を準備している人以外、退職金を住宅ローン返済に使うことは、おすすめできません。
住宅ローンは完済できても、70代後半や80代になってから生活資金が枯渇してしまう結果が多いからです。
一度返済してしまったら、そのお金は戻ってきません。繰り返しになりますが、一括返済をする時は、将来の家計収支を確認してから実行することが大切です。
この記事を書いた人
CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士
1958年名古屋生まれ、大学卒業後、約20年間旅行会社に勤務。出張先のロサンゼルスでファイナンシャルプランナー(FP)に出会い、その業務に感銘を受け、自らもFP事務所を開業。 その後12年間。どの組織にも属さない「独立系」FPとして、誰でも必要なお金のことを気軽に考えてもらうため「人生を旅に例え、お金とも気楽に付き合う」を信念に、日本で唯一の「人生の添乗員(R)」と名乗り、個別相談業務を行なうとともにセミナー講師として活動している。 また、賃貸不動産の経営もしており、不動産経営や投資の相談にも数多くのアドバイスやプランニングをしている。