パリでエレベーターに乗るときは携帯電話を忘れずに
桑田 唯
2016/03/15
アパートのエレベーターはとてもクラシカル
アパート生活を便利にしてくれる、エレベーター。特に重い荷物を運ぶときや、アパートの上階に住んでいる場合は、なくてはならない存在となります。
私の部屋は日本でいう8階に位置しており、部屋を出るときも戻るときも、いつもエレベーターを使っていました。今回は、私が経験したエレベーターに関するトラブルをご紹介したいと思います。
以前の記事でも紹介しましたが、私の住んでいたアパート内のエレベーターは写真の通りのクラシックな、まるで映画に出てくるようなエレベーターでした。外側の金網の扉を開くと、なかに透明な折り戸があり、エレベーターが動くときはその折り戸が自動的に閉まります。
エレベーターには定員数と重量制限が書いてありますが、このエレベーターの定員はふたり、重量制限は150キログラムまで。エレベーターのなかはかなり狭くて、ふたりで乗ると相手との距離が近く、知らない人と乗るのはちょっと気まずいかなというくらいの狭さといえば、なんとなくイメージしてもらえるでしょうか。
動き出した定員オーバーのエレベーター
事件が起きたのは、同じアパートに住む日本人4人で食事に出た帰り。アパートに着いてエレベーターに乗ろうとしたときのことでした。
上に書いた通り、エレベーターの定員はふたり。こちらは4人です。最初は素直にふたりずつ乗ろうと話していたのですが、エレベーターの到着を待っている間に、誰からともなく「4人で乗ってみる?」という声が…。
どうしよう? という話になったのですが、幸い、といっていいのか、4人のなかには特に体の大きな人もいないし、全員が一度に乗っても大丈夫なんじゃないかということに。まずは試しに4人で乗ってみようと、恐る恐るエレベーターに乗ってみると…、4人の体はすっぽりとエレベーターのなかに収まりました。
「乗れるかな、乗れないかな…」と恐る恐る乗ったエレベーターで、無情にも重量オーバーを知らせるブザーが響き渡ったときの気まずさといったらありませんが、4人を乗せたエレベーターはブザーが鳴るどころか、うんともすんともいわず、静かなままです。
「もしかして、このまま行ける?」と顔を見合わせる4人。私は、ドキドキしながら行き先階のボタンを押しました。
スーッと扉が閉まり、ウィーンとモーターの音を立てて、いつものように動きだすエレベーター。何だか拍子抜けしたのも束の間、いつもと何かが違うのです。
扉にはしっかりとロックが…
「あれ? いつもよりスピードが遅い…」
そうつぶやいた瞬間、ガタンと大きな音を立ててエレベーターは停まってしまいました。それは、ちょうど1階から2階に上がるちょうど真ん中くらいの場所で、私の目の上には2階のフロアが、そして足元には1階が見えています(扉が透明なので、外の様子がよくわかるのです)。
思わず「無理なら動くなよ!」と心のなかでエレベーターに対してツッコミを入れてしまいましたが、もしもここで停まらずに、上層階に上がったところでエレベーターのワイヤーが切れてしまっていたら…と考えると、ぞっとするとともに、ここで停まってくれたことに思わずほっと胸をなでおろしました。
閉じ込められてしまった私たちは、しばらく無言で顔を見合わせていましたが、このまま何もしないでいるわけにはいきません。何とかしてエレベーターの外に出るか、助けを呼ぶかしなければ…。
そこでまずは、脱出を試みます。ガラスの折り戸を開けられれば外に出られるはずだと、なんとか開けてみようとしましたが、しっかりロックがかかっていて開きません。冷静になって考えてみれば、もしガラス扉が開いたとしても、外側の金網状の扉にもロックがかかっているはずなので、どちらにしろ外に出ることはできなかったでしょう。
アナログな緊急通報ボタン
脱出が無理なら助けを呼ぶしかありません。エレベーターのなかには緊急通報用のボタンがあることを思い出して、慌ててボタンを探す私たち。ありました。行き先階ボタンの上に、ALAMEと書かれたボタンが。
日本のマンションのなかには、エレベーターの故障などにメンテナンス会社が24時間体制で対応してくれるところもあるので、緊急通報用のボタンを押せば、きっと外部の管理会社に通報できると思ったのですが…。
ボタンを押すと「ジリリリリ」という音が周囲に鳴り響きます。外部の管理会社につながるどころか、この緊急通報ボタンはすごくアナログで、ボタンを押している間だけ「ジリリリリ」という音が周囲に鳴り響き、ボタンから指を離すと音は消えます。そうです、周りにいる人に知らせるだけの機能なのです。
これだけではダメだと、エレベーター内をさらに探してみると、管理会社への緊急連絡先が。これで助けを呼べると、すぐに管理会社に電話しました。このときほど携帯電話を持っていたことに感謝したことはありません。もしも携帯を持っていなかったら本当に誰かに気づいてもらうまで何もできなかったと思います。
その後、外から戻ってきてこの事態に気づいた住人のひとりも管理会社へ電話で連絡してくれました(エレベーター外にも緊急連絡先が書いてあったのでした)。連絡を終えた後、「担当の人が数十分で来てくれるから、それまで頑張って!」と声をかけて励ましてくれたのですが、そのときの安堵感と気恥ずかしさといったら…。きっと一生忘れられないと思います。
ようやくエレベーターから脱出
それから20分ほど待ったでしょうか、何時間も経ったようにも感じましたが、修理工の人が来てくれました。最上階まで上がった彼は、ワイヤーを操作して手際よくエレベーターを1階まで下ろすと、特殊な道具を使って扉を開けてくれました。
外に出られたときの安心感と開放感といったら言葉にできないほどで、外の空気が本当においしく感じました。エレベーターの扉にはところどころに隙間があり、多少の空気の出入りはあったのですが、狭い空間に4人で閉じ込められていたため、やはり空気がこもってしまい、息苦しさを感じていたのです。4人のなかには、貧血を起こしかけていた人もいたほどです。
隙間の多いガラスの折り戸だったからよかったものの、外の見えない密閉度の高い扉だったらと思うと、一体どんな精神状態になってしまっていたのか、怖かったなと思います。
エレベーターの定員は必ず守りましょう
まさかパリでエレベーターのトラブルに遭遇するとは思っていなかったので、いまとなってはいい体験だったともいえるのですが…。もちろん、日本ではこんな経験はなかったので、思い出深い人生初のエレベータートラブルとなりました。
閉じ込められたのが4人一緒だったので、そこまでの恐ろしさや寂しさを感じずにすんだのが不幸中の幸いでした。もしひとりだったらどれだけ心細かったことか…。といっても、ひとりだったらそもそもこんなトラブルを起こすことはなかったはずですが。
やはりエレベーターの定員は守らなければいけませんね。
とはいえ、事故が絶対にないとはいえませんから、特にバカンス中などはほかの住人がみんな出かけてしまって、アパートには誰もいないということもあるので、エレベーターに乗るときは、携帯を忘れずに持っておくことをおすすめします。
この記事を書いた人
インテリアコーディネーター
大学時代に建築を学び、雑貨バイヤーなどを経てインテリアコーディネーターの資格を取得。海外のインテリアや家具、その国ごとのライフスタイルや歴史に興味を持ち探求中。ワーキングホリデーでパリに滞在する。理想の住まいは、木や石などの自然な素材で作られた、秘密基地のような家。