テレワークによって仕事と子育てが両立できなくなった女性たち②――職業人として、母親としての棲み分けができず混乱
北 淑+Kanausha Picks
2021/12/07
イメージ/©︎nuiiko・123RF
前回、お話ししたA子さんは、テレワークによって、目の前の課題に常に全力で取り組むということから、今の自分にとって必要なことを見極めるという、いわば「選択」の重要性に気付きました。
今回ご紹介するB子さんは、職場と家庭が分かれていることで、職業人として、母親としてのそれぞれを自分自身で分けて仕事と子育てを両立していました。しかし、テレワークによって、B子さん自身もこの区分けがなくなり、「仕事と生活の区切りがないなんて、もう、限界です」と話します。
仕事と職場が大好きなリケジョ
B子さんは、女性ではまだなり手の少ない土木設計のエンジニア。29歳で同僚と結婚し、30歳で出産、1年間の産休を経て職場復帰しました。
その会社では、出産、産休後に仕事に復帰した女性はB子さんが初めてだといいます。
それだけではありません。B子さんが入社するまで女子トイレや女子更衣室もなかったような男の職場で、女性であるB子さんの土木技師としての入社は、何もかもが異例づくめでした。しかし、職場の雰囲気はアットホームで、B子さんは上司や同僚と社員食堂で昼食をとる社風が好きでした。
しかし、コロナ禍で仕事に向き合う環境は一変します。
現場に出る回数が減り、家庭内で設計図と格闘する毎日になりました。コロナ禍で保育園も閉園日が多くなるなかで子どもと一緒に過ごし、加えて同僚でもある夫と、リビングとダイニングに分かれて仕事をしていました。
もともと職場で夫に会うことに慣れていたものの、家のなかで一日中、夫と顔を突き合わせるようになると、
「仕事に集中できない。図面を読んだり、設計するのは限界です。このままの状態が続いたら、仕事を辞めるか、仕事用の部屋を別に借りるか、引っ越すしかない。いったいどうすればいいのか……」
と、B子さんはWebでのプライベート・カウンセリングを申し込んできたのでした。
画面に映るB子さんは、理知的で飾らないリケジョ(理科系女子)そのもの。しかし、膝のうえに1歳半の子どもを抱えたまま、キーボードを打っています。私が画面の向こうでぬいぐるみを見せると、子どもと一緒に画面を指さすまなざしは、穏やかで優しい母の横顔です。
エンジニアとして、母親として
B子さんの話を聞くだけで、橋の補強工事の設計という仕事と、母親を両立させるのが容易ではないのがすぐに分かりました。
私がB子さんに、「優しいお母さんのあなたと、土木技師を同時にできなくて当然だ」と伝えると、
「そうですよね。私にはどちらも大事ですが、同時にはできなくて、自己嫌悪に陥ります。それでも、この環境でどっちにウエイトを置くかとなれば、仕事量を大幅に減らすしかありません。緊急事態宣言が今後も続くようであれば、降格も覚悟して上司にそのことを相談します」
とB子さんはキッパリと言い切ります。
ところが、その1週間後に緊急事態宣言が解除になることが発表され、現場に復帰するメドが立ったことでこの問題はなくなりました。
現場に戻ったあと、B子さんがカウンセリングルームを訪れました。
「自分は現場に出ることで、はじめてエンジニアとしてモノが考えられる人間だと分かりました。あのまま在宅勤務が続いていたら、もう、完全にメンタルがやられていたと思います」
と話しながら、見せてくれた写真にはヘルメットをかぶり作業着に身を包み、携帯電話を手に持ち、真剣な眼差しで測量標を見つめて現場で仕事をするB子さんの姿がありました。
新型コロナによって気付かされる価値観
A子さんやB子さんのように新型コロナによって、あらためて自分の価値観に気付いた方も多くいます。また、それは女性だけに限ったことではありません。
会社がどんなに業績が良くても、どんなに制度を整備していても、どんなに社風が良くても、働き方というのは、その人が大切だと気付いた価値観に従って選択することがベストなのです。
そのためカウンセリングでは、あえて選択しようとしていることのマイナス面をいったん伝えてみて、最終的な意思決定を後押しするようにしていきます。
一人で自問自答を繰り返すだけでなく、利害関係のない相手として、じっくりと本音を話すことのできるカウンセリングは、本当の自分に出会うための一つの選択肢でもあるのです。
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この記事を書いた人
公認心理師 博士(医学)
大手不動産会社で産業保健活動を行う一方、都内で親子や夫婦の関係改善のためのプライベートカウンセリングを実践している。また、最近は、Webカウンセリングも行い、関東甲信越や東北地方の人たちとのセッションにも力を入れている。