知っておきたい名作家具(6) アルヴァ・アールトの「スツール60」
パップ英子
2016/03/20
出所:Stool 60・E60 Artek | scope( http://www.scope.ne.jp/artek/stool60/ )
シンプル&モダンな美を追求した「アルヴァ・アールト」
北欧の名作家具特集として、これまではデンマークを代表するインテリアデザイナー、建築家の名作をお伝えしてきました。今回は舞台をフィンランドに移し、同国を代表する巨匠の名作を取り上げていきます。
写真に映るシンプルなデザインの椅子。皆様もきっと、素敵なカフェや雑貨店などで、この椅子をご覧になったことがあると思います。
その椅子の名は「スツール60」といって、近代建築の巨匠と讃えられるフィンランド人の「Alvar Aalto(アルヴァ・アールト)」が設計した名作家具です。
美学を貫いた作品で知られる偉大なデザイナー
Alvar Aalto | Finnish architect | Britannica.com( http://www.britannica.com/biography/Alvar-Aalto )
1898年、フィンランド中西部のクオルタネで生まれ、1976年にこの世を去ったアルヴァ・アールト。彼は20世紀を代表するフィンランドの建築家であり、自然素材の魅力を最大限に活かし、シンプル&モダンの美学を貫いた作品で知られる偉大なデザイナーです。
1935年、アルヴァは妻Aino(アイノ)と、Maire Gullichsen(マイレ・グリクセン)、Nils-Gustav Hahl(ニルス・グスタフ・ハール)の4人で家具メーカー「Artek(アルテック)」を創業します。
彼らが創業した家具ブランドArtekのコンセプトは、Art and Technology。Art(芸術)とTechnology(技術)を融合させ、シンプル&モダンを極めた名作家具をいまもなお変わらずに発表し続けるフィンランドを代表する名ブランドです。
アルヴァは常に人の暮らしを念頭に置き、建築はもちろん、家具・照明・ガラス器など、暮らしにまつわる製品を自然なフォルムで設計し、そして、あらゆる空間にも調和する作品を自身のブランドArtekを通して発表し続けました。
彼は自然なフォルムを追求するために、フィンランドの主要な木材『白樺材』に着目します。当時、木材を使って無駄のない自然なフォルムを生み出すには、無垢材のままだと成形しにくいというハードルがありました。しかし、アルヴァは弾力の強い白樺材を用いることで、成形合板や引き曲げの技術開発に成功し、技術革命を起こしたのです。この技術の詳細については後ほど詳しくお話しますね。
アルヴァは自身の国フィンランドをこよなく愛し、木材のナチュラルな魅力を活かしたオーガニックデザインに、モダンなニュアンスを絶妙に取り入れ、存在感に温かみのある名作家具を数多く残しました。
彼が手がけた名作家具は、世界のさまざまなミュージアムで永久貯蔵品と認定されているものが多数あります。
無駄のないシンプルな美を極めた「スツール60」
(c)Artek - Products - Chairs & Stools - STOOL 60( http://www.artek.fi/products/chairs/128 )
1933年、アルヴァ・アールトが発表した「スツール60」。アルヴァの代表作といわれるこの椅子は、自身が設計したヴィープリ図書館に使用するためにデザインしたものだそうです。
座面と脚だけを接合した3本脚のフォルムで、一切無駄がないデザイン。シンプルながらも温かみを備えた独特のフォルムを叶えるために、脚部の曲線部分だけが差し込み成型されています。
この独自技法はアルヴァが生み出した「L-leg(エル・レッグ)」というもので、Artek社だけの特許技術です。この特許技術は、母国フィンランド原産の温かみのある木材を使用したいという、アルヴァの熱いこだわりから生まれました。無垢材に金属のような堅牢性を持たせることができるよう、また、量産にも耐えることができるように、彼は北欧に元々伝わる伝統的な木工技法「挽き曲げ」を応用したのです。
Artek社だけの特許技術「L-leg」を駆使した「スツール60」をはじめ、木の温もりとシンプル&モダンな美が融合した名作家具の数々。アルヴァ亡き後もArtek社では、熟練の家具職人によって彼が生み出した特許技術を守りながら、今日ではコンピュータ制御された近代技術を合わせて、「スツール60」をつくり続けています。
「スツール60」は、発売以来、約800万脚以上のセールスを誇り、今日もなお、世界中のインテリア・ファンからこよなく愛される不朽の名作です。
名脇役としても大活躍、汎用性が高い「スツール60」
(左)(c)artekglobal/instagram(https://www.instagram.com/p/YSf3KypbjD/?taken-by=artekglobal) (右)(c)artekglobal/instagram(https://www.instagram.com/p/wJn4_6pbtY/?taken-by=artekglobal)
このスツールの魅力は、椅子としての活躍はもちろんのこと、座面に花瓶を置いたり、洋書を重ねて置いたりと、置き台としても大変重宝します。「スツール60」はその座面に置くアイテムそのものを美しく引き立たせ、バイヴレーヤーとしても大活躍する希有な椅子なんです。
また、素材が軽量でスタッキングできるメリットから、新築や改築、引っ越しお祝い用のギフトとしても大変人気があります。
もともと、図書館で使用するために設計された椅子なので、使わない時にはたくさん重ねて保管することができるので、片づけにとても助かる構造で、空間のなかで幅をとらないことも人気の秘密です。
また、「スツール60」は、人が大勢集まる場所でもとても重宝する椅子です。たとえば、自宅に大勢のゲストを招いてホームパーティを開く場合、「スツール60」ならダイニングテーブルの下にコンパクトに収まりやすく、幅をとらないため、とても便利です。
「ムーミン」とコラボしたプレミアムチェア
(左)(c)artekglobal/instagram(https://www.instagram.com/p/dB8M08pbpI/?taken-by=artekglobal) (右)(c)artekglobal/instagram(https://www.instagram.com/p/tnLN9uJbpX/?taken-by=artekglobal)
シンプルを極めた傑作「スツール60」についてお伝えしましたが、最後に、この名作椅子が同じフィンランド生まれの名作コミック「ムーミン」がコラボレートしたプレミアムチェアについて紹介します。
愛くるしいキャラクター達が織りなす物語「ムーミン」は、同じくフィンランドのイラストレーター、トーベ・ヤンソンによる名作コミック(&絵本)です。Artek社の「スツール60」と「ムーミン」のキュートなキャラクターたちがコラボレートした作品が、写真手前に映っていますね。
座面に描かれた「ムーミン」の大人気キャラクターたちがとても可愛い「スツール60」。
このプレミアムチェアはムーミンファンとインテリアファンに大好評でしたが、残念ながら2015年で販売終了してしまったようです。
この大変プレミアなお宝チェアを運良く手に入れたお宅では、子ども部屋でとても重宝されているようですね。
フィンランド産の木の温もりを最大限に活かすために、独自の特許技術を駆使して制作された名作椅子。日本でもとても馴染みのある「スツール60」の魅力を、その作者である近代建築の巨匠、アルヴァ・アールトの功績とともにお伝えしました。
次回もフィンランドの名デザイナーと名作家具をご紹介する予定です。コラムを書いていたら、筆者もフィンランドを訪れて、アルヴァ・アールトの博物館まで足を伸ばしてみたいと強く思いました。
次回のフィンランド特集も、どうぞお楽しみに。
この記事を書いた人
“FinoMagazin”(フィノマガジン)主宰(編集長)
ハンガリー在住コラムニスト。 食品会社でワインインポーター業務に従事した後、都内の広告代理店に転職。コピーライター、ディレクターとして勤務。百貨店やデパート、航空会社、ベビー・ブランド等のクリエイティブ広告で、インテリア製品のコピーライティング、ディレクション等を数多く手がける。 2013年、夫の国ハンガリーに移住後も育児に奮闘しながら執筆業に邁進。日本の雑誌(出版社)でハンガリー紹介記事(取材・撮影・文)を担当。また、自身とハンガリー人クリエイターとで運営するブダペスト発ウェブメディア“FinoMagazin”でもインテリアを含めたライフスタイル全般コラムを連載。美容メディアにてビューティ・コラム連載、その他、企業のWEBサイトや企画書制作、日本のTV局、広告代理店、メーカーからの依頼でハンガリー現地ロケ・コーディネート等、多岐に渡る業務をこなしている。 自身主宰のハンガリー情報WEBメディア “フィノマガジン” http://www.finomagazin.com/