家猫寿命16年 ――「猫と長く暮らす家」に必要なもの、不要なもの
山本 葉子
2020/08/22
©︎Nekoyama Daikichi
「キャットウォーク」や「キャットステップ」は必要?
一般社団法人ペットフード協会の「令和元年(2019年)全国犬猫飼育実態調査結果」によると、猫の平均寿命は15.3歳、外に出ないいわゆる家猫では15.95歳と、年々長くなっています。そんな長生きになった猫たちと、「猫と長く暮らすための設備」を考えていきたいと思います。
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私たちのNPO団体には猫の飼育についてさまざまな相談を受けますが、その中に賃貸住宅のオーナーさんから、「猫仕様の賃貸住宅を建てたい」という相談を受けることがあります。しかし、ビジネスとしてそういった専用の賃貸住宅を建てるのはリスクの方が大きくなるため、推奨はしていません。でも、個人で「猫に特化した家を作りたい!」「誰よりも猫のことを考えた家にしたい!」と意気込まれるのはとても微笑ましく思ってしまいます。
猫専用の設備で、真っ先に思い浮かぶのが「キャットウォーク」や「キャットステップ」でしょう。壁に取り付けたキャットウォークやキャットステップからこちらをのぞき込んでくる猫の顔はとても可愛いものです。
©︎Nekoyama Daikichi
こうした作り付けのものは、猫のための家にふさわしい設備に思えます。でも、若くて運動能力が高い猫でも事故は起きます。とくに2匹以上で飼育すると、必ずといっていいほど追いかけっこが始まり、テンションが上がりすぎた猫が勢い余って足を滑らすことがよくあります。
そもそも屋外でも屋内でも、猫は遊びを見つける天才です。じゃれるものなど何もないように見えるところでも、何かしらを見立てて遊びます。こうした猫の行動は、狩の練習をしているのだといわれますが、ほんの少しめくれた本の端っこや糸くずなどでも、標的にしますし、場合によっては自分の尻尾ですらもオモチャです。
猫を飼われた経験がある方には、猫のために選び抜いて買ってきたおもちゃやキャットタワーには見向きもせず、ペットボトルのキャップや梱包材などのほうに夢中になる、なんて体験があるのではないでしょうか。猫にとってはちょっとした凹凸のある部屋や通路は、特に何もなくても充分に楽しい遊び場になります。
もちろん、特注のキャットタワーや天井近くを一周するようなキャットウォーク、昇り降りするキャットステップなどがあれば、それを使って楽しく遊ぶと思います。そんな猫の姿を見れば、飼い主さんも満足できることでしょう。
猫のライフステージを考えることがポイント
しかし、猫にもライフステージがあり、遊び方も変化します。子猫時代・成猫時代・老猫時代と変化するライフステージにあわせて、室内を工夫できればよいですが、これはなかなか大変なことです。
では、どうしたらよいか。それは最初からシニア猫が使うのに適した仕様にしておけば、一生涯を通じて猫が楽しめる室内としてはいいのではと思っています。
高齢になってくると猫の行動が変わり、やりたいことができなくなっている猫の姿に気がつくようになります。例えば、健康な若いときの猫は、朝、起きると大きく伸びをして、いつもの場所に行って、爪とぎをします。これはヤル気の表れでです。
1日に何回も爪とぎ自体はするのですが、体調不良になると、いつの間にかこれをやめてしまいます。原因としては、前足の関節炎などの症状が関わっている場合もあります。
また、猫は身体中をなめてグルーミングをしますが、これもをしなくなったり適当に済ませたりするようになるのもシニアの特徴です。これは体力の衰えよりも、脊椎に痛みが出たりしていることがあり、体をうまく回せなくなります。また、飛び上がったり飛び降りたりの回数も減ってきます。
こうしたシニア猫の変化は、股関節や膝関節などの痛みが原因の場合が多いのですが、猫族は総じて「耐えてやり過ごそうとする」動物なので、飼い主さんが気がつく頃には実ははかなり病状が進行していることがあります。手や足や腰が痛いと、人もいろいろな行動が制限されたり、これまでできていたことができなくなったり億劫になったりしますが、猫も同じです。
飛び上がったり飛び降りたりする階段状のキャットステップを使うことが難しくなったシニア猫には、天井近くまであるようなものではなく、ダイニングテーブルくらいの高さのもののほうが移動しやすく、2頭以上飼育する際でも、それぞれの猫が自分のテリトリーを守りやすくなるためのトラブル回避になります。
天井近くまでしつらえたキャットステップやキャットウォークが若年向きのフィールドアスレチックとすれば、人の腰あたりまでの高さで、スロープを使いながら緩やかに上下する遊び場は子ども用公園の設備です。ですが、子ども用仕様であっても、成猫や子猫たちも充分に運動ができますし、万一の事故も少なくなります。
そして、どの世代の猫たちにも好評なのが「スパイクの効く柔らかい床材」でしょう。爪をかけやすく、歩くときに肉球への負担も少ない素材がおすすめです。つるつるのタイル素材ではなく、木やクッション性のあるものを選んであげてください。
高すぎる場所に遊び場を作らない、歩く運動の延長の設備、クッション性のある素材……このことだけを気をつけるだけで、猫と人との距離がグッと近くなり、そんなお部屋になります。
この記事を書いた人
NPO法人東京キャットガーディアン 代表
東京都生まれ。2008年猫カフェスペースを設けた開放型シェルター(保護猫カフェ)を立ち上げ、2019年末までに7000頭以上の猫を里親に譲渡。住民が猫の預かりボランティアをする「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」を考案。「足りないのは愛情ではなくシステム」をモットーに保護猫活動を行っている。