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定期借家をおさらい 家賃が上がる時代「定期借家」は増えていく?

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25年ぶりに「家賃」の指数が上昇

この春、総務省から公表された2023年の消費者物価指数。そこで示された、ある数字がインパクトを広げている。賃貸住宅の家賃を示す指数だ。前年比で0.1%上昇した。

小さな動きだが、ここで重要なのは、この指数が25年ぶりのプラスとなったことだ。25年、すなわち四半世紀となる。その間、長きにわたって続いてきた、

  • 「家賃は上がらないもの」
  • 「岩盤(のように動かない)サービス価格の代表」

そんな常識が、昨今の物価上昇の勢いとともに、今後変わっていくのかが注目されている。

ところで、25年ぶりといえば、起算はいつかというと98年になる。

その98年以降、こんにちまでの間に、賃貸住宅をとりまく世界の中で、大きな制度の変化がひとつ起きていたことを読者は知っているだろうか。

答えは「定期借家」制度のスタートだ。00年のこととなる。

定期借家が増える可能性

定期借家―――より正しくは「定期建物賃貸借契約」制度となる。施行されて以降、市場においては常にマイナーなものであり続けて来た。

たとえば、国土交通省「住宅市場動向調査」令和4年度(22年度)分を見ると、首都圏でのシェアは2.8%、近畿圏で1.9%となっている。対して、一般的な「普通借家」の場合、首都圏でのシェアは93.3%、近畿圏では98.1%と圧倒的だ。

定期借家は、入居者保護に手厚い普通借家に比べると、オーナー側により有利な制度となっている。

そのため、「上がらない家賃」「岩盤のように動かない家賃」―――そうした環境をかたちづくる「借り手市場」では、なかなか採用されにくい。

しかしながら、そうした状況が変わってくれば、この制度の立ち位置ももしかすると変わってくる可能性がある。

すなわち、昨今、大都市部の中古分譲マンションでたびたび起きていること
―――価格維持率の100%超過(中古価格が新築時の販売価格を上回る)

それと似たようなこと
―――賃料維持率の100%超過(建物の築年数が増加したマイナス分があっても、以前よりも高い家賃で次の入居者に借りてもらえる)

後者が、今後エリアによって生じる場合、その場所の賃貸市場は、要は「貸し手市場」となる。すなわち、定期借家の割合が増える可能性もあるということだ。

以上を踏まえたうえで、定期借家について、Q&A形式でおさらいをしていこう。

入居者の立場からは特に気になる「契約期間」「中途解約」「家賃」に絡むことがらについて、主に説明していきたい。

なお、以下では「大家」「家主」「貸主」―――すなわち賃貸住宅の賃貸人のことを「オーナー」と呼んでいる。対する賃借人は「入居者」だ。

Q1.定期借家と普通借家の違いを知りたい。

もっとも重要な違いはこうなる。

普通借家では、入居者が意に反して住居を失わないよう、法律上、強力な保護が講じられている。そのため、オーナーからの契約更新の拒絶は非常に難しい(正当事由が要件)。これにより、事実上、契約は自動的に更新されていく。

定期借家では、契約で定めた期間の満了によって、契約は更新されることなく「確定的」に終了する。つまり、更新の概念はないと解釈するのが正解だ。

さらには、以下のとおり、手続き上の大きな違いが2つある。

(1)契約の方法

普通借家
書面でも口頭でも可。(ただし、契約書が作成されないケースはほとんどないだろう)

定期借家
書面による契約に限られる。つまり、契約書の作成は必須だ。加えて、契約書とは別にオーナー側(オーナーや、間に立つ不動産会社)は、「この契約には更新がなく、期間の満了によって終了する」旨を記した書面を交付し、口頭説明も行わなければならない。

(2)契約期間満了の通知

普通借家
決まりはない。通常は、期間満了に伴う「更新案内」の書面が、オーナー側から入居者へ渡される。

定期借家
オーナー側は、入居者に対し、契約期間満了の1年前から6カ月前までの間に、「期間の満了によって賃貸借契約が終了する」旨を通知しなければならない。ただし、契約期間が1年未満の場合、この通知は必要ない。

以上、ほかにも色々な違いはあるが、ここでは割愛しておこう。

Q2.定期借家では、契約期間満了後は、同じ物件に住み続けられないのですか?

住み続けられないケースと、住み続けられるケースがある。

(1)住み続けられないケース

その物件が、たとえば、以下のような理由で定期借家を採用している場合、入居者が住み続けることは通常できないだろう。

  • オーナーがいわゆる「転勤大家さん」で、その物件から引っ越して別の場所に住んでいる間だけ、定期借家で賃貸している。期間満了後は、オーナーがその物件に戻ってくる
  • 物件は解体予定で、それまでの間だけ、定期借家で賃貸されている。期間満了後は取り壊し工事が始まる

ほかにもケースはいくつか考えられるが、こうした場合、予定の変更がない限り、入居者は住み続けられないことになる。

さらに、こんなケースもある。

  • 入居者の生活のしかたが良くないので、オーナーが、その人とは再契約しないと判断している

定期借家は、迷惑入居者を契約期間満了の時点でスムースに退去させる手段としても有効だ。そのために選ばれている場合もある。

なお、迷惑入居者とは、建物をやたらと汚したり、騒音などで周囲に迷惑をかけたり、生活ルールを守らなかったり、家賃の支払いを遅らせたりするなど、素行のよくない入居者のことだ。

(2)住み続けられるケース

オーナーが、望ましい入居者に対しては再契約をしてもらうことを前提としている物件では、いま挙げた迷惑入居者でもないかぎり、両者合意のもと、再契約(新たに契約を結ぶ)した上で住み続けられるだろう。

なお、そういった物件では、契約の中に、「入居者とオーナーの合意により、本契約の期間の満了の日の翌日を始期とする新たな賃貸借契約(再契約)を結ぶことができる」と、いった約定が盛り込まれることが多いはずだ。

Q3.定期借家では、契約期間の縛りが厳格なイメージです。一旦契約してしまうと、入居者は契約期間内に退去できなくなったりするのですか?

つまり、入居者側からの中途解約は可能か? ということになるが、それが出来る条件を法律が定めている(借地借家法第38条第7項)。

「居住用の床面積200㎡未満の物件の場合、入居者が、転勤、療養、親族の介護、その他のやむを得ない事情により、物件に住み続けられなくなったときは、1カ月前までに申し入れすることにより中途解約が可能(=申し入れの日から1カ月を経過することによって契約が終了)」(条文を意訳)

なお、200㎡未満であれば、ほとんどの居住用物件が該当するだろう。

Q4.Q3の中の「その他のやむを得ない事情」というのが気になります。入居者側の事情はどのくらい汲んでもらえるのでしょうか?

不動産業界の各団体等が構成する「定期借家推進協議会」が、以下のような解釈をリリースしている。参考になるだろう。

「その他のやむを得ない事情とは、契約したときには予測が困難または不可能であり、その事情が発生すると、借主が生活の本拠として使用することが困難となるものであり、長期の海外留学・海外派遣や、勤務先企業の倒産・解雇による家賃支払いの困難、リストラ等で転職を余儀なくされて転居する場合も含まれると思われます」(抜粋)

Q5.Q3とQ4を総合すると、定期借家では、入居者は「単に気分を変えるため住み替えたい」などといった理由では中途解約できないように思われるのですが、実際はどうなのでしょう?

借地借家法第38条第7項の規定はあっても、それ以前に、入居者・オーナー間での話し合いの結果、合意があれば合意解約が成立する。合意が成されない場合や、争いが生じた場合は、法律に沿うか否かが問題となるわけだ。

さらに、質問のようなケース(借地借家法の規定を満たさない理由で入居者が中途解約を希望するケース)を想定した、守備範囲の広い約定が、あらかじめ契約の中に盛り込まれることもある。たとえば、

「入居者は3カ月前までに申し入れすることにより、(借地借家法に規定する以外の理由でも)中途解約できる。なお、それに代えて解約申し入れの日から3カ月分の賃料を支払えば、随時に解約が可能」

つまり、入居者が希望を通すためには、それが可能な期間の条件が定められていたり、あるいは“賠償”を支払うことで、その条件を外すことが出来たりといった仕組みとなる。

Q6.定期借家ではオーナーは家賃を値上げしやすいと聞きました。その理由は?

最大の理由は、定期借家には更新の概念がないことだ。

まず、一般的な普通借家から説明しよう。普通借家では、入居者が意に反して住む場所を失わないよう、入居者保護を目的とする強力な規定が、法律上講じられている。そのため、契約期間中のみならず、期間満了後の更新時であっても、以前からその物件に暮らす入居者に対し、オーナーが家賃の値上げを申し入れるのは通常困難な仕組みとなっている。(もう少し詳しい説明を別の記事に載せてある―――「賃貸・家賃を『値上げします』と言われたら」)

一方、定期借家では、Q2でも説明したとおり、契約期間満了後、入居者がその物件に住み続けたい場合は、オーナーの同意を得た上で再契約が結ばれる。

そのうえで、再契約とは、すなわち「これまでの経緯は全部白紙にし、新たな契約を結ぶ」ことを意味する。つまり、入居者が以前と同じ人でも、新たにどのような契約条件を設けるかは、オーナーの自由となるわけだ。そのため、家賃の値上げもしやすい。たとえば―――

「これまでの契約ではあなたに月10万円で貸していましたが、この物件は周囲の再開発で格段に立地が良くなり、いまは15万円でも借り手が付きそうです。なので、いままで住んでくださっていたあなたでも、新規に契約する際の家賃は14万円です。申し訳ないが、それ以外ありません」

そんな風にオーナーから言われ、納得できない場合、普通借家の更新では、これに抵抗する余地が入居者には十分に残されている。借地借家法が後ろ盾になってくれるからだ。

しかしながら、定期借家ではそうはいかない。オーナーの意志に従うか、再契約を諦めるか、いずれかを選ぶほかない仕組みとなっている。

Q7.自分が定期借家で契約を結んでいることを忘れてしまい、退去・物件明け渡しの準備が遅れてしまうことが心配です。予防措置はあるのですか?

Q1で触れたとおりだ。定期借家では、オーナーは入居者に対し、契約期間満了の1年前から6カ月前までの間(通知期間)に、「期間の満了によって賃貸借契約が終了する」旨を通知しなければならないことになっている。これは、まさに「入居者が契約上の立場を忘れ、退去の準備を怠ってしまう」ことへの注意喚起のためだ。

ただし、要注意なのは、契約期間が1年未満の場合となる。この場合、上記の通知は必要なくなる。十分に注意したい。

なお、入居者ではなく、オーナー側が上記の通知を忘れ、通知期間を過ぎてからこれを行った場合は、入居者を保護する措置がとられることになっている。すなわち、入居者に時間を与えるため、契約期間の終了はあとに延びることになり、「通知の日から6カ月を経過した日」となる。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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