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週末は田舎暮らし! を始めよう(3)

地域にとけこむ、ご近所づきあいの始め方

馬場未織馬場未織

2016/01/22

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まずはご近所への挨拶を

 家族の意向をまとめ、家計のやりくりを考え、理想の家を探し、いろいろな出会いを経てようやく二地域居住をする環境を手に入れた、というあなた。おつかれさまでした!

「家探しのゴール」の白線は、「新生活のスタート」の白線と重なります。

 さあ、休みの日には都心を離れて、自然豊かな第二のわが家へ向かう日々が始まりますね。ウキウキしますね。家にはどうやって手を入れていこうか、畑はいつから始めようか、周囲の探索もしたい、地域とのおつきあいはどうなるんだろう!? などと不安と期待が入り乱れているかもしれません。

 さて何から始めようかと考えた時、当面は家のことで忙しいとは思いますが、まずはご近所さんへの挨拶まわりをしてみてはどうでしょう。もし仮にあなたが、「都会での人疲れ癒すために、田舎を求めて来たんじゃないか」ということであったとしても、「近所づきあいはいらないよ、困ったことがあったら業者を呼べばいい」と割り切った考えであったとしても、です。

 なぜなら、あなたはよくても、周りから見たら「今度あの家に来た人は、誰だっぺ?」と不思議なのであり、興味の対象だからです。

 だいたい、移住ならまだわかりやすい。二地域居住ってなんだ? と思われがちです。
 別荘エリアをのぞけば、あなたにとっての非日常空間も地域の人々にとっては日常空間。あなたが“こっち側”の人間なのか、“あっち側”の人間なのか、カテゴリーが定まらない状態で「たまに居る人」ということになると、それだけで十分アヤシイはず。ならばなおのこと、挨拶は割愛せずに、大事に考えたほうがよいかと思います。不安や邪推の余白をつくらないことで、スムーズな信頼関係が築けるからです。

 不動産屋さん、あるいは地元で仲介をしてくれた人がいた場合は、その人にコミュニティの範囲を伺ってから挨拶していくのがいいかもしれません。

ご近所に助けてもらうことの多い田舎暮らし

 かく言うわたしはといえば、地元の農業委員さんから教えてもらった集落の定期集会というものに家族で訪れ「これからよろしくお願いします」と集落の方々との顔合わせをしました。

 子どもたちがいて落ち着かない状況でしたが、むしろ子どもたちに対してとても優しくしてもらい、お菓子やジュースをもらったり、「こっちの小学校に入らないのか?」と言われたりして話題が膨らんだという記憶があります。

 また、名前の他に屋号(家の呼称)があることも教えてもらい、「うちはニシ、ここはシンタク、あんたんちはウエンダイ」と地図に書きこんでもらいました。ウエンダイ! 確かに電話など聞いていると、名前ではなく、「えーとニシですけど」と屋号を使っている様子。住む人が変わっても家は変わらないから、そういうのでしょうか。この風習に何だか感動したものです。

 ただ、やはり個別に伺えばよかったなあ、と、いまとなっては反省しています。スタートアップの時は何かと忙しいものですが、ご近所一人ひとりとちゃんと向き合う時間をはじめに持ったほうが、新生活を安心して始められます。都市生活よりも圧倒的に、人のつながりが大事だからです。慣れない田舎暮らしで、何かとご近所さんに助けてもらう局面が出てきますから。

 困ったことがあったら役所に相談する、あるいは業者に外注する、というドライな方法もあるとは思いますが、一般的に役所は動きが悪いですし、外注はお金がかかります。

 たとえば都市では「道路の木の枝が伸びて困る」といったクレームを役所に伝えると対応をしてくれますよね。ところが、田舎では道路端の草木の管理は市民がすることが多い。行政が細やかに対応する財源がないからでしょうが、暮らしは自分たちの力でうまく運営させる、という習慣があるようです。だから田舎は面倒…と感じる人もいるとは思いますが、わたしは、それはむしろ健全なことだと感じています。

馴染みのないコトやヒトとの出会いを楽しむ

 都会と田舎ではコミュニケーションの取り方が違うこともよくあります。
たとえば、大事な用件のときをのぞけば、ご近所さんの家にお邪魔する時もアポなしが普通です。農家さんは早起きで、日の出と共に起きて7時には仕事を始めている人が多いなか、わたしたち家族はマイペースにグースカ寝ていることがあります。

 すると、割と早い時間に、「おはよーございます」と訪れるご近所さん。集金だったり、書類へのサインだったり。あわてて起きて、ぼさぼさの髪で対応すると「ありゃ、寝てましたか」と言われ、「いえ、起きてました!大丈夫です!」ととっさに取り繕うわたし…笑。そんなことにもいちいちあわてなくなってきました。

 また、普段は電話すらあまりせずにLINEやメッセンジャーなどで会話したり用事をすませたりすることが多いですが、わたしの集落では、コミュニケーションは対面か、電話でのやりとりがほとんどです。

「あのよう、あっちの畑の草刈り、ちゃんと終わらせてくれないとよう」と、面と向かってお叱りを受けることもあります。言われると一瞬焦りますが、「ごめんなさい! ちゃんとやります」と返しながら、なぜか落ち込みません。

 SNSはとても便利ですが、逆にまわりくどい気遣いをしたり誤解にやきもきしたりと、対面を避けるがゆえのストレスを抱えます。ダイレクトなやりとりによって素朴に暮らしを進めるとき、スマホ時代以前の清々しさを思い出させてくれます。

 新しい暮らしで人間関係を広げたい人もいれば、人間から遠ざかりたくて田舎暮らしを始める人もいるでしょう。やりたいこと、過ごしたい時間など人それぞれですので、どう思われているだろうかと気にしすぎたり、地元に早く溶け込まねば! と焦ることで気持ちが窮屈になってしまってはもったいない話です。挨拶はちゃんとして、あとはマイペースにゆっくり関係を築いていくのがいいのかもしれません。

 せっかく好きで始めた好きな土地での暮らしですから、人にせよ、習慣にせよ、いままでとは違う新たなものとの出会いを広く楽しむゆとりを持って臨みたいものですね。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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