借家契約更新時における有効な更新料額と更新料不払いを理由とする契約解除の可否について
2025/04/17

賃貸物件の多くは1年あるいは2年ごとに更新時期を迎え、賃貸人は入居者に対して更新料の支払いを求めているかと思います。更新料は賃貸人にとって重要な収入源ですが、高額であることを理由に更新料の支払いを拒否されるなど、更新料を巡るトラブルは少なくありません。そこで今回は、賃貸借契約において更新時に更新料を支払う旨の特約があることを前提に、借家契約更新時における有効な更新料額と更新料不払いを理由とする契約解除の可否についてご説明します。
更新料の性質
そもそも更新料とは、賃貸借契約更新時に借主から貸主に支払われる金員のことをいいます。更新料の法的性質については、賃貸人が更新拒絶権を放棄することの対価としての性質を有するという見解や、賃借人の使用収益期間に対応した賃料の補充的性質を有するという見解がありますが、判例は、「更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」としています(最判平成23年7月15日)。
更新料支払特約の有効性
では、更新料支払特約があれば、いかなる場合でも賃借人は更新料の支払義務を負うのでしょうか。平成13年4月1日に消費者契約法が施行されて以降、契約更新時に更新料を支払わなければならないという賃貸借契約書の規定が消費者の利益を一方的に害するとして消費者契約法により無効となるか、問題視されるようになりました。
この点について判例は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらず、有効であるとしています(最判平成23年7月15日)。この判例の事案では、更新料支払条項が賃貸借契約書に一義的かつ明確に記載されており、更新料の額も賃料2か月分、賃貸借契約が更新される期間を1年間とする賃貸借契約について、更新料は有効と判断されました。この判決以降、更新料が高額であることを理由に更新料支払条項が無効であると判断された裁判例は見当たらず、何か月分の更新料であれば無効とされるかは不明確な状況です。もっとも、賃貸借期間が1~2年程度の場合、更新料の金額が月額賃料の2倍程度までであれば、更新料は有効と判断される傾向にあるため(東京地判平成26年8月26日など)、更新料を規定する場合、月額賃料に照らして過度に高額とならないよう注意することが必要です。
また借地の事案ではありますが、裁判例には、「契約が更新される場合(法定更新を含む。)、賃借人は契約更新がなされた日から1か月以内に相当額の更新料を原告らに支払う」という更新料支払条項について、かかる更新料条項は、「相当額」と定められているのみであり、一義的かつ具体的に記載されていない更新料の支払を約するものであるため、消費者契約法により無効と判断したものがあります(東京地判令和2年2月6日)。そのため、賃貸人としては、更新料を規定する際、「相当額」といった表現は避け、例えば「更新料として賃料1か月分に相当する金額を支払う」などといった、更新料を一義的かつ具体的に規定することが重要となります。
このように裁判例は、更新料に関する条項が契約書に「一義的かつ具体的」に記載され、賃借人と賃貸人の間で更新料の支払いに関する「明確な合意」を要求しています。賃貸人としては、賃借人に更新料の支払いについて丁寧に説明し、理解を得ることで、更新料の支払いを巡るトラブル発生のリスクを抑えることが可能となります。
更新料不払い時の契約解除について
⑴ 更新料不払い時における契約更新の有効性
まず解除の可否を検討する前提として、更新料が支払われない場合でも、賃貸借契約は有効に更新されたと言えるのでしょうか。この点について、裁判例は、更新特約に基づいて賃貸借契約の更新を行う意思が当事者双方にある場合、更新料の支払がなくとも、賃貸借契約は更新されると判示しています(東京地判平成29年9月28日)。そのため、本件も裁判例と同様、賃貸借契約の更新は有効と考えられます。
⑵更新料不払いを理由とする解除の可否
賃借人の更新料不払いを理由に、賃貸人による賃貸借契約の解除が認められるか問題となります。裁判例は、単に賃料不払いや用法違反があったというだけでは賃貸借契約の解除はできず、それにより賃貸借契約を継続し難い事情があるときに初めて解除が認められるとしており(最判昭和39年7月28日など)、更新料不払いを理由とする契約解除の可否について判断が分かれています。
更新料の不払いがあっても解除を認めなかった裁判例として、東京地判昭和50年9月22日があります。この事案は、賃借人が借家契約において賃料1か月分に相当する更新料の支払義務がないと主張して更新料を支払わなかったものですが、裁判所は、更新料は賃料1か月相当の少額であり、賃借人が更新料の支払義務を負う旨を裁判所が認めれば、賃借人はこれを支払う意思を有すると認められることを理由に、更新料不払いにより直ちに当事者間の信頼関係が破壊されたとすることはできず、解除は無効と判断しました。
一方、更新料不払いを理由とする解除が認められた裁判例として、東京地判平成29年9月28日があります。この裁判例は、従前、賃貸借契約を2度更新したにもかかわらず、賃借人が2度の更新料支払いを行わなかったケースで、更新料不払いは、不払いの態様、経緯その他の事情からみて、賃貸人と賃借人間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には、賃貸借契約の解除原因となり得るとした上で、更新料不払いの期間が相当長期に及んでおり、不払い額も少額でないことなどを理由に賃貸人による解除を認めました。
これらの裁判例からすると、1度の更新料不払いのみで信頼関係が破壊されたといえるかは疑問であり、更新料不払いを理由とする解除の可否は、更新料不払いの金額や不払いの経緯、不払いの期間といった事情を総合考慮して判断されます。そのため、賃貸人としては、更新料の不払いが生じた場合、従前の更新料の支払状況などをよく確認したうえで、契約解除が認められるか慎重に検討すべきです。
終わりに
今回は更新料支払特約を規定する際の注意点と更新料不払いを理由とする契約解除の可否について解説しました。上述の通り契約解除が認められるかは、様々な事情が考慮され、法的な判断を伴います。また、今回は更新料支払特約があることを前提に解説しましたが、そのような特約がない場合にも更新料を請求できるか等、更新料を巡る問題点は様々あります。更新料に関してご相談がある場合は、不動産に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
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この記事を書いた人
弁護士
弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。