自分で家を建ててみる?―スモールハウス流行の兆し
馬場未織
2016/01/05
身の丈サイズで家づくりの夢を実現できる時代に
都会の便利な暮らしを捨てて田舎に移住し、夢のログハウスを建てよう! そんな野望を持っている人もいるでしょう。山深い地域や離島に土地を買い、荒れ地を開墾して、長年温めていた夢をかなえるべく、丸太を1本ずつ組みながら思い通りの家を建てる。とてもロマンがかき立てられますね。
かつて「自分で家を建てる」といえば、こういったイメージを思い浮かべる人が多かったのではないでしょうか。ところがいま、もっと気負わずに、身の丈サイズで家づくりに挑戦する人が増えてきました。「家」というより、むしろ「小屋」というほうがふさわしい、スモールハウスが流行の兆しを見せています。
スモールハウス・ムーブメントから「小屋」の流行へ
スモールハウス・ムーブメントの発祥の地は実はアメリカ。1999年、当時アイオワ大学で美術の教鞭をとっていたジェイ・シェファーさんが建てた10平米弱の小屋が発端となったと言われています。10平米とは畳の部屋に換算するとおよそ6畳ひと間。この広さに、居間や書斎、キッチンやバスルームなど、生活に必要な要素がすべて収まっています。小さなロフトもあり、そこを寝室に当てています。
6畳ひと間だけの住まいなんて、多くの人が「ウサギ小屋」に住む日本人の感覚から考えても相当にコンパクト。大柄なアメリカ人にとっては、どれほど「非常識」なサイズか想像に硬くありません。
ジェイさんの小屋が火付け役となる形で、全米各地でスモールハウス・ムーブメント(英語ではタイニーハウス・ムーブメントとも)が生まれました。その後のサブプライムローンの破綻やリーマン・ショックなど、経済危機を経て、身の丈サイズの暮らしが改めて脚光を浴びているのでしょう。
こうした動きは、日本でも小屋ブームとなって現れています。おかげで、大工の心得がなくても組み立てられるキットの種類も豊富になってきました。ログハウスふうのものから、かなり斬新なデザインまで、外観も好みで選べます。価格はさまざまですが、居住空間として使えそうなサイズの小屋でも数十万円で入手できるものもあります。もともとは物置や子どもの勉強部屋などを念頭につくられたものもありますから、通年で過ごす住宅として考えるとやや手狭に感じるとしても、たとえば月に数日過ごすデュアルライフ用として割り切れば、十分なサイズかもしれません。
モバイルハウスで究極の多地域居住
さらに、究極の多地域居住に最適な住まいといえば「モバイルハウス」でしょう。モバイルハウスとは文字通り「移動できる家」。家に車輪が付いていることがポイントです。なぜなら「建築物」とは、(1)土地に固定されている、(2)屋根がある、(3)柱または壁がある、という3つの要件を満たしているものだと建築基準法で定められているため、車輪が付いてさえいれば、どんなに家っぽく見えても、建築基準法の制約を受けないですむのです。
従来、キャンピングカーでのキャンプを楽しんでいる人であれば、モバイルハウスなどさして珍しくないと感じるかもしれません。ただし多くの場合、キャンピングカーはあくまでレジャーの手段。近ごろモバイルハウスに寄せられる関心は、「クルマ」というよりむしろ「住まい」としての空間です。
『モバイルハウス―三万円で家をつくる』(2013年、集英社)を著した建築家・坂口恭平氏は、同書の中で「移動できる自由さえ持っていれば、人間は竹のようにしなって生きることができる」と言っています。これはまさにデュアルライフや多地域居住の価値を述べているように聞こえませんか。
小さく住まう、シンプルに住まう。それが、住まい方の自由度をぐんと押し広げていくことに繋がっているわけです。
あまりコストをかけず移住やデュアルライフを実現するには、既成概念にとらわれず、ときに発想の転換も必要です。ぜひ自由な発想で、もうひとつのわが家を見つけてください。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。