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田舎暮らしのメリット・デメリット

馬場未織馬場未織

2016/01/04

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アベノミクスの恩恵はどこへ? 地方の雇用をめぐる状況

 移住に興味を持っていると、つい隣の芝生が青く見えてしまって、今すぐにでも空気のおいしい地域に引っ越したい!と思うかもしれません。でも、田舎暮らしも決してパラダイスではありません。いいところもあれば大変なところもあるのが当たり前。あとから後悔しないように、あえてデメリットも押さえておくのが賢明です。

 地方は都会と違って雇用してくれる事業所の数自体が少ないため、「仕事=雇用される」と考えると就職先の確保には苦労します。アベノミクスの恩恵など地方には無関係と思ったほうがガッカリしないですみます。

 その上、給与水準が都市部とは相当異なることは覚悟しておいたほうがいいでしょう。単純に最低賃金で見た場合、全国平均が798円なのに対して、最も高いのは東京の907円、次が神奈川の905円(2015年10月現在)。いちばん低いのは、鳥取、高知、宮崎、沖縄の693円で、東京との差は214円にもなります。仮に時給制の職場で1日8時間、週休2日で月間22日働くとすると、3万8000円近くの差が生まれることになります。

 単純に仕事の数や時給で見ると、地方で働く魅力は多くなさそうな気がします。でもそうやって、若い人が都市部に流出してしまっているからこそ、よい人材が不足しているのも事実です。人口が密集した都会には、相対的に優秀な人間も多いですから、そうした環境で生き残っていこうとすると、毎日が競争の連続です。

 その点、どうしても人材が不足しがちな地域に行けば、都会の企業で武者修行を積んできた貴重な人材として活躍の場が広がることも考えられます。都会という「レッドオーシャン」ではなく、地方の「ブルーオーシャン」で輝く作戦も十分あり得ます。

収入減は生活費の安さでカバー

 賃金の低さが実は大したデメリットではない可能性もあります。地方はなんといっても生活費が安い! 収支の両面を見れば、地方の暮らしが侘しくなるわけでは決してありません。

 たとえば、生活費の多くの部分を占める家賃は、東京の平均が7万5000円強なのに対し、青森、秋田、鳥取、山口、香川、愛媛、佐賀、大分などの相場は4万4000円代から4万7000円代と、4割近くもリーズナブルです。賃金相場の差は家賃だけでも相当埋まりそうです。

 さらに、農産品や魚介類などの産地に近いわけですから、食料品も都会のスーパーとは比べ物にならない値段で売られています。しかも、文字通り産地直送ですから新鮮そのもの。都会で売られている食材には、いかに多くの流通コストが乗せられているかがわかります。

 また、地方のなかでも町中ではなくローカルな地域に住むのであれば、ご近所は農家さんというケースも多く、ことあるごとにおすそ分けをいただくこともあるかもしれません。

 人づきあいが苦手な人には負担かもしれませんが、地方のほうが一般に人間関係が濃密ですから、「お互いさま」「助け合い」の精神が生きています。ちょっと困ったことがあったとき、都会であればネット検索して業者を頼むような場面でも、田舎なら近所の助け合いで、現金など介さずに困りごとを解決することもできます。

 食べものにしても人にしても、地域の資源が豊富で、それは必ずしもお金を介して手に入れる必要はないのです。すべてが商業化して、お金を介してしかやりとりできない都会とは対照的です。

町と自然がほどよい距離に

 地方では町中に暮らしていても、ほんの少しクルマを走らせるだけで、山や海などの自然に触れ合うことができるのが大きな魅力です。たとえ小さな町でも、中心部なら商店や学校、医療機関など、生活に必要な商業施設はあり、思いのほか都市的な暮らしができます。その上で、ふと手を伸ばせるような距離に豊かな自然があるのは、アウトドア好きには好都合です。

 ただし、地方がどこも風光明媚なわけではありません。国道沿いには大型ショッピングセンター、ファミリーレストラン、カラオケボックス、パチンコ店などが建ち並び、どの地域も以前の持ち味を失って殺風景な景観が広がっている現実もあります。

 だいぶ前になりますが、「ファスト風土」という言葉がはやった時期がありました。その土地らしい町並みがなくなり、全国一律の殺風景な風景が広がるさまを、まるで全国チェーンのファストフード店になぞらえた言葉です。移住すれば、そうした地方の疲弊ぶりも直視しないわけにはいかなくなります。

 一方で、大型ショッピングセンターさえあればほぼ生活が立ち行くため、実務的な買い物はうろうろせずにコンパクトにすませることができます。つまり、変わり映えのしないラインナップなため、必然的に消費欲も抑えられるというわけです。

ネット環境が不安定

 とりあえずスマホートフォンさえあればどうにかなる、ということでどこでも情報を入手できると思いきや、田舎では「圏外」の場所がそこかしこにあるので注意が必要です。仕事にWi-Fiは必需品という人は、風光明媚で一目惚れした場所であっても、ちゃんとネットがつながるかどうかを確認することをおすすめします。

 ただ、ネットがつながらない環境にいると、人は存外、自由な気分にもなるものです。いつの間にか年中無休で連絡を取り合える状態に慣れてしまっていますが、「繋がらないなら、しかたがない」という割り切りによって、ネットサーフィンで無為な時間を過ごすことなく、リアルな生活に集中することができます。

 環境を逆手にとり『デジタルデトックス』を実践することで、過剰なコミュニケーションを整理すれば、シンプルでクリアな日々が手に入れられるかもしれません。


 2回にわたって、都会と田舎のそれぞれのメリット・デメリットを見てきました。どの程度の「都会度」と「田舎度」のバランスがいいと感じるか、自分のライフスタイルに照らして考えてみてください。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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