負担が重くなる火災・地震保険の次回の改定は2021年1月ごろ?
平野 敦之
2020/05/22
自然災害などによる保険金支払いが増えていることなどを理由に火災保険の改定が何度か実施されています。いずれも全国平均では値上げの改定となっているため、火災保険を更新するたびに保険料が上がっているという人も珍しくありません。また火災保険とセットで加入する地震保険も同様の状況にあるため、住まいの保険についての負担は、この5~6年ほどの間に急速に重くなっています。
■自然災害のほかにもある火災保険の改定の背景
火災保険・地震保険の概況(出典:損害保険料率算出機構)によると、自然災害(風災・雹災・雪災、水災)による保険金の支払い件数は、2007年度は2万3873件だったものが、2017年度は24万3169件となっています。雪災による大規模な被害のあった2013年度については27万8712件です。自然災害以外にも水濡れ損害についても同様の状況で、2009年度は2万893件だったものが2017年度は4万2470件となっています。水濡れ損害については、建物の老朽化が進むとどうしても発生する事故です。また構造上はマンションなどの共同住宅ではよく発生します。80年代~90年代半ばにかけて何度かマンションブームがありましたが、そのときに大量に建築されたマンションの老朽化なども大きく影響しているのです。
■引き上げに次ぐ引き上げ、近年の火災保険の改定
保険金の支払い増が継続的に続く状況が続くと、保険料の改定を行う必要がでてきます。火災保険は地震保険のように各社一律の内容ではないため、改定そのものも必ずしも同じ内容・タイミングで実施されるわけではありません。しかし制度の根幹について改定がされるような場合は、比較的同じタイミングで改定が実施されています。ここ数年で実施された改定は次のとおりです。
・2015年10月 火災保険料率を全国平均で引き上げ、保険期間を最長10年間に改定
・2019年10月 火災保険料率を全国平均で引き上げ
以前は最長36年間契約できた火災保険の契約が10年間になったことは、事実上の保険料引き上げです。気候変動に伴う自然災害の発生は、36年先まで見通しにくいため仕方のないことです。2019年10月には主に大手損保が中心に改定を実施しましたが、ネット系などでは2020年に入ってから改定を行った損保もあります。また、すでに次の改定の届出も出されています。火災保険の改定は過去に何度も実施されていますが、それに比べると改定の頻度が短く続けて実施されている状況です。
■築浅物件には割引、全国的には保険料引き上げ――次回の火災保険の届出の内容
火災保険の改定は、業界団体である損害保険料率算出機構が改定を必要と判断した場合、金融庁長官宛てに改定の届出を出すことからはじまります。その後金融庁の適合性審査が終了した後に、一定の周知期間などを経て損保各社が改定を実施します。損害保険料率算出機構が出すのは保険料の中の将来の保険金と支払う部分(純保険料)を参考純率として算出します。実際にはここに損保会社の事務経費などに該当する付加保険料を足したものが契約者の支払う保険料になります。この付加保険料部分は各社で異なるため、改定幅なども損保によって違います。2019年10月に大手損保などが火災保険の改定を実際した際、同月に損害保険料率算出機構が次の改定の届出を出し、適合性審査が終了しています。改定の内容は次の2つです。
・全国平均での保険料の引き上げ
・築年数が浅い住宅について割引の導入
この改定の背景の一つは何度も繰り返しになりますが、一つは風水災の災害による保険金の支払いの増加です。もう一つは築年数によるリスク差を反映させることです。水濡れ損害については築浅の物件はリスクが低いためこれを保険料に反映させるわけです。改定の届出の資料の中にある割引率の例は次のようになっています。
築5年未満…平均28%の割引
築5年以上10年未満…平均20%の割引
*割引率は物件の所在地や構造・補償内容等の契約条件によって異なる。
築5年未満だと多くのケースで保険料が値下げになるものの、逆に10年以上では値上がり幅が大きくなります。この改定を具体的に各損保が自社の火災保険料率にどのように反映させるかはいまのところ未定です。火災保険についての今後の方向性として築年数が大きく関係してくると考えてください。
気になるのがこの改定の具体的な実施日です。明確な時期は分かりませんが、損害保険料率算出機構が改定の届出をして金融庁の適合性審査が終わってから、1年から1年半程度の期間が実施されることが多いようです(このように決まっているわけではありません)。2019年10月にこれらのことが終わっていることを考えると、2021年1月にも地震保険の3段階3回目の改定が見込まれていますが、ここを起点に前後数カ月に実施される可能性があると考えてください。
■改定時期の把握と補償内容の確認で、火災保険の料率改定に対応
改定によって火災保険が値上がりする場合、その前に火災保険の見直しをして可能な範囲で長期契約の一括払いにするのが一般的な対応方法です。他に免責金額(自己負担額)の設定や金額の引き上げなどをしたり、リスクの低い補償を除外するというのも方法の一つです。またこの改定については築年数による影響が大きいこともポイントです。例えば改定後に築5年以上になる、10年以上になるようなケースでは保険料に大きな影響がでてくる可能性があります。今後の改定動向に注意しながら柔軟に対応することを心掛けてください。
この記事を書いた人
平野FP事務所 代表 CFP ®認定者、1級FP技能士、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
東京都出身。証券会社、損害保険会社を経て実務経験を積んだ後に1998年から独立して活動をはじめてFP歴20年以上。また相談業務を受けながら、中小企業の支援にも力を入れている。行政機関や大学での非常勤講師、企業研修などセミナーや講演も多数。メディアでの執筆記事も多く、WEBに公開されているマネー記事は550本以上。2016年にお金の情報メディア「Mylife Money Online」の運営を開始。主な著書に「いまから始める確定拠出年金投資(自由国民社)」がある。誰もが自分らしい人生を安心して豊かに過ごすため、「お金の当たり前を、当たり前に。」をモットーに活動中。「Mylife Money Online」のURLはコチラ→ http://mylifemoney.jp