企業の収支が赤字から黒字への転換局面――決算赤字の縮小幅に注目せよ!
望月 純夫
2021/07/06
イメージ/©︎blueone・123RF
戻りつつある消費でも動かない投資家
観客を入れるか、無観客かはともかく、東京五輪開催はほぼ確定で、期間中どうなるかは見通せないが、コロナ後を考えていくタイミングとなった。
しかし、市場はまだ暗中模索のなかにある。それでも多少の問題はあるが、感染防止の対策のワクチン接種も、当初思われていた以上のスピードで進んでいる。それに伴い内閣支持率も回復軌道に乗っている。
そんななかでも、東京の感染者数の増加しており、マスコミは不安を煽っている。とはいえ、2回目のワクチン接種を終えたシニア層が、週末の銀座で買い物を楽しむ風景が話題となるようになったり、コロナ収束後に一番したいことのランキングに旅行が入っている。これを受けて航空各社は、その需要の取り込みのためにLCCの充実を図っている。当然国内旅行が中心であり、観光地域も受け入れ態勢の充実を図ることになろう。
とはいえ、投資家はあえてリスクを取らない、様子見状態を継続しているようだ。
夏枯れ相場と横浜市長選挙が注目されるわけ
というのも、市場には不思議な現象が起きている。
昨年9月30日以降、毎月の最終日の株価が下落となっていることは、先月お伝えしたが、これこそが市場に「まだ」とサインを送っているかのよう見える。
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実際、今年の6月30日は企業業績が回復基調になっているだけに期待されたが、株価は21円安の2万8791円で終わった。この水準でのPERは13倍台の後半だけに、これは余りにも割安といえるのだが、動きがないのだ。
日本の市場の買い手としては、日銀のETFと個人の投資家、外国人投資、年金基金、投資信託があるが、それぞれには、動く動機づけがある。
例えば、日銀は2%以上のETFの下落がない限り購入しない、個人の投資家は短期が中心で市場に動きがないと資金の投入を控えるというわけだ。一方、外国人投資家は4月で買い越し止まっているのである。
つまり、この待機状態に入っている海外の投資のスタンスが今後の相場の動向を左右することになるのだが――。
夏枯れとなるか夏を境に市場に変化が起きるか。市場の流れの変化に期待したいところだが、そのポイントになりそうで、今後の政局を占ううえで注目されるのが、菅首相の地元、横浜の市長選だ。
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横浜市長選挙は、自民党候補がなかなか決まらず、菅首相の地元で自民党系候補が負けでもしたら、その進退も問われかねないとまでいわれていた。しかし、小此木八郎国家公安委員長が出馬をすることで、選挙で負けるという可能性が低くなった。
しかし、小此木氏は菅首相も推していた横浜へのIR誘致に反対しており、選挙後、これがどうなるか、場合によっては政局への火ダネとなる可能性もあり、市場への影響も考慮する必要がある。
赤字から黒字へ転換? 注目5銘柄
日本経済新聞が実施した2020年度飲食業調査によれば、閉店数が5230店に達し、19年度の1.9倍になっただけではなく、08年度のリーマンショック時の3859店を大きく上回った。
特に閉店が多かった業態は、レストランで1249店、パブ・居酒屋で919店、企業別ではペッパーフードサービスの392店、コロワイドの386店が目立った。
政府の接種目標の1日100万回で目標の達成には疑念が残るとされていたが、自治体の接種増に加えて職場接種の本格化により、当初の目標を前倒しする可能性も高くなってきた。ワクチン接種が進むことで、高齢者の外出が増えだしており、ワクチン効果が高まる2回目以降となれば、一段と高齢者の人出が増しそうである。
実際、東京・銀座の5月の最終土日(29~30日)に比べると6月最後の土日(26~27日)は39%だった。年齢別でみると、特に70代は45%と大きく伸びている。
ここからも変異型のウイルスの拡大がまだ懸念されるとはいえ、消費の回復に期待がかかる局面入りといえよう。感染者数は増加傾向にあるものの、重症者の数がここ1カ月で6割減少しており、小売り各社は消費回復に向けての対策対応に余念がない。
業績面では、高島屋(8233)は6四半期連続赤字を6月25日発表、30日発表では、ニトリ(9843)は巣籠需要が堅調で営業利益13%増、アダストリア(2685)は黒字転換、三陽商会(8011)は赤字縮小、エイチ・アイ・エス(9603)は本社フロアー売却し資金確保するとしている。
高島屋(8233)
アダストリア(2685)
三陽商会(8011)
7月2日に良品計画(7453)、7月8日セブン&アイ(3382)、7月9日にライフコーポレーション(8194)、7月15日にファストリテ(9983)の決算発表が予定されている。悪材料出尽くし相場に。トリドール(3397)、ANA(9202)、リンガーハット(8200)、すかいらーく(3197)にも注目したい。
トリドールホールディングス(3397)
ANAホールディングス(9202)
株式の投資妙味は、企業が赤字から黒字に転換する局面であり、そのときといえよう。
新型コロナによって貯蓄から投資へと動き出すか?
最近、若年層の間で投資の取り組みが広がっていることが、日経マネーの調査で明らかになった。
積み立て少額投資非課税制度「つみたてNISA」は若い世代ほど利用率が高くなっている。老後の資産作りを早期に始める動き、早期リタイア実現のために、20年間に亘運用非課税のメリットを受ける同制度が見直されている。
調査は個人投資家を対象にインターネット上で行い2万5544人からの回答によるもので、NISAの利用者は前年調査より6.8%増えて47.2%である。iDeCo(個人確定拠出年金)の利用率は前年の28.1%から29.9%になっている。20年のリスク資産運用成績が1%以上だった人は58.8%と6割近い。
プラス運用だった人の投資スタイルは、海外主体の「国産分散投資」が最多で、「日本の高配当・優待投資」「先進国株投資」が続いている。昨年支給した1人当たり10万円の特別給付金の使途の多くは「生活費」、次が「貯蓄」で28.8%、「投資」は20.3%となり、投資への人気が20%を超えたことは非常にいいことである。「投資」が「貯蓄」を抜く時代になることこそが、日本経済の成長を促していくことになろう。新しい時代への夜明けは間近といえよう。
※本稿は、投資における情報提供を目的としたものです。株式の売買は自己の責任において、ご自身の判断で行うようお願いします。
この記事を書いた人
コンサルタント、ラジオパーソナリティ
1971年慶應大学法学部卒、同年山一証券入社。1985年新本証券国際部入社、パリ駐在員事務所長を経て企業部にて新規公開企業の実務に携わる。 1998年退職後、コンサルタントとして独立。著書に『株をやさしく教えてくれる本(あさ出版)などがある。フジサンケイビジネスアイ株式初級講座、ラジオ日経の「株式宅配便」のパーソナリティを務める。