知っておきたい名作家具(3) FAVN —抱擁という名のソファ
パップ英子
2016/01/04
『FAVN』…抱擁されたときの温もりを覚えるソファ
北欧インテリア特集として、2回に渡り『Fritz Hansen』(フリッツ・ハンセン)※の名作家具をご紹介してきましたが、同ブランドから最後にフィーチャーする名作家具がこちら。
外側の硬いつくりに反して、内側はとても柔らかく、シェル(貝)をも感じさせるデザイン。
『FAVN』(ファウン)—スペイン語で抱擁という意味を持つこのソファは、作者であるスペイン人デザイナーのJaime Hayon(ハイメ・アジョン)が、「まるで抱きしめられるような有機的なフォルム」を作りたいという想いから、製作に至ったソファなのだそうです。
華奢で上品な脚に支えられ、丸みを帯びたフォルムを持つ美しいソファ。
彼が試作を重ね、計算されたそのシルエットは美しい曲線を描き、気品に満ちあふれています。
よく見ると、FAVN(ファウン)には角がないため、見た目でもやわらかい印象を人々に与えているのかもしれません。
『抱擁』というその名の通り、母親の腕に抱かれているような安らぎを覚える、抜群の安定感を持つ名作ソファです。
※『FRITZ HANSEN』…北欧ブランドを代表する存在で、数々の歴史的名作を世に送り続けるデンマーク生まれの家具メーカー。
世界で最も影響力のあるアーティストのひとり、ハイメ・アジョンとは?
1974年、スペインのマドリッドで生まれ、アーティスト・デザイナーとして活躍するJaime Hayon(ハイメ・アジョン)。
彼はTimes誌で現代を代表するクリエイター100人のうちのひとりに、そして、Wallpaper誌でも、この10年で最も影響力のあるアーティストのひとりに選出されています。
現代美術(アート)の奇才ともいえるハイメ・アジョンが、フリッツ・ハンセンのラインナップとして手がけた家具のなかでも、このFAVN(ファウン)は、世界中のインテリア・ファンに高い人気を誇る名作ソファなのです。
10代の頃からグラフィティ・アートに夢中だったハイメは、工業デザインをマドリッドとパリで学びました。その後、1997年に「ベネトン」のコミュニケーション・リサーチ・センターである、「ファブリカ」に参画します。
そこで彼はすぐに、デザイン部門を統括するトップに抜擢されることになり、レストランや展覧会など、グラフィック・アートに関わる様々なプロジェクトをディレクションしていました。その8年後にハイメは、陶磁器や家具、デザイナーズ・トイなどのコレクションのような展覧会を、ロンドンのデヴィット・ギル・ギャラリーで開催します。
まるで、サーカスにインスパイアされたような独特の世界観は、「地中海のデジタル・バロック」と呼ばれ、ハイメ自身による独特の感性と創造性が大きく花開いたのです。
そうした自身のコレクションをきっかけに、ハイメはデザイン、アート、工芸と多岐に渡る分野においてボーダーレスに活躍するクリエイターとして、世界中にその名を知られるようになりました。
現代を代表するアーティスト、ハイメ・アジョンですが、実は彼、日本を代表する伝統工芸品ともコラボレートしているのです。
石川県の代表的な伝統工芸、九谷焼。先人の伝統を守り、日々の食器から茶陶まで一点一線、昔ながらの手仕事で丹精込めてつくりあげる。そんな九谷焼の窯元の中でも、130年以上もの歴史を持つ『上出長右衛門窯』では、とても鮮やかな彩りの上絵付けと深い発色の染付け、また、丈夫で美しい生地が特長的です。
そんな日本を代表する九谷焼の窯元が、類い稀なる個性で次々と傑作を生み出す希代のアーティスト、ハイメ・アジョンの世界観に惚れ込み、いままでにない新しいものづくりへの挑戦を始めたのです。
写真は、ハイメ・アジョンがデザインを手がけた『上出長右衛門窯』の、新しい九谷焼シリーズより、右側は湯呑みで、左側が醤油さし。
花尽くしという名の湯呑みは、お茶のほかにもコーヒーやスープなど、マグやタンブラーとしても幅広く使えるつくり。
『soy pot BIRD』—鳥形、雨だれという名の醤油さしは受け皿がセットで、食卓にあるだけで毎日が楽しくなるような可愛い鳥の醤油さしです。
日本が誇る伝統工芸の老舗ブランドからもラブコールがあり、九谷焼ともコラボレートしたハイメ・アジョン。グラフィック、アート、インテリアと様々なジャンルで活躍する彼は現在、世界中から最も熱い視線を注がれるアーティスト(クリエイター)のようですね。
FAVN—北欧の名作家具を主役にしたリビング・コーディネート
リビングルームの主役はグレーカラーのシックなFAVN。
お部屋のなかに北欧インテリアらしさを出したい場合、やはりその美しい北欧ならではのデザインを主役に据えたいもの。
写真は、フリッツ・ハンセンの公式ページより。こちらのコーディネートの主役はやはりFAVN(ファウン)。丸いローテーブルと、フローリングに敷いたネイビーのラグが、内側は丸みを帯び、美しい曲線を描く名作ソファの魅力を、いっそう引き立てていますね。
こちらの画像は、以前にFAVN(ファウン)を実際に購入されたお宅のインテリア・コーディネート。
画像に映るカーキっぽいこの色のソファは現在、廃盤になってしまったそうですが、このように明るいカラーのフローリングには暖色系のソファをチョイスすると、いっそう温もりのある優しい空間になりますね。
こちらのお宅は、壁やサーリネンテーブルなど、リビング全体にホワイトカラーが多く、北欧インテリアのいろはをよくご存知のようです。
実は北欧では、ホワイトや薄いグレーなど、部屋全体をホワイト系の色合いにするのがインテリアの基本。
存在感抜群の名作ソファは、濃いブラウンよりもオフホワイトや薄いグレー、白をベース色としたカラーを選ぶと、他の家具とも調和しやすく、より北欧インテリアらしくコーディネートが楽しめるのです。
3回に渡ってフリッツ・ハンセンの中から名作家具をご紹介しましたが、いかがでしたか?
次回もまた、名作家具とともに実際のコーディネート例をご紹介できればと思います。
ぜひ、お楽しみに♪
この記事を書いた人
“FinoMagazin”(フィノマガジン)主宰(編集長)
ハンガリー在住コラムニスト。 食品会社でワインインポーター業務に従事した後、都内の広告代理店に転職。コピーライター、ディレクターとして勤務。百貨店やデパート、航空会社、ベビー・ブランド等のクリエイティブ広告で、インテリア製品のコピーライティング、ディレクション等を数多く手がける。 2013年、夫の国ハンガリーに移住後も育児に奮闘しながら執筆業に邁進。日本の雑誌(出版社)でハンガリー紹介記事(取材・撮影・文)を担当。また、自身とハンガリー人クリエイターとで運営するブダペスト発ウェブメディア“FinoMagazin”でもインテリアを含めたライフスタイル全般コラムを連載。美容メディアにてビューティ・コラム連載、その他、企業のWEBサイトや企画書制作、日本のTV局、広告代理店、メーカーからの依頼でハンガリー現地ロケ・コーディネート等、多岐に渡る業務をこなしている。 自身主宰のハンガリー情報WEBメディア “フィノマガジン” http://www.finomagazin.com/