ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

賃借人間での騒音・悪臭トラブルに対する賃貸人の対応

森田雅也森田雅也

2024/04/17

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

マンション等の共同住宅においてよくある問題として、騒音やペット飼育等に伴う悪臭トラブルがあります。賃貸人は、賃借人の迷惑行為についても可能な限り対処しなければならず、こうしたトラブルにも対応が必要となります。そこで今回は、賃借人間の騒音・悪臭トラブルで、賃貸人としてとるべき対応についてご説明します。

1.賃貸人の居住に適する状態を維持する義務

建物の賃貸人は、賃借人に対して建物を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。裁判例は、建物を使用させる賃貸人の義務には、賃借人の使用に支障が生じない状態を積極的に維持することも含まれるとしており(大判昭和5年7月26日)、建物が居住に適さない状態となっているときは、賃貸人にはこうした状態を解消すべき義務が生じます。そのため、ある賃借人が別の賃借人の出す生活音等により平穏な生活を送ることができず、建物が居住に適さない状態であるならば、賃貸人は賃借人が平穏な生活を送れるような措置を講じなければなりません。では、具体的にどのようにすれば、居住に適する状態を維持する義務を果たしたと言えるのでしょうか。

2.騒音・悪臭が違法と判断される基準

居住に適する状態を維持する義務が生じたと言えるには、前提として、建物が居住に適さない状態であることが必要です。もっとも、どの程度の騒音・悪臭で嫌悪感を抱くかは個人によって異なり、居住に適さない状態と評価される判断基準が問題となります。この点について、裁判例は、騒音や悪臭の程度、頻度、被害の程度などを考慮して、被害が一般社会生活上、受忍すべき限度を超えた場合に違法としています(東京地判平成26年3月25日判時2250号36頁等)。受忍限度がどの程度かという点について、騒音に関する裁判例では、騒音規制に関する条例の基準や環境省が告示する環境基準を参考に判断することが多いです。建物の所在地によっても異なるため一概には言えませんが、住宅地域であれば夜間45dB、昼間55dBを超える場合には、受忍限度を超えると判断される可能性が高くなります。また、悪臭に関する裁判例では、悪臭防止法及び各都道府県の条例が定めた臭気指数(人間の嗅覚を用いて、においの程度を数値化したもの)の許容限度を参考に、受忍限度を超えるか判断される例が多いです(東京地判平成23年7月29日)。建物の所在地によっても異なるため一概には言えませんが、住宅地域であれば臭気指数が10を超える場合には、受忍限度を超えると判断される可能性が高くなります。

3.賃貸人がとるべき具体的行動

(1)賃貸人による騒音・悪臭の調査
賃借人から騒音や悪臭への苦情が出た際、賃貸人は騒音・悪臭のレベルが受忍限度を超えるかを調査・記録し、客観的に証拠となるものを用意しておく必要があります。そのための手段として、騒音であれば騒音計やレコーダーを用いることが考えられます。自治体によっては騒音計の無料貸し出しを行っているところもあり、利用するのもおすすめです。また、騒音の発生元を調査するため、居住者への聞き込みも行う必要があります。一方、悪臭の場合、臭気測定を賃貸人個人で行うことは困難な場合もあります。もっとも、悪臭がペットに起因する場合、居住する地域を管轄する保健所に騒音や悪臭について相談することで、保健所による調査等が実施され、状況が改善される可能性があります。なぜなら、動物の愛護及び管理に関する法律で、都道府県知事が、動物の飼養に起因した騒音や悪臭の発生等によって周辺の生活環境が損なわれている事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導または助言をすることができると規定されているからです。

(2)受忍限度を超えた場合に賃貸人が行うべきこと
ではもし、調査の結果、他の賃借人の騒音・悪臭が受忍限度を超えていた場合、賃貸人はどんな対応をすべきでしょうか。この点について、賃借人の隣人が騒音の発生等を含めた迷惑行為を行っているにもかかわらず、賃貸人が対応をしなかったとして、賃借人が賃貸人に対して慰謝料を求めた事案において裁判例は、隣人の迷惑行為が受忍限度を超えるものであると認定した上で、以下のように判示しています。「賃貸人として、まず、迷惑行為に関する事実関係を十分に調査すべきであり」、その上で、隣人の「迷惑行為が受忍限度を超えるものであることを確認し、かつ、そのことを訴訟において立証しうる証拠を獲得した場合には」、賃借人の住む部屋を「平穏な状態に回復して賃貸人としての義務を果たすため」、隣人に対し、「賃貸借契約の解除をも視野に入れて・・・退去を要請すべき義務を負っているというべきである。」(東京地判平成24年3月26日)。もっとも、同裁判例は、本件において賃貸人が相当の調査をしたが、隣人による迷惑行為が受忍限度を超えるものであることを認識できなかった等の事情から、退去までは要請せず口頭による注意をするにとどまった賃貸人の対応を不十分なものではなかったとしています。この裁判例を前提にすると、賃貸人は、受忍限度を超えることが確認できた場合はもちろん、確認ができないような事情があった場合でも、騒音や悪臭の原因を生じさせる入居者に書面を用いて、騒音や悪臭の原因を除去するよう注意をする等、相当な対応をする必要があります。

4.まとめ

以上の通り、賃貸人を務める物件で、入居者による騒音や悪臭といった迷惑行為の苦情が出た場合、賃貸人はまず調査を行い、調査の結果、受忍限度を超えるのであれば、原因を生じさせている入居者に書面を用いて注意等を行う必要があります。

なお、騒音や悪臭を発生させた賃借人に対して、賃貸人が賃貸借契約を解除することができるかという点は更に検討が必要です。なぜなら、賃貸借契約は継続的な契約であり、賃貸人と賃借人の信頼関係を基礎とするところ、このような信頼関係が破壊されたと言えなければ、賃貸借契約の解除は認められないからです。信頼関係が破壊されたかは、賃借人による迷惑行為の程度や事前に賃貸人からの注意があったにもかかわらず、これを受け入れなかったという事情の有無などが考慮されます(東京地判平成10年5月12日判時1664号75頁)。もっとも、信頼関係が破壊されるに至ったかは、法律的な判断を伴うため、法律の専門家に相談するのが良いでしょう。賃貸人を務める物件で、入居者による騒音や悪臭といった迷惑行為の苦情が出た場合、当該入居者に対して直接注意を行うことはハードルが高いと感じる方も多く、対応方法については不動産賃貸に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

【関連記事】
立退きと正当事由について
「音がうるさい」と隣人の耳を切断! 騒音トラブル――危険が迫ったときどう逃れるか


無料で使える空室対策♪ ウチコミ!無料会員登録はこちら

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

ページのトップへ

ウチコミ!