将来のリスクを考えれば、住宅ローンは頭金なしでもいますぐ借りたほうがいい
牧野寿和
2016/05/10
団体信用生命保険とは?
民間の住宅ローンを借りる場合、団体信用生命保険(団信) への加入が必須となっています。基本的に銀行と保険会社が提携していて、ローン利用者は銀行を通して保険に入ることになります。
通常の生命保険が残された家族の生活のための保険であるのに対し、団体信用生命保険は住宅ローン返済に対する保険で、保険金の受取人は金融機関になります。これにより借り主が返済期間中に死亡・高度障害となった場合、遺された家族は残債の支払いを免除されるというしくみです。
同保険は基本的には一般の生命保険と変わりがありませんから、高血圧症、糖尿病、肝機能障害など、既往症によっては同保険に加入できず、結果として住宅ローンの審査に通らないことがあります。
そのため、現時点では健康状態に問題がなくて住宅ローンを組める人が、頭金を貯めている間に病気を患い、審査に通らなくなるリスクがあることも心得ておく必要があります。いうまでもなく、年齢を重ねるほど病気になる確率は高まります。たとえば、糖尿病の発症リスクが最も高いのは40歳代です。
最近では、加入条件を緩和した「ワイド団信(引き受け緩和型団体信用生命保険)」もありますが、ほとんどの金融機関で加入時の年齢制限が満40 歳未満で、住宅ローンの金利も0.1〜1.0%程度割高となります。
また、【フラット35】では、 団体信用生命保険への加入は融資条件となっていませんが、加入しておかないと、借り主に万が一のことがあった場合、家族が残債を引き継ぐことになります。
このようなリスクを負いたくない場合は、頭金なしでも組めるときに住宅ローンを組んでしまったほうが安心です。
転職や独立を考えている人は…
住宅ローンの審査には、収入面が影響することも忘れてはいけません。一定の年齢になって管理職になると、残業代がなくなり、収入が減るケースはめずらしくありませんし、子会社への転籍によっても同様のことが起こり得ます。
このようにいまなら借りられても、将来、置かれる状況によって、希望の融資額に届かなかったり、審査に通らなかったりすることも十分に考えられます。特に転職や独立を考えている人は、頭金ゼロでも現在の会社にいる間に住宅ローンを組んでしまったほうがいいかもしれません。
転職後1〜3年は原則融資しないと規定している金融機関もありますし、一般に自営業者は事業開始から3年以上経っていることが必要で、かつ会社勤めの人より審査が厳しくなります。
せっかく頭金を貯めても、肝心の住宅ローン審査に通らないのであれば、本末転倒です。ご自身のライフプランや勤め先等の状況をよく見きわめて、借りられるときに借りてしまうことも大切です。
団体信用生命保険の保険料は?
団体信用生命保険に加入することで、借り主が死亡・高度障害となった場合に住宅ローンの残債を保険金で賄えるというしくみは、賃貸にはない大きなメリットです。
賃貸暮らしであれば、万が一、一家の主がいなくなるような事態になると、毎月の家賃から見直さなければならないケースもあり得ます。けれども、住宅ローンを組んでいると、 団体信用生命保険によって最低限住み家は確保できるのです。
通常、保険料は銀行負担となります。ただ、実質的には住宅ローンの毎月の返済額のなかに保険料が含まれていると考えるのが妥当で、一般的には金利の0.4%程度が保険料に相当するといわれています。
つまり、大雑把にいって、残額が3000万円であれば、年間の保険料は3000万円×0.4%=12万円(毎月1万円)。
残額が1000万円であれば、1000万円×0.4%=4万円(毎月約3333円)ということです。
近年は格安の掛け捨て生命保険がいろいろ登場しているとはいえ、 30歳を超えてから保険に加入する場合、毎月の保険料はかなりの金額となります。それに比べると、団体信用生命保険の保険料は割安といえます。
保障範囲を広げたものも登場
団体信用生命保険の保障範囲は死亡・高度障害に限られますが、最近では、これらにプラスして、保障範囲を病気にも広げた三大疾病保障特約付団信、八大疾病保障特約付団信なども登場しています。
たとえば、三大疾病保障特約付団信では、死亡・高度障害はもちろんのこと、「がんと診断された」「脳卒中または急性心筋梗塞にかかり、日常生活に支障を来たす状態が60日以上続いた」場合など、約款上の条件を満たせば、残りの住宅ローンが全額ゼロとなります。保険料はローン利用者の負担となり、通常の金利に0.2〜0.3%上乗せする形で支払います。
なお、疾病保障特約をつける場合は、住宅ローンの申込時に選択しなければなりません 。また、返済期間中に特約をやめるなどの変更はできませんので注意してください。
もちろん特約も含めて団体信用生命保険のメリットは民間の住宅ローンを組めば享受できるもので、頭金ゼロの場合に限ったものではありません。ただ、頭金なしで早くから住宅ローンを組むことで、頭金を貯めている間に起こり得る死亡や疾病に対してのリスクヘッジが半ば自動的に行なえる点は見逃せません。
この記事を書いた人
CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士
1958年名古屋生まれ、大学卒業後、約20年間旅行会社に勤務。出張先のロサンゼルスでファイナンシャルプランナー(FP)に出会い、その業務に感銘を受け、自らもFP事務所を開業。 その後12年間。どの組織にも属さない「独立系」FPとして、誰でも必要なお金のことを気軽に考えてもらうため「人生を旅に例え、お金とも気楽に付き合う」を信念に、日本で唯一の「人生の添乗員(R)」と名乗り、個別相談業務を行なうとともにセミナー講師として活動している。 また、賃貸不動産の経営もしており、不動産経営や投資の相談にも数多くのアドバイスやプランニングをしている。