――確定申告で知っておきたいこと
大野和也
2018/11/20
実家を相続、賃貸にするには?
両親の住まいを相続したが、空き家となっている。あるいは国内外の転勤や転職により長期間住まいが空き家となってしまう。
その様な時、空き家をどうするかを悩むこともあるでしょう。
こうした対策として、そのまま空き家としておく、思い切って売却してしまう、賃貸して家賃収入を得る、主な選択肢はこの3つになるかと思います。
今回は、そのうち賃貸して家賃収入を得た場合の確定申告について紹介します。
サラリーマンの場合、年末調整を行うことにより確定申告が省略されますので、医療費控除を受ける時や住宅ローン控除を受けるための確定申告書しか提出したことがない方も多いと思います。
しかし、家を貸して新たに家賃収入を得るとその収入は不動産所得となり、原則、確定申告が必要になります。個人の確定申告は、その年1月1日から12月31日までの収入をまとめて翌年3月15日までに税務署に提出します。
たまに間違った認識をされるケースがあるのですが、確定申告では、家賃収入だけでなく給与収入も併せて申告することが必要です。
また、原則確定申告が必要としましたが、収入が1ヶ所からの給与だけでその金額が2,000万円以下かつその給与につき年末調整がされている場合で、家賃収入に係る不動産所得の金額が20万円以下、いわゆる20万円以下ルールに該当するときは、確定申告を提出しなくても問題はありません。
給与収入と家賃収入以外の収入がある場合や、医療費控除を受けるため確定申告を提出するときは、この20万円以下ルールは適用されず、たとえ20万円以下であっても給与収入も合わせて確定申告をすることになります。さらに、住民税についてはこのルールがないため、住民税だけの申告書を役所に提出する必要があります。これを誤解されて、思わぬ申告漏れを指摘される恐れがあるため注意が必要です。
不動産所得の計算方法
20万円以下ルールについて触れましたが、この金額は家賃収入の金額ではなくあくまで不動産所得の金額が基準となります。
不動産所得の金額は、家賃収入から必要経費を差し引いた金額で、これが儲けになります。
例えば月額賃料10万円で年間120万円の家賃収入に対し必要経費が100万円とすると、不動産所得の金額は20万円以下で、確定申告は不要となります。
しかし、確定申告が必要ないといっても、所得が20万円以下であることを証明するため所得金額を計算することは必須で、その計算根拠となる領収証書等の保存は必要となります。
どこまでOK? 不動産所得の必要経費
① 固定資産税…賃貸物件の土地建物に関する固定資産税全額が必要経費となります。
② 損害保険料…賃貸物件の建物に係る火災保険・地震保険料の全額が必要経費となります。なお不動産所得で必要経費とした地震保険料は、地震保険料控除の対象とすることはできません。
③ 修繕費…賃貸物件の通常維持管理費用、棄損部分の原状回復費用は必要経費となります。新たな設備の購入や資本的支出となるものについては、資産計上が必要です。
④ 借入金の利息…賃貸物件の取得に係る金融機関からの借入がある場合、その利息部分の金額のみ必要経費となります。なお住宅ローン控除は、居住していない期間は適用を受けることはできません。
⑤ 管理費…賃貸物件を管理する会社への管理料や仲介手数料、入居募集などの費用。マンション管理組合への管理費や修繕積立金なども必要経費となります。
⑥ 減価償却費…建物の実際の購入金額(取得価額)を基礎として原則定額法により償却額を毎年必要経費とします。
購入時の売買契約書は、賃貸した場合に限らず売却した際も必要で、税金を計算する上で非常に登場機会が多い書類です。不動産をすでに所有されている方はこれを機に契約書の所在を今一度お確かめ下さい。そしてこれから不動産を購入される方は相続するまで保存しておくことをお薦めします。
⑦ その他…不動産賃貸に直接必要な費用。不動産管理会社への打合せのための交通費や通信費などが必要経費となります。あくまで賃貸に必要な費用ですので、プライベートなものを必要経費とするのはご法度です。
忘れずやっておこう青色申告
不動産所得を生ずべき業務を行う方は、税務署の承認を受け青色申告を行うことができます。
青色申告を受ける方は、その年3月15日(その年1月16日以後に新たに貸付を開始した場合は、開始の日より2カ月以内)までに申請書を税務署に提出しなければなりません。
青色申告をすることにより10万円の青色申告特別控除を受けることが出来るため、毎年確定申告をしなければならない方にとっては十分なメリットと言えるでしょう。
残念ながら、空き家1棟又は1室の貸付の場合は、事業的規模に該当しないため、帳簿要件を満たしていても、65万円の青色申告特別控除の適用は出来ません。
〔2〕 海外への転勤中の賃貸
海外転勤で一年以上日本に住所がない方は所得税法では非居住者といいます。非居住者は、国内源泉所得に対してのみ課税が行われるため、国内にある不動産の家賃収入のみが課税対象となります。現地での給与については日本の税金は課税されません。
不動産所得の金額の計算は、何ら変わることはありませんが、確定申告の際、雑損控除・寄付金控除・基礎控除の三つの所得控除しか認められておらず、みなさんお馴染みの扶養控除や保険料控除の適用を受けられない、納税管理人を定めその者を通じて申告書を提出するという特徴があります。
また、海外転勤の場合、リロケーションサービスを提供する会社に賃貸管理を委託するケースが多いようです。このとき家賃収入は、20.42%の源泉徴収税額が差引され残額が入金されます。源泉徴収税額は税金の仮払いですので、確定申告により精算されます。
申告期限の3月15日は変わりませんが、源泉徴収がされている場合、還付となるケースが多いようで帰国の際、数年分をまとめて申告する方法でも問題は少ないと言えるでしょう。
この記事を書いた人
税理士、大野税理士事務所所長
1973年、千葉県生まれ。東京・御徒町で50年続く税理士事務所を引き継いだ2代目所長。顧問先は飲食業・建設業・タクシー業・人材派遣業・共同組合など、業種は多種に富む。小規模でもキメの細かいサービスの提供に定評がある。(社)介護相続コンシェルジュのコンシェルジュメンバー。趣味は料理・釣り・革小物制作。