金利や手数料は本当に安い? 安易にネット銀行の住宅ローンを選んではいけない4つの理由
横山晴美
2017/02/09
ネット銀行が扱う住宅ローンの特徴は?
ネット銀行の住宅ローンは、一般的に金利が低く、諸経費も安いとされています。これは、借りる側にとっては喜ばしいことですが、金銭的なメリットの裏には、注意しなければいけないことがあるかもしれません。
そこで、ここではネット銀行の住宅ローンの「お得度」を多方面から検証してみたいと思います。
一般的にネット銀行の住宅ローンは、実店舗のある金融機関より金利が低くなっています。また、保証料と繰り上げ手数料、そして団体信用生命保険料も無料であることが多いです。各諸経費について、メガバンク(注1)と比較しながら見てみましょう。
(1)金利
ネット銀行のほうが金利水準は低くなっています。ただし、メガバンクもキャンペーンや自己資金が豊富な人向けの優遇金利などで、低金利を実現している場合もあります。
(2)保証料
多くのネット銀行は無料ですが、メガバンクは有料です。保証料を支払う場合、金利に0.2%程度上乗せされる金利上乗せ型と、同程度の金額を当初支払う一括前払いの方式があります。
(4)事務手数料
ネット銀行の事務手数料は、定率制ならば融資額の0.1~0.2%、定額制の場合は「一律32万4000円」程度が多いです。メガバンクの場合は保証料が多い分、事務手数料は「定額3万2400円」程度と定額になるのが傾向です。
(5)繰り上げ返済手数料
両者ともに無料の場合が多いですが、メガバンクについては「インターネットバンキング利用時のみ」などの条件があることも。
(6)団体信用生命保険
死亡・高度障害を担保する基本保障については、両者ともに無料というところが多いです。
ネット銀行では差別化のため、死亡・高度障害以外にがん診断時や特定の病気になると住宅ローンが軽減、もしくは完済される特約を無料でつけられるケースもあります。
一方、メガバンクでそうした特約をつけると金利が0.1〜0.3%程度上乗せされることが多いのですが、怪我や失業時など保障を幅広くする方向で差別化を図っているようです。
こうして見てみると、金利と保証料については、ネット銀行のほうがお得度は高いという結果になりそうです。また、団体信用生命保険はニーズ次第ですが、安さだけを追求するならばネット銀行に軍配が上がりそうです。
ネット銀行では借り入れのときに高めの事務手数料がかかる傾向にありますが、それさえ注意すれば毎月返済額は抑えることができるかもしれません。
(注1)ここでのメガバンクは「りそな、みずほ、東京三菱UFJ」の3行をベースにしています。
低金利や手数料が安い理由は?
なぜネット銀行は金利や手数料が安いのでしょうか?
ネット銀行は、実店舗を持たず、インターネットで送金や振込を行ない、現金による引き出しや入金はコンビニや他行のATMを利用します。地代や人件費、サービス費などを削減することとで、低金利を実現しているとされています。
しかし、その半面、コストを削ることで生じる弊害も指摘されています。そう考えると、金利や手数料が安いからという理由だけでネット銀行の住宅ローンに飛びついてしまうのは考えものです。
ネット銀行の住宅ローンを簡単におすすめできない理由として、一体どのような弊害があるのか見てみましょう。
<理由1>申し込みや手続きの手間が大変
ネット銀行は、郵送、もしくはインターネット上で手続きが完了します。来店の手間が省けること、店舗の営業時間にとらわれないですむことはメリットですが、手続きに必要な準備はすべて自分でしなければなりません。
たとえば、記入用紙を準備するにしても自分でインターネットから書式をダウンロードして印刷しなければいけない、という手間がかかります。
また、記入のしかたがよくわからない場合、対面であれば、不安な個所は何も書かずに白紙で持ち込んで、担当者に教えてもらいながら記入することもできるでしょうが、ネット銀行はそれもむずかしいです。
<理由2>わからないことや疑問点が解消しにくい
コールセンターのオペレーターが優秀ならば担当者がいなくとも問題ない、という意見もあります。筆者はよくネット銀行のコールセンターを利用しますが、電話が必須のネット銀行だけにつながりやすく、かつオペレーターの質も高いように感じます。
しかし、電話での対応に限界があることは否めません。たとえば、相談したい内容を端的に伝えることができないと、正確な回答を得られないこともあるでしょう。また、専門用語に詳しくないと、オペレーターが説明する内容を完全に理解するのはむずかしいかもしれません。直接、顔を合わせて話せばスムーズに話が進むことでも、電話だと思わぬ手間や時間がかかってしまうこともあります。
そのほか、書類を見ながら話すことや、家族と一緒に話を聞くことがむずかしいといったことも、電話対応の限界といえるでしょう。
<理由3>審査に融通が効かない
もうひとつ大事なポイントとして、ネット銀行は審査が厳しいと言われていることがあげられます。
審査基準は非公開なうえ、金融機関ごとに異なるものなので断定はできませんが、書面でのみ審査を行なうネット銀行は基準に幅がないとされているのです。
たとえば、入院や子育てなどで有休休暇を使い切ってしまったなど、何らかの事情で欠勤してしまい、給与所得が下がってしまうこともあるでしょう。
そのような場合でも、対面であれば給与が下がった事情や背景を考慮してもらうことができるかもしれませんが、所定の書面だけで審査するネット銀行では、考慮のしようがありません。
こういった審査の柔軟性の低さが「審査が厳しい」といわれる理由なのかもしれません。
<理由4>低金利時代のいま、金利差の影響力は小さい?
低金利時代のいま、ネット銀行に限らず、どこの金融機関でも金利水準は低くなっています。その点では、金利差が総返済額に与える影響は小さいといえるでしょう。
たとえば3000万円を35年ローン、金利1%で借り入れたときの毎月返済額は8.5万円ですが、同じく3000万円を35年ローンで、金利だけ0.8%に引き下げた場合の毎月返済額は8.2万円とその差は3000円程度です。もちろん、総返済額にすると116万円の差にはなりますが、3000万円ものお金を借り入れるにしては、金利差は少ないといえるのではないでしょうか。
全体的に低金利のため、金利だけで善し悪しを判断すると、結果的に思ったほどそのメリットを享受できない可能性も高いです。諸経費や手続きの煩雑さ、問い合わせへの対応の善し悪しなども含めた総合的な判断が必要になります。
ネット銀行が向いている人はどんな人?
とはいえ、上で述べた4つの理由がすべての人にあてはまるわけではありません。
たとえば、『申し込みや手続きの手間が大変』という点については、自宅にPCやプリンターがあり、普段からインターネットに親しんでいる方なら苦にならないでしょう。
ネット銀行特有の『わかりにくさ』についても、情報収集を自ら行なえる人ならば問題になりません。そう考えると、ネット銀行は、インターネットやPC操作に抵抗感がなく、主体的に住宅ローン選択をしたい人に向いているといえるでしょう。
【フラット35】を借りるならネット銀行はおすすめ?
ところで、超低金利時代の住宅ローン選びでおすすめの金利タイプといえば、全期間固定金利型です。金利がずっと変わらないので、返済計画も立てやすく、低金利の恩恵を返済終了まで受け続けることができます。
たとえば、今後、教育費がかかる時期の家庭などは、毎月返済額が低く、かつ上昇の心配がない全期間固定金利型の住宅ローンを活用する意義は大きいでしょう。
そこで、全期間固定金利型の住宅ローンの代表である【フラット35】をネット銀行で利用する場合のメリットを考えてみましょう。
まず、【フラット35】は、返済中に金利変更の手続きがありません。そのため、変動金利や期間選択型固定金利と比較して、窓口がないネット銀行を利用しやすいと言えます。
また、金利についていえば、メガバンクなどに比べてネット銀行のほうが若干低い傾向にあります。
こう考えると、【フラット35】の利用を決めている人で金利を少しでも安くしたい人、そのためにはネット銀行特有の手続きの手間や審査に融通が効かないといった点が気にならない人にはおすすめと言えるでしょう。
改めて、ネット銀行は本当にお得なのか?
ここまで、ネット銀行の特徴や金利や手数料が安い理由などを見てきましたが、ここで改めて、ネット銀行は本当にお得といえるのか、ネット銀行の「お得度」を総合的に考えてみたいと思います。
まず、先ほど事務手数料についてご説明しましたが、そこからもわかるようにネット銀行では初期費用が高いケースがあります。
また、団体信用生命保険が任意加入の場合もあるので、事前にどういったローンなのか、ホームページやコールセンターにてしっかり確認する必要があります。
団体信用生命保険に関しては、十分な生命保険に加入している、資産が多い、という場合は加入は不要かもしれません。しかし一般的には保障機能は必要でしょう。見た目の金利が低くとも、必要な機能が備わっていないとしたら「良い住宅ローン」ではありません。
また、ネット銀行は、住宅ローン商品のラインナップも限られていることが多いです。商品数を絞ることもコスト削減につながるからでしょう。
最終的に選ぶ商品はひとつなので、少ない商品でも構わないのかもしれませんが、大きな買い物ですので、複数の商品から比較検討したいと考える人は多いのではないでしょうか?
今回のまとめ
以上見てきたことから考えれば、最初から「ネット銀行は金利が安い」と決めつけてはならないということがいえるでしょう。同じように「メガバンクだから親切」という思い込みも危険です。
十分に調べたり、話を聞いたりする前から、「信頼感が違うからメガバンクがいい」とか「金利や手数料を考えたらネット銀行だ」などと選択肢を限定してしまうのは危険です。
最後に、ネット銀行に限らず、住宅ローンを選ぶときの2つのポイントをお伝えしておきましょう。
<ポイント1>実質金利で判断する
諸経費を含めた実質金利で判断するようにしましょう。金利を低く設定している分を、事務手数料という形で徴収していれば、実質金利は低いとはいえないかもしれません。ネット銀行だからといってすべからく金利が低いわけではないということです。
<ポイント2>表面的な利便性にとらわれない
先にご説明したように書式をダウンロードして印刷するなどの手間を考えれば、ネットを介することが必ずしも利便性を高めるわけではありません。「ネットで手続きがすむ」といった表面的な利便性ではなく、申し込みの手間や返済時のフォローなど、実質的な利便性を検証したいところです。
仮に金利が低いことを住宅ローン選びの最優先事項にするならば、後から「手間や初期費用を含めたら、思っていたよりメリットが少なかった」ということにならないよう、金利を優先しつつも、それ以外の費用や手間についても検討した上で申し込むようにしましょう。
この記事を書いた人
ライフプラン応援事務所代表
ファイナンシャルプランナー(AFP)、住宅ローンアドバイザー。企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。 「自分の家計は自分で守る」をモットーに、丁寧でわかりやすい面談が好評。 また、給付金や控除など、消費者のための制度を調べるのが得意で、「ここが使いにくい」「誰のための制度なのか」などとケチをつけるのが好き。