ファイナンシャル・プランナーが、自分のお客さんに変動金利型をおすすめしない本当の理由とは?
牧野寿和
2016/08/02
住宅ローンの金利タイプは大きく3つ
前回、超低金利時代の住宅ローンは、全期間固定型がおすすめとお話ししました。今回は、住宅ローンの金利にはどのようなタイプがあるのか、改めてご説明しておきましょう。
住宅ローンの金利タイプは大まかに分けると、
(1)全期間同じ金利が適用される「全期間固定金利型」
(2)半年ごとに金利が見直される「変動金利型」
(3)一定期間金利を固定する「固定期間選択型」
の3つのタイプがあります。
低金利の恩恵を最大に受けられる「全期間固定型」
全期間固定型は、住宅ローンを借りている全期間の金利が変動しないタイプで、完済までの毎月の返済額を一定にすることができます。代表的なものとしては「フラット35」がありますが、民間ローンのなかにも、全期間固定型の商品を扱う金融機関が出てきています。
全期間固定型は、借り入れ時に総返済額が決まり、金利上昇のリスクがないため、安定した返済計画を立てやすいという特徴があります。ただし、将来的に金利が大きく下がっても、 借り入れ時の金利で支払いを続けることになります。
とはいえ、いまは未曾有の超低金利時代。これ以上、金利が大幅に下がることは考えにくいでしょう。ということは、このタイプは返済完了までの間、超低金利の恩恵を受け続けられるわけで、私としてはぜひおすすめしたいところです。
「変動金利型」は半年ごとに金利を見直す
次に変動金利型は、返済期間中に金利が変動するもので、半年ごとに金利が見直されるのが一般的です。
毎年3月1日、9月1日の指標金利を基準として、それぞれ4月1日〜9月30日、10月1日〜翌年3月31日までの適用金利が決定されます。借り入れ時の適用金利については、 毎月見直すところと、半年ごとに見直すところがあります。
このほか、非常に数は少ないですが、変動金利型の住宅ローンのなかには、金利上昇に上限を設けた「上限金利特約付き変動型(キャップローン)」というものもあります。これは、どんなに金利が上昇しても、あらかじめ設定した上限金利を超えることはありませんが、初期に設定される金利は高めとなります。
一定期間だけ固定金利になる「固定期間選択型」
固定期間選択型は、当初の一定期間を固定金利にするタイプです。固定期間が終了した後は、その時点での変動金利型の金利水準が適用されます。しかし通常は、その時点で再び固定金利選択型を選ぶこともできるようになっています。
固定金利の期間は、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年など、幅広く選択肢が用意されており、固定金利の期間が短いほど金利は低く設定されています。なお、変動金利型を一度選ぶと、再び固定金利型を選べない商品もあるので注意してください。
固定期間選択型については、固定期間が終了した時点の金利水準が、借り入れ時より下回っていればいいのですが、そのときに金利がどうなっているかは誰にもわかりませんし、現在の金利水準を考えるとそれはむずかしいと考えるのが無難でしょう。現在より金利が下がる見込みよりも、金利が上昇するリスクを重く見るべきだと考えます。現時点では、この固定期間選択型を選ぶメリットは見当たらないように思います。
住宅ローンの金利はどう決まる?
ところで、住宅ローンの金利はどのように決められているのでしょうか。
住宅ローンの金利を決める指標は、固定型か変動型かによって異なります。まず、固定型の住宅ローンの金利ですが、これは長期国債の「新発10年物国債」を指標としています。国債とは国が発行する債券で、長期国債とは、償還期間が主に10年のもののことです。
長期国債の利回りは、将来の物価や金利の「予想」によって決まるため、近い将来、 金利や物価が上がると予想されるときには利回りも上昇することが多くなります。
一方、変動金利型の住宅ローンの金利は、「無担保コールレート・オーバーナイト物」の金利を指標として決められています。といっても、何のことだかわからないと思います。
「無担保コールレート・オーバーナイト物」とは、金融機関が日々の資金不足を最終的に調整し合う場であるコール市場において、金融機関同士が担保なしで、短期資金を借りて翌日に返済する取引のことです。
なぜ私は変動金利型をおすすめしないのか
先ほども全期間固定型の住宅ローンをおすすめしたいと申し上げましたが、ここでもう一度、変動金利型と固定金利型のどちらがおすすめなのか考えてみましょう。
借り入れた時点では、変動金利型の金利のほうが固定金利型より低くても、将来、金利が見直されて、逆に変動金利型が固定金利型の金利を上回る可能性もあります。その場合、固定金利型を選んだ人のほうが、総返済額で得をすることも起こり得ます。逆に現在の変動金利型の金利がずっと続けが、固定金利型を選んだ人は総返済額で損をすることになります。
このように、変動金利型は金利の変動リスクを借り手が負うタイプ、固定金利型は貸し手が負うタイプということもできます。この1点から考えても、借り手にとって、どちらが有利な商品なのかがわかるのではないでしょうか。
また、変動金利型の場合、住宅ローンを完済するまでにいくら払うのか、総支払額は金利水準次第で変動していきます。シミューレーションはあくまでもシミューレーションにすぎません。これから先、金利がどう変動するかは、誰にもわからないことです。
つまり、変動金利型を選ぶということは、「住まい」という一生に一度といってもいい大きな買い物なのにもかかわらず、その代金がいったいいくらなのかわからない状態で契約してしまうということなのです。
私は自分のクライアントに、そんなリスクを負うことをおすすめすることはできません。みなさんも、十分にリスクを検討して金利タイプを選ばれることをおすすめします。
この記事を書いた人
CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士
1958年名古屋生まれ、大学卒業後、約20年間旅行会社に勤務。出張先のロサンゼルスでファイナンシャルプランナー(FP)に出会い、その業務に感銘を受け、自らもFP事務所を開業。 その後12年間。どの組織にも属さない「独立系」FPとして、誰でも必要なお金のことを気軽に考えてもらうため「人生を旅に例え、お金とも気楽に付き合う」を信念に、日本で唯一の「人生の添乗員(R)」と名乗り、個別相談業務を行なうとともにセミナー講師として活動している。 また、賃貸不動産の経営もしており、不動産経営や投資の相談にも数多くのアドバイスやプランニングをしている。