賃貸・迷惑入居者を「管理」する責任は誰にある?
賃貸幸せラボラトリー
2024/11/27
迷惑行為は誰がやめさせる?
賃貸マンションやアパートに住む人が悩まされがちなトラブルやストレスといえば……
騒音、震動、悪臭、共用部分でのゴミの投げ捨てや私物による占拠、ゴミ出しルール違反、汚部屋をつくる、奇声を上げるなど……
枚挙に暇がないが、要は、同じ建物に住む別の入居者、すなわち隣人が原因となるものが多くを占めている。
こうした行為をやめさせる責任や、義務はそもそも誰にあるのか?
答えはとても簡単なのだが、それが判らずに現場が混乱している例も意外に多い。
この記事では、正しく、法律をもとにそこを改めて整理していこう。
オーナーが責任者
まず、答えから。
賃貸マンションやアパート、すなわち賃貸集合住宅で、ほかの入居者の平穏な生活を脅かすような迷惑を及ぼす入居者が発生した場合、そうした行為をやめさせる責任は、その物件の貸主にある。すなわちオーナーだ。
根拠も明確に存在する。民法第601条となる。
(民法第601条)
「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」
ポイントは下記の部分となる。
「当事者の一方が、ある物の使用及び収益を相手方にさせる」
ここでいう当事者の一方とは、賃貸住宅の場合オーナーがそれに当たる。相手方とは借主、すなわち入居者のことだ。
そのうえで、「賃貸借契約の効力は、オーナーがその住宅の使用及び収益を入居者にさせ、それに対して入居者が賃料を支払うことで生じる」旨、ここには明記されている。
つまり、逆にいえば、オーナーが入居者に対し、使用及び収益、とりわけ収益をさせていない(させることができていない)のならば、契約の効力は生じない。
なので、入居者が、賃料を支払う義務をその時きちんと果たしているのならば、オーナーは契約上、釣り合いの取れない立場に立つことになる。
すなわち、法律違反を犯していることになるわけだ。これを専門的、かつ具体的には「債務不履行」という。
使用収益とは?
では、ここで、契約の効力が発生する条件の一方とされている使用及び収益、略して「使用収益」とは、何を指す言葉なのか?
それは、賃貸住宅の場合、入居者がこの物件を住居として、安全、安心かつ平穏、無事に暮らせることを指す。
単純にいえば「まともに暮らせること」となるだろう。
であれば、仮に、迷惑入居者の行動によって、周りの入居者が「うるさくて夜眠れない」「臭くて窓を開けられない」など“まとも”に暮らせていない場合、オーナーは、それらの入居者に対して使用収益をさせられていないことになる。
使用収益させられていない、イコール、繰り返すが法律違反だ。賃貸借契約をその時点で成立させられていないということになる。
そのため、入居者から家賃をもらっている以上は、そうした状況を速やかに改善、解消するのがオーナーの義務となる。
なおかつ、それを果たすため、オーナーは速やかに事態の収拾に向けて行動しなければならないことになるわけだ。
理屈は以上だ。
つまり、こうした理由から、賃貸集合住宅で、ほかの入居者の平穏な生活を脅かすような迷惑をおよぼす入居者が発生した場合、そうした行為をやめさせる責任はオーナーにある。
そこで、これを全うする仕事が「個人としてキツい」ということであれば、オーナーは実務を他に委託できる。それを請け負うのが管理会社だ。
よって、この場合、管理会社はあくまでオーナーの代理として行動する。入居者からの苦情を聞く窓口になり、問題を把握したならば実際に状況を確認する。その結果―――
- 「周りの入居者の受忍限度(社会通念上我慢できると思われる限度)を超える迷惑行為が存在する」(たとえば騒音、振動など)
- 「賃貸借契約の内容にそもそも違反する行為が存在する」(たとえば私物による共用部分の占拠など)
こうした事実が判明したならば、その解決・改善のため、物件内に警告書を貼り出したり、迷惑入居者当人と話し合ったりするなど、具体的な作業を進めていくことになるわけだ。
尻切れトンボになりがちなネットやメディアの報道
以上、述べたことについては、別段法律をひもとくまでもない。
「それって、家賃を貰ってる大家さん(オーナー)の責任じゃないの?」
普通にバランス感覚を持っている人ならば、多くがそう思うことだろう。
ところが、ここで時折障害となっているのが、インターネットや一部のメディアなどに見られる報道や情報となる。
これらにおいては、迷惑入居者の常識に外れた行動や、それに対する一般入居者の困惑などをメンタル中心に掘り下げていくことが多いが、話はしばしばそこまでで途切れてしまう。
そのうえで、「個人間のトラブルに第三者は介入しにくい」等、まとめてしまうなど、現実に悩んでいる入居者がミスリードされる懸念も少なからず生じるかたちとなっている。
介入しにくいどころか、介入しなければならないのだ。オーナーの場合は。
よって、この記事では、法律に基づく簡単な理屈を改めて語っておいた。参考にしてほしい。
迷惑入居者自身も法律違反
迷惑入居者に対し、オーナーが臨む際のスタンスについても触れておこう。
普通に暮らす一般入居者が、迷惑入居者の行動によって契約に基づく使用収益を得られていない場合、オーナーは、民法第601条の規定に反する立場に立つ。こちらは説明したとおりだ。
一方、オーナーをそういった立場に立たせた迷惑入居者の方も、その際は同じく法律違反の立場に立つ。条文は以下のとおりとなる。
(民法第594条第1項)
「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。」(同 第616条)
「第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。」
このうち、上段594条第1項は、無償での貸し借りを意味する「使用貸借」についての規定となるが、616条を重ねることで、有償による住宅の賃貸借、すなわち賃貸住宅にも適用されるかたちとなっている。
要はこういうことだ。
「入居者は、賃貸住宅での暮らしにあるべき常識や良識に従って、周りに迷惑をかけないように生活しなければならない」
以上は、専門的には「用法遵守義務」と呼ばれるものだ。
つまり、オーナーは、周囲の生活を脅かす迷惑入居者に対し、法律に基づく用法遵守義務違反を指摘することで、そうした行為の停止を求めるべき立場にある。
なおかつ、管理会社との契約内容によっては、それを管理会社に指示、実行させる立場にもあるわけだ。
どちらにしても責任はオーナー
ところで、一部の専門家など、なかにはこんな意見を持つ人もいる。
「迷惑入居者による迷惑行為が、賃貸借契約書に禁止行為として記されていない場合、具体的な契約違反は生じていないので、オーナーが是正を求めるにはリスクがある」
しかし、それでは現実として多くの迷惑行為が「リスクのある」対象となってしまう。なぜなら、大半の契約書は「あれをするな、これをするな」をいちいち細かく網羅していない。そもそも網羅しきれない。
「楽器の演奏は禁止」と、あっても「夜〇時以降に宴会等を開いて〇〇デシベル以上の大声を出すのはダメ」と、具体的に書いてある契約書はまず存在しない。
「汚部屋をつくって悪臭を放ち、害虫を繁殖させる行為は禁止とする」であれば、ますますなおさらのこととなる。
よって、この点においての迷惑入居者に対するスタンスは、司法の最終判断が個別にどう揺れるかはともかくとして、民法の用法遵守義務違反に総括しておくのが、やはり合理的だろう。
ともあれ、そうした観点から仮にオーナーが悩んだとしても、迷惑入居者による被害を受けている側には関係がない。
繰り返すが、その人自身が周りに迷惑をかけない普通の入居者であり、ちゃんと家賃を払っている以上、迷惑入居者対応は、民法第601条に基づきオーナーに任せるのが妥当な立場にある。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室