相続税対策の進め方を理解しておこう
高橋敏則
2016/02/22
相続税対策は財産を守るためのもの
所得税や法人税は、儲けに対してかかる税金ですから、入ってきたお金を使ってしまわないかぎり払うことができます。ですが、相続税は財産にかかる税金です。財産のある人なら、何千万円、何億円という単位で相続税がかかってきます。すべての財産を現金でもっている人などいませんし、相続税をぽんと払えるほどの現預金を持っている人などやたらといません。そのため、そのままでは税金を払えないということが少なくないのです。
そうなると、税金を払うために、それまで住んでいた自宅や仕事に使っていた事業用の財産を売却しなければならなくなります。しかも、土地や建物を売却すれば、売却時にはまた税金がかかります。節税対策をしていないと、どんどん財産が減っていくことになるのです。
相続がなければ何事もなく暮らしていけたのに、相続があったために住むところがなくなったり、これまで続けてきた仕事ができなくなったりという悲劇は何としても避けなければなりません。
一方で、相続税には節税の余地がかなりあります。たとえば、資産2億円くらいであれば節税対策を行なうことで相続税をゼロにすることもさほどむずかしいことではありません。節税対策をやるかやらないかで、その後の人生が大きく変わってしまうのです。
相続税対策を進める5つのステップ
ではここで、相続税対策の進め方を確認しておきましょう。
●ステップ1 財産を把握して評価額を計算
まずは財産がどれだけあるのかを把握して、その評価額を計算します。財産はできるだけ正確に、相続税評価額で評価しなければなりません。
●ステップ2 相続税額を計算する
相続税評価額で財産を相続した場合、相続税がいくらかかるのかを計算します。
●ステップ3 相続税対策を考えて実行する
財産の種類別、期間別にどんな対策によってどれだけ節税できるかを計算し、対策を実行します。
●ステップ4 対策実施後の相続税額を計算する
相続税対策を実施した後、相続税がどれくらいになったかを計算します。相続税額は、(a)路線価・株価の変動、(b)法律の改正、(c)資産の増減・構成の変化、(d)家族の増減などによって変わってきます。財産の評価額は毎年変動しますし、法律もひんぱんに改正されるので、相続税額は毎年計算しておきましょう。
また上にあげた(a)〜(b)の変化が生じることで、これまでの対策が役たたなくなることもありえます。逆に新しい対策を実行することが可能になったりもするので、相続対策そのものの見直しが必要になります。
●ステップ5 納税資金の確保と遺産争いの防止
これは必要に応じて相続対策と並行して行ないます。場合によっては節税よりもこちらのほうが重要になることもあります。
信頼できる専門家を見つけることがカギ
相続対策を実施するには、どうしても専門知識が必要になってきます。その範囲は相続税法に限らず、民法から所得税法、法人税法、固定資産税法などの税法にも及びます。やっかいなことに、税法には本法だけでなく、数多くの規則や通達があり、これらは毎年のように改正されています。さらには、生命保険や不動産、株式などの知識も必要になります。
相続税対策を学ぼうと思えば、たくさんの書籍がありますし、セミナーもひんぱんに行なわれています。しかし、そこから学べるのはあくまでも一般的な知識であったり、契約を取りたい業者目線の情報であったりします。実際には、それぞれの家庭によって事情は違いますし、保有している財産も違います。ですから、それぞれの実情にあった対策が必要です。
そのため、まずは基本的な相続税対策の知識を得てから、専門家にご相談することをおすすめします。相続税対策に詳しく、自分の希望をしっかり聞いて、事情を理解してくれる専門家を見つけることが相続税対策を成功させる大きなカギになります。
この記事を書いた人
公認会計士、税理士
1979年、中央大学商学部卒業。80年、公認会計士二次試験合格。アーンスト・アンド・ウイニー会計事務所、監査法人を経て独立、高橋会計事務所を開設し、現在に至る。経理・財務・税務の指導ほか、中小企業の経営コンサルティングに従事。 「専門知識がなくてもわかる解説」が人気となり、税務研究会、企業の社内研修会など各種セミナーの講師として活躍するほか、ビジネス書の著者としても多くの書籍を執筆している。 著書に「相続・贈与でトクする100の節税アイデア」「小さな会社の税務がすべてわかる本」、「小さな会社と個人事業主の消費税がすべてわかる本」 (ダイヤモンド社)、「不動産オーナの節税対策/知っておきたい土地建物の税金」(清文社)、「法人税/有利選択の実務」「消費税/有利選択の実務」(税務研究会)など多数