小平市で子どもたちが市長選挙に投票。面白く有意義なその結果
2025/05/27

有権者全体の2割、1割の票で得られてしまう首長の座
先般4月のこと。東京都小平市で市長選挙が行われた。現職と新人2人の合わせて3名が立候補し、結果は現職が2回目の当選となっている。
投票率は38.68%で、前回を0.52ポイント下回った。選挙当日の有権者数15万8150人に対し、上記現職の得票数は3万3677票。明確な信任の数としては、全有権者の21.29%を占めるに留まっている。
とはいえ、この数字はかなり少ないようで実はそうでもない。筆者の住む埼玉県川越市でも今年の1月に市長選挙があったが、この際、当選した現市長さんは有権者数全体の11.40%の得票をもって勝利を収めている(得票数3万3135票、当日有権者数29万543人)。
そのうえで、ほかに3名いた候補者の得票数は、合わせると6万3220票となる。つまり、これがいわゆる死票となった。現市長が獲得した数の約1.9倍に及ぶ。
なお、筆者は、現川越市長の人物や政策に何ら不満をもつわけではない。いいまちをつくってくれるだろうと期待もしている。
ただ、現下のわが国の首長選挙全般に関していえば、多少疑問がある。低投票率に加え死票が山と積み上がる事態が多々生じうる仕組みであることにつき、「制度を少し変えた方がよいのでは?」と、つねづね感じているということだ。
小平市で行われた「こども選挙」
小平市の選挙の話に戻る。
今回、投票日は4月6日だったが、同じ日、同市においてはもうひとつの市長選挙も行われた。いくつかのメディアがこれを採り上げ、ニュースになっている。
「こだいらこども選挙」という。
3人の市長候補(本物)に対し、有権者ではない子どもたちも独自に投票した。総数は476票となっている。
もっとも、この結果は、当然ながら実際の選挙結果には何の影響も及ぼさない。
こだいらこども選挙は、有志が主催するいわば体験学習といってよいものだ。模擬選挙であり、公職選挙のまねごとにしかすぎないものとなる。
とはいえ、このまねごとにあっては、内容が非常に緻密で本格的だ。
まず、投票所は、市の内外9箇所に実際に設けられた。
なおかつ、そこには本物の投票箱と、本物の記載台が設置された。市の選挙管理委員会の協力を得て借りたものだそうだ。
運営は、大人のサポートのもと「こども選挙委員」が行った。市内の小・中学生による15名と紹介されている(こども選挙委員発足会参加者の数)。
彼ら・彼女らは、市の選挙管理委員によるレクチャーを受けるなどして選挙を学ぶほか、友達に声をかけたり、チラシを配ったりして、多くの子どもたちに投票を呼びかけた。要は広く「有権者」を募っている。
さらには、各候補者への質問を考え、実際に質問もした。各候補者は、それぞれオンライン動画のかたちでこれに真剣に答えている。
どんな質問が出たのか、掲げておこう。数は5つとなる。
- 「なぜ市長選挙に立候補したのですか?」
- 「小平市を楽しくするようなどんな経験や苦労をしてきましたか?」
- 「自然や公園を守るためにどんなことをしてくれますか?」
- 「防災への貢献・意識をしていますか?」
- 「学校の宿題のやり方や量を今後どうしたいと考えていますか?」
ちなみに、「子どもらしい」とほほえましく思われがちかもしれない最後の質問だが、これは首長選挙のレベルを超えて重いものだ。わが国における教育のかたちのみならず、教員の労働環境、各家庭間におけるいわゆる格差など、広範囲にわたる課題、問題に触れていくもののはずだ。
なお、これらに対する各候補の回答は、ウェブサイトで現在も確認できる。のちほどリンク先を掲げたい。
投票の結果は意外? 順当?
さて、そんなかたちで各候補者の政見や熱意に接した子どもたちは、実際に4月6日に投票を行っている。結果を見てみよう。
A候補 | 236票(1位) |
B候補 | 160票 |
C候補 | 75票 |
(投票数476 有効投票数471) |
一方、こちらは実際の市長選挙の結果となる。
A候補 | 33,677票(1位・当選) |
B候補 | 22,162票 |
C候補 | 4,873票 |
(有効投票数61,178) |
見てのとおり、3候補の順位は、こども選挙も本物の選挙もどちらも同じ結果となった。大人の有権者のみならず、子どもたちも市長には同じ人を選んだかたちとなる。
さらに、面白いのは以下の数字だ。
候補者 | こども選挙での得票率(得票/有効投票数) | 実際の選挙での得票率(得票/有効投票数) |
A候補 | 50.11% | 55.05% |
B候補 | 33.97% | 36.23% |
C候補 | 15.92% | 7.97% |
このとおり、2つの選挙結果にあっては、得票率がかなり似通っている(特に1位、2位)。このことは、とりわけ落選した2候補にとって、敗因分析のためのよい材料のひとつとなる可能性がある。
なお、今回のこだいらこども選挙では、子どもたちは投票するだけでなく、候補者へ意見やメッセージも届けた。投票用紙に自由記述欄が設けられていたことによる。
小平市は14例目
以上、ざっと紹介したこだいらこども選挙だが、同様の企画は、今回の小平市が初めてではない。2022年に神奈川県の茅ヶ崎市で最初に行われている。小平市は14例目となっている。
実に有意義なことといっていい。
こうしたやり方によって、子どもたちは、将来自らが直面する“本番”に備え、知見や体験、体感を培うことができる。政治参加することに対する心理的なハードルを当然ながら引き下げることにつながるはずだ。
なにより、民主主義を支える主権者としての自覚を早いうちから磨くことができる。すなわち、こども選挙はよい主権者教育となるものだ。
よって、筆者はこのプロジェクトについて、これら純粋な目的以外の意図が入り込むなどしない限り、さらに多くの市や町などに広がってよいものと考える。
今回の「こだいらこども選挙」について、さらに詳しくは以下のリンク先にてご確認いただける。
「こだいらこども選挙 ウェブサイト」
「(直接リンク)―――候補者への質問と回答」
老人は選挙に行っていいのか?
以下、こども選挙の話題に絡めて、余談を付け加えよう。まったくの余談だ。
筆者は、よく選挙について色々と夢想する。そのなかにはこんなものがある。
「全ての子どもにも選挙権を与えてはどうか」
もちろん、これはメチャクチャな話で、0歳や1歳の子どもが投票など出来るわけがない。
そこで、選挙権をもたない年齢の者にあっては、親(親権者)が代理で権利を行使する。多くの場合、子ども1人につき、両親それぞれが0.5票づつを分け合うかたちとなる。
すると、いわゆる子育て世代の親たちが、投票面で相当程度の力を持つことになる。政策的影響力において「将来世代」側が強い体制が生まれやすくなるわけだ。
もうひとつ。こちらはややディストピアっぽい話となる。
「選挙権に定年制を設けてはどうか」
たとえば、80歳に達すると投票に行けなくなる。
残り時間が短い人たちよりも、長い人たちの意見をより重んじるための制度だ。
以上、繰り返すが、これらは夢想にすぎない。と同時に、筆者はこれらを国のためによかれと信じ、提唱するものでもない。
ただ、どちらの制度も、仮に何かの拍子で現実になるようなことがあった場合、筆者個人はこれを甘んじて受け容れるべきと思っている。要は、もって瞑すべしだ。
そのうえで、筆者は夢想、空想のつもりだったが、上記のうち、前者のような方法は「ドメイン投票方式」と呼ばれ、実際に他国で検討されたこともあるそうだ。(ドメインはこれを提案した人の名前)
さらに、国内では日本維新の会が以前からこれを唱えているとのこと。不勉強にして、筆者はこれらを先日知った次第となる。
「こども選挙」がなぜ「こども選挙」に留まるのかというと、それはあくまで現実にはその権利をもたない者によるまねごとであり、ままごとであるからだ。
しかしながら、理屈に沿えば、人は若ければ若いほど、現状決まっていく政治的判断の影響を長く受け続けることになる。
よって、子どもは、本来最も尊重されるべき主権者のはずだ。政治は原則、子どものためを第一に行われていい。年寄りは二の次でいい。
それが、間もなく年寄りとなる筆者のあくまで個人的な見解となる。
(文/朝倉継道)
【関連記事】
落としたい人に1票? 面白選挙制度を真面目に考えてみる
新内閣の重要課題「地方創生」はなぜ進まないのか?
無料で使える空室対策♪ ウチコミ!無料会員登録はこちら
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。