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働いて、働いて、働くのは何のため? 国民生活に関する世論調査を眺めてみる

朝倉 継道朝倉 継道

2025/12/18

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歴史の長い調査

不意のコロナ禍から始まった日本の2020年代。あれから6年近くが過ぎ、われわれは間もなく、去り行く21世紀の1/4を見送るところだ。

そんな「いま」の自身の生活を日本人はどう見ているのか。内閣府の「国民生活に関する世論調査」をひもとき、そのいくつかを眺めてみたい。

なお、この調査は1957年度が最初となる歴史の長いものだ。最新の25年8月調査分で68回目となる。

今回は、全国18歳以上の日本国籍を有する2,938人が回答を寄せている(有効回収率58.8%)。

去年と比べた生活の「向上感」

まずは、こんな質問だ。

「あなたのご家庭の生活は、去年の今頃と比べてどうでしょうか」(単一回答)
向上している 5.3%
同じようなもの 59.6%
低下している 34.8%
無回答 0.4%

 

このとおり「向上している」との明るい答えは少ない。対して「低下している」はその約6.6倍にのぼる。さらに「同じようなもの」が、ほぼ6割を占めている。

ちなみに「低下している」の割合は、以下のとおり、年齢が高い層で増える傾向がある。60代の数字がもっとも高く、70代がそれに次いでいる。

「生活が低下している―――の年代別割合」
18~29歳 24.0%
30~39歳 28.2%
40~49歳 30.9%
50~59歳 35.3%
60~69歳 41.7%(最大)
70歳以上 38.1%

いまの生活に対する「満足度」

次に、この質問だ。

「あなたは、全体として見ると、現在の生活にどの程度満足していますか」(単一回答)
満足している 6.5%
まあ満足している 43.6%
やや不満だ 34.7%
不満だ 15.0%
無回答 0.2%

そのうえで、これらを「満足」と「不満」に別けると、両者が拮抗する(無回答を除く)。

満足 50.0%
不満 49.7%

(満足は「満足している」と「まあ満足している」の合計。不満は「やや不満だ」と「不満だ」の合計)

さらに、年齢層別には以下のとおりとなる。

年齢 満足 不満
18~29歳 57.3% 42.4%
30~39歳 51.5% 48.5%
40~49歳 49.0% 51.0%
50~59歳 44.7% 55.1%
60~69歳 43.3%(最小) 56.7%(最大)
70歳以上 55.0% 44.5%

見てのとおり、年齢が増すほど「満足」の割合は減り、「不満」は増えていく。ただし、70歳以上になると急に様子が変わる。この点は大変興味深い。

そこで、不満の割合が高まる60~69歳の数字を男女別に見るとこうなる。男性の数字が著しい。

年齢 満足 不満
60~69歳・男性 37.2% 62.8%
60~69歳・女性 49.0% 51.0%

一方、70歳以上だと数字はこうなる。いわば落ち着く。

年齢 満足 不満
70歳以上・男性 53.9% 45.6%
70歳以上・女性 55.8% 43.5%

以上を見て、まず思い浮かぶのは、60代は男性サラリーマンの大多数が定年を迎える時期であることだ。

それによる収入や生活環境、家庭環境の変化といった辺りが、これらの要因のうちの大きなひとつを占めていることが想像できる。

いまの生活に対する「充実感」

さらに、次の質問となる。

「あなたは、日頃の生活の中で、どの程度充実感を感じていますか」(単一回答)
十分感じている 7.8%
まあ感じている 51.4%
あまり感じていない 31.4%
ほとんど感じていない 7.6%
無回答 1.8%

これらを「充実感を感じている」と「感じていない」に別けると、以下の割合となる(無回答を除く)。

感じている 59.2%
感じていない 39.0%

(感じているは「十分感じている」と「まあ感じている」の合計。感じていないは「あまり感じていない」と「ほとんど感じていない」の合計)

見てのとおり、前者、すなわち明るい方の答えが約6割で優勢となる。

年齢層別には以下のとおりとなる。

年齢 感じている 感じていない
18~29歳 69.4% 30.2%
30~39歳 65.7% 33.3%
40~49歳 60.6% 38.6%
50~59歳 56.4% 42.3%
60~69歳 54.9%(最小) 43.3%(最大)
70歳以上 57.0% 39.5%

差は少ないものの、先ほどの「満足度」と同様、60代でネガティブな数字はピークを示す。70代で改善する。

とどのつまり、われわれ日本人における60代は、日々の生活やそれに関わるメンタルなどの面において、なかなか面倒な時間帯のようだ。

そこには、もちろん体力や健康に関しての不安や悩みも、影を落としがちなことだろう。

不満の割合が高い「お金」のこと

先ほど触れた、いまの生活への人々の「満足度」については、さらに各論に分かれた質問も行われている。不満の割合が大きい順に並べてみよう。

不満とする割合
資産・貯蓄 70.1%
所得・収入 65.0%
レジャー・余暇生活 48.2%
自己啓発・能力向上 43.6%
自動車、電気製品、家具などの耐久消費財 42.5%
食生活 38.0%
住生活 32.4%

(各数字は「やや不満だ」と「不満だ」の割合の合計)

このとおり、「資産・貯蓄」と「所得・収入」への不満が、他に差をつけて高い割合を示している。

一方、不満の割合が最も少ない「住生活」だが、こちらでの満足は、主には住宅ローンの返済によって、あるいは高い家賃によって、その足場がかたちづくられているもののはずだ。すなわち、貯蓄や収入を削る原因でもある。

よって、ここではやや面白い(といっては語弊があるが)トレードオフの関係が、おそらくは生じている。

働いて、働いて、働いて、働いて、働いて―――

高市早苗新首相による自民党総裁選出直後の言葉が、先般、「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれている。

「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」―――というものだ。

そこで、当世論調査での次の質問となる。

「あなたが働く目的は何ですか。あなたの考え方に近いものをお答えください」(単一回答)
お金を得るために働く 63.5%
社会の一員として、務めを果たすために働く 10.7%
自分の才能や能力を発揮するために働く 7.1%
生きがいをみつけるために働く 13.1%
無回答 5.5%

このとおり、「お金を得るため」が圧倒的に多い。だが、注意したいのは、ここでは単一回答が求められていることだ。

「お金が基本」でありつつ、実際にはほかの理由も大きなウエイトを占める人は、多分多いにちがいない。

働いて、働いて、働いて、働いて、働いて―――と、仕事に心血を注ぐような人は、働くことを通じて、金銭以外の別の成果も求めている、あるいは得られている場合が多いものと思われる。

ただし、「やりがい搾取」の標的にされないよう、気をつけることも大事だ。

物価に関心集まる

この調査の最後には、こんな質問も添えられている。

「あなたは、今後、政府はどのようなことに力を入れるべきだと思いますか?」(複数回答)

選択肢は33もあるが、このうち上位に挙がった5つを紹介したい。

1位「物価対策」 73.1%
2位「医療・年金などの社会保障の整備」 64.1%
3位「景気対策」 58.6%
4位「高齢社会対策」 48.5%
5位「少子化対策」 41.7%

このとおり、1位は「物価対策」となっている。4年前(21年9月)の当調査では32.9%に留まっていたものだ。今回の結果は、国民の多くが物価高に苦しむ現在の状況を如実に反映したものといえるだろう。

一方で、行政・マスコミレベルではたびたび話題となる印象があるものの、ここでは数字が低いものもある。「男女共同参画社会の推進」6.2%や「自殺対策」8.2%、「地方分権の推進」9.1%などといったところだ。

ちなみに、筆者は、よい国をつくるための最重要マターはとにかく教育だと思っている。そこでいうと、「教育の振興・青少年の育成」は22.8%―――15番目と、何やら微妙な位置に留まっている。

以上、内閣府「国民生活に関する世論調査」25年8月調査分から、いくつかの数字を拾い上げ、紹介した。

さらに多くの内容について、下記でご確認いただける。

国民生活に関する世論調査(令和7年8月調査)

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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