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民泊法、施行2か月でなにが起きているのか

宿泊業のほうが民泊よりもハードル低い?

川久保文佳川久保文佳

2018/09/05

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イメージ/123RF

相変わらず、日本に訪れる観光客は増加、訪日外国人の数は過去最高を更新し、2018年7月283万2000人と、前年同月比5.6%増を記録しました(日本政府観光局・JNTO調べ)。それに合わせて、増え続けてきた訪日外国人の宿泊施設として住宅宿泊事業法(民泊法)が、6月15日に施行。旅館・ホテル営業、簡易宿泊所に続く新たな宿泊施設として、住宅宿泊事業(民泊)が非正規運用から正規運用への期待を込めて再スタートしました。

当初の「簡単なインターネットで登録開始」という触れ込みで始まった民泊法でしたが、法律施行後の実際の作業は、保健所に2回、消防署へ3回、法務局1回訪問と書類確認が必要といったような大変な労力を必要とする登録作業になっています。さらには、周辺住民への周知や管理組合への確認など、気の遠くなるような工程を経る必要があります。むしろ、エリア(用途地域)によっては、旅館・ホテル営業を取った方が書類は少なく、手続きも簡単ということも起きています。

全国的な登録件数を見ても当初の6万件以上から数千件へ激減しています。自宅で丁寧な対応をしてきたオーナーや国際交流を求めて始めたオーナーなど数多くのオーナーが撤退を決めています。要因の一つとして消防法による設備設置の費用が個人の負担レベルを超えていることです。例えば、70代の未亡人になった婦人の場合、年金の他の収入源として、自宅で細々と始めた民泊を始めたのですが、民泊法施行後は「消防法の基準に合った設備を備えるには約100万円の資金が必要です。」などと言われて、そんな金額のお金がポンと出せるはずもなく、撤退を決めています。

ポータルサイトの企業的責任とは?

民泊をけん引してきた民泊サイトの“Airbnb“ですが、施行後、大きな失態を招いています。登録時点の確認の不十分さから、偽の届出番号でサイトへ登録が可能だったために、数多くの非正規の民泊が掲載されていました。現在は精査し、正常になりつつあります。
7月から8月の旅行客の訪れる繁忙期であったにも関わらず、正規の登録番号を取得した物件の中にはサイト運営側が誤ってサイト内から削除されてしまうといった被害を受けた物件もあり、8月末になっても、まだ混乱が続いています。

さらに、海外からの利用者に対して、1週間前に一方的な解約を通知する事態になるなど、突然のキャンセルに戸惑う訪日外国人も多く、今までの信頼がゆらぐ結果を招いています。

システムの構築後、型にはまったマニュアルで、効率を重視した画一的な運営になっているIT系企業中には、こうした仕組みによって、ルーティーンワークで高利益率を出している企業も多くあります。しかし、その運用責任の責任については、いつの間にか利用者に転嫁しています。実際の細かな運用やイレギュラー対応などを行うのは顧客と対面するオーナーで、リスクはポータルサイトの運営者ではなく、物件を運用している側と利用しているゲストなってしまっているというのが現状です。

そのため東京都内で減少している民泊物件ですが、このような動きをいち早く察知して、東京から京都での旅館・ホテル営業や大阪の特区民泊へ切り替えた業者もあって、こうした業者は、現在も健全に運用を行っています。その一方でこうした東京の民泊の運用を代行している企業や清掃会社などは、いきなりの収益源で閉鎖や撤退なども増えており、民泊の業界地図も変わりつつあります。

民泊業界に足りないものは?

海外の外貨を獲得する手段として民泊は有効的で、モノではなくコトで利益を上げる民泊は利益率が高い事業と言えると思います。成長途中の「民泊」ですが、この業界を健全に成長されるには、周辺住人も安心できる責任とモラルを持った企業が数多く出てくることです。

そのためには、関わる企業が法令に準じた運営をしていくとともに、真摯に事業にあたるということが、結果として業界としての評判を高め、より安定した事業に発展していくのだと思います。

先日、民泊法の届出をしたにも関わらず、予約が停滞している事業者に出会いました。新しい事業のため、一部の作業を外部であるIT系スタッフへ委託して事業を行っていました。ここで起きていたことは、届出番号の未登録に加えて、自由にオーナー情報を入手し、我が物顔で運用を行い、自分たちだけに利益を回す仕組みを作ってしまうIT企業の姿でした。もはや犯罪と思しき行為ですが、セキュリティの甘さゆえに悪気もなくできてしまう仕組みも災いしているように感じます。健全な民泊経営をするには決済システム、情報保護など、ひとつひとつの安全対策や仕組みを整備し、チェック体制を強化し、より堅実なものにしていく必要があると感じます。

宿泊業、課題解決の糸口

現在、旅館・ホテル営業の規制が緩和され、室数制限が解除されました。宿泊施設内へのトイレとバス、手洗いの設置など、制限はありますが、このことによって、7㎡以上であれば、布団を備えた営業許可、9㎡以上であればベッドを備えた営業許可を1室でも取るようになりました。また、ICT機器の設置によって、近隣に駆け付け体制があれば、無人でも営業が可能になります。住まいの転用として、民泊にこだわらずに、思い切って宿泊事業にするという選択肢もあります。

 

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この記事を書いた人

一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事

一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事 北海道函館市生まれ。現在の札幌国際大学 卒業後、リクルート住宅情報事業部にてライターを務めた後、IT企業を経て不動産関連事業へ転身。その一方で、化粧品とサプリメントのコンサルティングや専門家としてのアドバイザー務める。海外派遣先では、フィリピン・タイ・カンボジア・マレーシアなどで日本への輸出入をテーマにセミナーを行うなどマルチに活動している。

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