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賃貸・家賃を「値上げします」と言われたら

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実質賃金マイナスが続く中で「悲報」が続々

賃貸住宅での家賃の値上げ、最近、話題となることが多い。

「賃貸住宅の家賃を示す消費者物価指数が、2023年は前年比0.1%上昇。25年ぶりのプラス」と、日本経済新聞が報じたのがこの4月。

こうした数字を見るまでもなく、昨今、家賃の値上げは、各メディアの報道のみならず、有名人等のSNSでの発信も含め、たびたび目につくものとなっている。

もちろん、このことには、近年の物価上昇や建設資材の高騰、賃上げといった背景が大きく影響している。

一方で、働く人1人あたりの実質賃金は25カ月連続の「減」だ。過去最長を更新中とのこと。(厚生労働省・毎月勤労統計調査令和6年4月分)

しんどい時期に、しんどい話―――と、いうことになっている。

そこで、あなたが、もしもいま住んでいる賃貸住宅の家賃を「値上げします」と、言われたら?

Q&A形式で、アドバイスをまとめていこう。

なお、以下のQ1からQ11までのうち、Q10までについては、一般的な「普通借家」による建物賃貸借契約が話の前提になっている。

さらに、以下では「大家」「家主」「貸主」―――すなわち賃貸住宅の賃貸人のことを指して「オーナー」と呼んでいる。対する賃借人は「入居者」か「あなた」に統一してあるので、以上を踏まえた上で、順に読んでいってほしい。

家賃値上げの申し入れは、オーナーから直接入居者に対し行われることもあるが、実際には、間に立つ管理会社や仲介会社(どちらもいわゆる不動産会社)が代行するケースの方が多いだろう。


Q1.「家賃を値上げする」と、オーナーから言われた。収入が少ないので厳しい。それでも従わないといけないんですよね?

「従わないといけない」「意見は言えない」―――そう思い込んでいる入居者もなかにはいる。だが、それは間違いだ。なぜなら、あなたがいま支払っている家賃は、あなたとオーナー、すなわち契約当事者同士が合意をもって決めたものなのだ。(そういう意識は無かったとしてもかたちはそうなのだ)。

なので、これを変更するにも合意が必要となる。値上げに納得がいかなければ、泣き寝入りする必要はない。話し合いをもちかけて構わない。

Q2.「家賃を値上げする」と、オーナーに言われたが、納得がいかないので話し合いをしたいと思います。まずすべきことは?

オーナーに(管理会社などが間に入っているならば管理会社に)、値上げの理由を尋ねよう。根拠は借地借家法だ。オーナーが入居者に対して家賃の値上げを申し入れるには、この法律で定められたハードルをクリアする必要がある。以下の条件を踏まえていなければ、それは出来ない(賃料増額請求権が発生しない)ことになっている。

「賃料増額請求権」が発生するケース(借地借家法第32条第1項に基づく)

  • オーナーが支払う、土地や建物に対する租税等の負担が増加している
  • 土地や建物の価格の上昇や、経済事情の変動が生じている
  • 近隣の同様の物件の家賃に比べて、(あなたの住む物件の)家賃が不相当に安い状態となっている

これらの条件のいずれか、あるいはいくつかを踏まえた申し入れである旨、具体的な数字を挙げるなど、明確に説明が出来ない場合、そもそもオーナーに賃料増額請求権は発生しないことになるわけだ。まずは、そこを確認するため、家賃値上げの理由を尋ねることになる。

Q3.オーナーに家賃値上げの理由を尋ねたところ、地価の上昇にともなう固定資産税の増加や、物価高・人件費高騰による建物の修理、管理費用の増加など、具体的な説明がありました。値上げを受け容れるほかないでしょうか?

オーナーの説明をウソのない正しいものと判断するか。説明が正しいとして、値上げ幅は妥当かどうか。それらは、大変なことかもしれないが、契約当事者であるあなたが判断することだ。オーナーの説明内容に疑問がある場合や、自分で判断できない場合は、自ら調べたり、勉強したり、知識のある人に相談したりすることになる。

なお、質問にある、固定資産税の増加や、物価高等による建物修理、管理費用の増加が確かに事実であり、それが家賃を値上げしたい理由であるならば、それらは先ほど掲げた賃料増額請求権発生の条件に適っていると言えるだろう。あとは、値上げ幅が妥当か否かが焦点となる。

Q4.オーナーから家賃値上げ理由の説明がありましたが、内容に納得がいきません。これでは受け容れられない。どうすればいいでしょう?

答えを順に並べていこう。

基本は、話し合いをさらに進めることだ。オーナーの説明に不明な点があるなら質問すればいいし、不足があるならそれを求めればいい。自分で調べたデータや、学んだ知識、または知識のある人から聞いた内容と異なっているのならば、決してケンカ腰にはならずに、それを丁寧に示せばよい。

次に、それでも話がまとまらない場合、法律は、いきなりの裁判ではなく、まずは調停の申し立てをするように求めている(民事調停法第24条の2第1項)。裁判所で、調停委員会に仲立ちしてもらいつつ、合意を目指すことになるわけだ。訴訟・裁判は、そのさらに先の話だ。

なお、家賃値上げを巡っての争いでは、積極的な立場(現状を変えたいと思っている立場)にあるのはオーナーだ。調停に至る場合、申し立てに踏み切るのは、通常、オーナーとなるだろう。

そのうえで、入居者は現に払っている家賃をどうするかだ。

当たり前だが、家賃の値上げについて話がまとまらない状態であっても、入居者は、今そこに住んでいる以上、家賃を払わなければならない。ただし、その額は入居者が「相当と認める額」でよいことになっている(借地借家法第32条第2項)。オーナーが求めている値上げ後の金額である必要はない。

では、「相当と認める額」とは?

それは、今払っている家賃の額と解釈するのがほぼ正解だ。「ほぼ」と書いたのは、特別なケースもあるためだが、一般的なアパートや賃貸マンションなどで、自身が住むための部屋を借りている“通常の賃貸契約”の場合、たとえ係争中であっても、現状の家賃をきちんと払っていれば、オーナーがその入居者に対して「値上げを受け容れないなら退去せよ」と求める権利が生じることは、基本として無い。

Q5.「相当と認める額」として、現状の家賃を払おうとしたところ、オーナーが「値上げした額の家賃でなければ受け取らない」と、言ってきました。どうすれば?

そう主張するオーナーの意志が固いのならば、入居者は家賃を供託すればいい(弁済供託)。供託所(法務局、地方法務局、またはこれらの支局)に供託書を提出し、手続きする。供託をしていれば、入居者は家賃をちゃんと支払っていることになり、オーナーも滞納を指摘できない。

なお、オーナーの態度や言い分が気に食わないからといって、「相当と認める額」を支払わず、供託もせずにいると、それは単なる家賃の不払い=債務不履行となる。値上げ云々の前に、賃貸借契約自体を解除される可能性が生じるため、決してしてはならない。

Q6.調停(あるいは裁判)の結果、オーナーの求めていた値上げ幅は認められなかったものの、その半額だけ家賃が上がることになりました。また、値上げの時期はオーナーの希望どおりとなり、過去に数カ月さかのぼるかたちとなりました。係争中に支払っていた(あるいは供託していた)家賃との差額はどうなりますか?

これは、すでに支払っていた家賃の額に不足があるケースとなる。この場合、借地借家法第32条第2項の規定では、「不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して」支払うことになっている。だが、実際の調停や裁判では、不足額の清算のしかたについても、詳細が定められることになるだろう。

Q7.オーナーから、「次の契約更新のあとから家賃を値上げしたい」と、言われた場合はどうなるのですか?

そのケースは多いはずだ。オーナーからの家賃値上げの申し入れは、契約期間の途中よりも、更新のタイミングで行われる方が実際には多いだろう。

とはいえ、入居者がそれに納得できない場合の流れは、前のQ&Aまでと同じだ。まずは話し合い。それで解決できなかった場合は調停。それでもダメなら裁判と進むことになる。

Q8.オーナーから「次の契約更新のあとから家賃を値上げしたい」と言われ、納得がいかず話し合っている途中に、更新時期(契約期間の満了)が来てしまいました。退去しなければいけないのでしょうか?

退去の必要はない。なぜならこうしたケースでは、借地借家法の規定により、契約は以前の条件のまま「法定更新」されることになっているからだ。家賃値上げについての話し合いが決着していなくとも、入居者は家賃をきちんと払い続けているかぎり、そのままそこに住み続けられる。

なお、ここでいう「きちんと払う」とは、もちろん、Q4やQ5で説明したとおりの対応をしているということだ。(更新前は従前の家賃、更新後は入居者が相当と認める額の支払い、あるいは供託の実行)

Q9.家賃の値上げはつらい。ですが、調停とか裁判とか、大ごとにしたくありません。オーナーとの関係もなるべく悪化させたくありません。話し合いのコツは?

もっとも多い要望だろう。あくまで結果は保証できないが、答えをひとつ挙げるとすれば、それは、オーナーの希望にある程度は譲りながら、入居者側も要望を示してみることになる。

「物価上昇など、状況は理解できます。けれども、月5千円(年間だと6万円)の値上げは私の収入では厳しい。半分で収めてもらえないだろうか」

「更新後の値上げは受け容れます。ですが、その代わりに目の前の更新料を免除してくれると助かります」

「値上げの理由は理解できますが、新しい家賃はとても払えません。まだここに住んでいたかったけれども退去せざるをえないので、引っ越し費用や、その他経費も含めた立ち退き料、敷金の全額返還をお願いできませんか」

つまり交渉だ。落としどころを探っていく。

対して、オーナーの方も、実のところ交渉になることを想定し、妥協点を用意したうえで、値上げ幅をあらかじめ多めに出して来ているケースもある。

互いの妥協点と妥協点が、初期の話し合いで一致すれば、双方、嫌な気分が残ることも少ないだろう。

Q10.家賃を値上げしたいとは言われていないのですが、私が結んでいる賃貸借契約では、「家賃は〇年ごとに当初の家賃の〇%分上がっていく」旨、特約が設けられています。これは有効なのでしょうか? 従わなければいけませんか?

これは、「賃料自動増額特約」あるいは「スライド条項」または「一方的値上げの特約」などと呼ばれるものだ。家賃値上げ交渉にかかわる気苦労や、トラブルを事前に避けたいオーナーの意志により、契約に盛り込まれることがある。

そのうえで、これには従わなければならないと思う入居者は多いだろう。当然ながら、あなたはその内容に合意した上で、契約書に署名・捺印しているはずだからだ。

しかしながら、こうした特約については、過去の判例などから、拘束力を失う可能性があることが指摘されている。

ひとつは、特約自体が有効と認められない場合だ。家賃が値上げされるにあたっての基準が、借地借家法第32条第1項に示された条件(下に再掲)に照らして不相当な場合や、そもそも基準が不明確、合理性を欠くものであったりする場合、特約は無効となる可能性がある。

もうひとつは、状況の変化だ。契約が結ばれた時点では有効と認められる内容であったとしても、そののち経済事情の変化等によって、借地借家法第32条第1項に照らして値上げの基準が不相当なものとなれば、その特約は拘束力を失う可能性がある。

つまり、借地借家法第32条は強行規定と呼ばれる厳格なものなのだ。これに反すると認められれば、その特約は効力を失う。

従って、入居者が、同法に照らして当該特約の有効性に疑問を感じたり、特約に沿って家賃が上がる時点で「不相当」と判断したりした場合は、いわばあと出しジャンケンのかたちであっても、話し合いをもちかけることに支障はない。

「賃料増額請求権」が発生するケース(再掲)

  • オーナーが支払う、土地や建物に対する租税等の負担が増加している
  • 土地や建物の価格の上昇や、経済事情の変動が生じている
  • 近隣の同様の物件の家賃に比べて、(あなたの住む物件の)家賃が不相当に安い状態となっている

Q11.賃料増額請求権のハードルや法定更新など、法律が入居者の味方になってくれていることは理解しました。ですが、現に「家賃値上げを拒否したら契約更新を拒否された―――泣く泣く退去した」と、いった話は耳に入ります。どうしてでしょうか?

そうした事例が実際にどのくらいあるのか、また、その実態も個々に接してみないとわからないが、このQ&Aで説明したようなことを知らずに、入居者が泣き寝入りしているケースが少なからずあるとの想像は、もちろん可能だ。

そのうえで、それらの話の一部で生じているかもしれない誤解について触れておこう。

「家賃値上げを拒否したら契約更新を拒否された―――退去を強いられた」と、いったケースでは、実のところその物件が「定期借家」で賃貸借契約されていた可能性も無くはない。定期借家契約、より正しくは「定期建物賃貸借契約」だ。

定期借家には、そもそも更新の概念がない。よって、さきほどの法定更新も起こりえないのだ。契約期間の満了とともに、契約関係は完全に終了するかたちだ。

よって、その後も入居者がその物件に住み続けたいのならば、オーナーとの合意のもと、新規に契約を結ぶことになる。すなわち、「更新を拒否された」という表現は、定期借家の場合間違いなのだ。正しくは「新規に契約を結べなかった」ということになる。

新規の契約、ということは、当然、家賃もゼロから仕切り直しとなる。

「これまでの契約ではあなたに月20万円で貸していましたが、この物件は周囲の再開発で格段に立地が良くなり、いまは25万円でも借り手が付きそうです。なので、いままで住んでくださっていたあなたでも、新規に契約する際の家賃は24万円です。申し訳ないが、それ以外ありません」

オーナーがそう主張するにあたって、根拠を示す資料の提出も要らなければ、入居者がそれを求めてよいとする理由もない。

調停や訴訟、法定更新に持ち込まれるリスクもなく、そもそも話し合いに応じる必要もないため、たとえば人気の物件であれば、オーナーは強い立場から、自身、有利となるための意志を通しきることが可能となるわけだ。

なお、現在、賃貸物件の多くは定期借家ではなく、いわゆる「普通借家」で契約されている。

たとえば、この5月に不動産ポータルサイト「at home」を運営するアットホーム株式会社が公表した資料によれば、同社ネットワークにおいて登録・公開された「賃貸マンション」全体に占める定期借家物件の割合は、東京23区の場合で6.3%となっている。「アパート」だと5.2%だ。これでも、23区の数字は周辺に比べてかなり高い。(アットホーム社「定期借家物件の募集家賃動向」2023年度

そのうえで、定期借家は、マンションでは概して大型の物件で採用されることが多い。同資料によると、東京23区内・70㎡超のマンションでは、30.7%という数字が挙がっている。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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