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定期建物賃貸借契約における賃貸人による説明義務について

森田雅也森田雅也

2025/12/18

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「定期建物賃貸借契約にしたつもりだったのに、普通借家として扱われてしまった。」
貸主の方からよく聞くトラブルです。

定期建物賃貸借は、普通借家と異なり、貸主が更新に同意しない限り契約期間満了で確実に契約を終了させられるという、貸主にとって大きなメリットがある制度です。しかし、その反面、借地借家法第38条第3項が定める「説明義務」をきちんと果たしていないと、定期借家として認められないという厳しいルールがあります。

今回は、この「説明義務」に関して、どこまで貸主が説明をすれば足りるのか、媒介業者である不動産会社に任せていれば大丈夫なのか、などといった点について裁判例を交えながら解説します。

定期建物賃貸借契約の「説明義務」とは?

借地借家法第38条第3項は次のように定めています。

定期建物賃貸借をしようとするときは、「建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃貸人に対し、同項(第38条第1項)の規定による建物の賃貸借(定期建物賃貸借)は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。」

ポイントは「書面を交付して説明」し、その説明を「あらかじめ」行う必要がある点です。すなわち、単に契約書に「定期建物賃貸借契約です」と書いてあるだけでは足りず、契約締結前に、貸主に別途書面を交付して説明することが求められています。

交付すべき書面は契約書とは別のもの?

では、「その旨を記載した書面を交付して」というのは、定期建物賃貸借契約書にその旨を記載しておくことで足りるのでしょうか。

裁判例(最判平成24年9月13日)は、「書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。」としています。すなわち、契約書に記載しておくだけでは足りず、別個の書面を作成して借主に交付する必要があるのです。

このように別個の書面が必要な理由は、定期建物賃貸借契約が普通借家と異なり、契約の更新がない点で借主にとって不利な契約になるため、借主に当該賃貸借が定期建物賃貸借であることを認識させるとともに、契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるとされています。

どの程度の説明が必要なのか

では、上記契約書とは別個の書面を交付しただけでは足りないのか。「説明」とは、どこまですれば足りるのか。といった点が問題となります。

まず、借地借家法第38条第3項が「交付して説明しなければならない。」としていることから、契約書とは別個の書面を交付しただけでは足りず、口頭での説明が必要になるということになります。これは上記のとおり、定期建物賃貸借が普通借家と異なり、普通借家と比べ借主の権利が弱いものであることに鑑み、十分な説明が必要とされた結果によるものであるため、このような厳重な要件が課されているのです。なお、宅建業法上の重要事項説明とは異なり、事前説明は対面して行うことまでは要求されていませんので、電話などによる説明も可能です。
そのうえで、どの程度の説明が必要なのでしょうか。

裁判例(東京地判平成24年3月23日)には以下のとおり判示されたものがあります。「説明書面を交付して行うべき説明は、締結される建物賃貸借契約が、一般的な建物賃貸借契約とは異なる類型の定期建物賃貸借契約であること、その特殊性は、同法(借地借家法)26条所定の法定更新の制度及び同法28条所定の更新拒絶に正当事由を求める制度が排除されることにあるといった定期建物賃貸借という制度の少なくとも概要の説明と、その結果、当該賃貸借契約所定の契約期間の満了によって確定的に同契約が終了することについて、相手方たる賃借人が理解してしかるべき程度の説明を行うことを要すると解され」、「説明書の条項の読み上げにとどまり、条項の中身を説明するものではなく、仮に条項内の条文の内容を尋ねられたとしても、六法全書を読んでくださいといった対応をする程度のものであった」ときは、説明があったとは認めないとされました。

すなわち、重要なポイントとしては借主が「更新がない」「期間が来たら必ず出ていく」ことを理解できる説明が必要という点です。つまり、「定期借家です。期間が来たら終わります。」といった形式的かつ曖昧な説明ではなく、「更新はなく、期間満了時には必ず明渡しが必要になります。」という点を、はっきり、明確に説明する必要があります。

重要事項説明と一緒に説明すれば足りる?

次に、実務で非常によくある疑問です。

「不動産会社が重要事項説明で説明してくれていれば、それで足りるのではないか?」

賃貸借契約の媒介では媒介業者は借主に対して、重要事項説明書の交付・説明義務があり、定期建物賃貸借契約では、貸主が借主に対し、上記のとおり契約書とは別個の書面の交付・説明を行うことが求められており、この重要事項説明と事前説明はそれぞれ別個の説明義務となります。ただし、貸主の説明を、貸主から代理権を付与された媒介業者が重要事項説明とは別に説明すること自体は可能です。

しかし、媒介業者としては重要事項説明と事前説明を別個に行うことは手続が重複して煩雑であるとのデメリットもありました。

そこで、国土交通省から平成30年2月28日付で事前説明を重要事項説明と併せて実施することについての通達がなされ、一定の要件を満たせば、事前説明を重要事項説明と併せて実施し、交付する書面についても事前説明文書を重要事項説明書が兼ねることができるようになりました。
すなわち、貸主にとってもこの要件を満たすことで事前説明をすることが不要になるだけでなく、契約書と別個の事前説明文書を作成することも不要になるということになります。

一定の要件とは、以下の3点を重要事項説明書に記載し、当該重要事項説明書を交付して、貸主から代理権を授与された宅地建物取引士が重要事項説明を行うことです。

  1. 本件賃貸借については、借地借家法第38条第1項の規定に基づく定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間の満了により終了すること
  2. 本重要事項説明書の交付をもって、借地借家法第38条第3項の規定に基づく事前説明に係る書面の交付を兼ねること
  3. 貸主から代理権を授与された宅地建物取引士が行う重要事項説明は、借地借家法第38条第3項の規定に基づき、貸主が行う事前説明を兼ねること

また、同通達では、後日のトラブル防止のため、借主から上記説明を受けたことについても、記名押印を得ておくことが望ましいとされています。
貸主が媒介業者に任せた場合であっても、仮に上記の記載が抜けていた場合、必要な事前説明がなされていないと判断される可能性が十分ありますので、媒介業者が行う重要事項説明書に当該記載がきちんとされているかを確認することが重要です。

貸主が気を付けるべきポイント

最後に、貸主の方が最低限抑えておくべきポイントをまとめます。

  • 契約前に、定期建物賃貸借契約であることを説明する書面を契約書とは別個に作成し、借主に交付する。
  • 「定期建物賃貸借契約であること」、「更新がないこと」、「期間満了で契約が終了し、建物から退去する必要があること」を明確に説明する。
  • 事前説明を媒介業者に任せる場合、上記3つの必須事項が記載されているか確認する。

これを行うだけでも、後のトラブルリスクは大きく下がります。

おわりに

定期建物賃貸借契約は、貸主にとって非常に有効な制度でありますが、その分、借主が弱い立場になりますので、厳格な要件が定められています。
そのため、説明義務を軽視してしまうと、「定期借家のつもりが普通借家だった」という取り返しのつかない結果になりかねません。
契約書や事前説明文書、重要事項説明書などの文言だけで安心せず、「借主に説明できているか」という視点で、契約を締結することを意識してみてください。
少しの意識が、後のトラブル回避につながります。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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