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多芸と多彩、犠牲の上に成り立った肥後熊本54万石の大大名になった細川家

菊地浩之菊地浩之

2020/04/29

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妻・ガラシャを自殺に追い込んだ石田三成の不覚

細川藤孝の嫡男・細川忠興は、松永久秀攻めで15歳の初陣を飾り一番鎗の功名を挙げ、信長から自筆の感状をもらっている(通常は右筆が代筆するので、信長自筆の書状は2点しか残っていないという)。なお、忠興という名は、元服時に信長の長男・織田信忠から偏諱をもらったことに由来する。本能寺の変後は秀吉に従い、朝鮮出兵などで活躍した。

忠興は父・藤孝と同じく多方面に才能があった。弓馬、軍礼の故実に通じ、蹴鞠、連句、狂歌、謡曲を嗜んだ。茶道では「三斎(さんさい)」と号し、千利休の優れた高弟「利休七哲」の一人に数えられている。また、自らの経験を活かして「三斎流」といわれる甲冑様式を考案。「越中ふんどし」も忠興(官途名、越中守)が考えたものだという。

しかし、関ヶ原の合戦は細川家にとって幾つもの試練を与えた。細川忠興は石田三成と仲が悪く、家康の上杉景勝討伐に従軍した。三成は家康に従った諸将の妻子を人質にとろうと考え、忠興夫人・玉(細川ガラシャ)に兵を差し向けて連れ出そうとしたが、玉はこれを拒否して自刃した(玉はキリシタンなので、自害は許されず、実際は家臣・小笠原少斎に自分を殺害するように命じた)。

忠興は嫉妬深く、玉に見とれて木から落ちた植木職人を手討ちにするほどであったから、人質にされるくらいなら、玉に自刃するよう命じていたという。玉の自刃により、三成は人質作成を断念せざるを得なくなった。

細川忠興の長男・細川忠隆は、前田利家の娘・千世を妻に迎えていたが、千世は離縁されて前田家に返された。夫・忠隆は千世を庇ったため、廃嫡(はいちゃく)されてしまう。一説には、玉が自刃した際、千世は運命をともにせず屋敷から逃げ延びたことが忠興の怒りを買ったのだという。

芸が身を助けた父・幽斎、長男廃嫡、次男は切腹、跡取りは三男・忠利

一方、細川幽斎(藤孝)は守兵わずか500で丹後田辺城に立て籠もっていたが、三成方は1万5000の兵で包囲した。絶体絶命のピンチである。ここで意外なところから幽斎の支援が訪れる。後陽成(ごようぜい)天皇が講和の勅令を発し、幽斎の助命を嘆願したのだ。それは幽斎が当時唯一の「古今伝授」の伝承者だったからだ。

『古今和歌集』の読み方、解釈などの秘事は、藤原定家以来、代々口伝(くでん)で継承されており、幽斎がその伝承者だった。幽斎が八条宮智仁親王(はちじょうのみや としひとしんのう、後陽成天皇の弟)に古今伝授している最中に関ヶ原の合戦が始まり、継承が中断されてしまったので、後陽成天皇はその途絶を畏れたのである。幽斎が田辺城を開城して退いたのは、関ヶ原の合戦のわずか2日前、だが、わずか500の兵で1万5000もの大軍を2カ月にわたって引き留めた功績は高く評価された。

そして、関ヶ原の合戦では忠興が家康方の先鋒の一人として石田三成軍と正面対決し、勝利に貢献した。逃げ落ちた三成が捕縛されると、家康は忠興に「生け捕りした三成を一緒に見て喜びたい」という露骨な書状を送っている。関ヶ原の合戦の功により、細川忠興は丹後宮津19万石から豊前および豊後の一部(大分県)にて40万石弱を与えられた。忠興ははじめ豊前中津城に入城したが、のちに小倉(こくら)城に本拠を移している。

長男・忠隆が廃嫡されたので、三男・細川忠利が忠興の跡継ぎとなった。忠利は関ヶ原の合戦の前年から徳川家の人質になっており、徳川秀忠に利発さを高く買われていた。なお、忠興の次男・興秋は忠利の継承を不服として出奔し、大坂の陣に豊臣方として参陣。戦後、切腹を命ぜられている。忠利は外様大名でありながら幕閣の信頼が厚く、肥後熊本藩主・加藤忠広(清正の子)が改易されると、そのあとを任され、肥後熊本藩54万石の主となる。なお、熊本県の名産・辛子蓮根(からしれんこん)は、虚弱だった忠利の滋養強壮を願って考案されたのだという。 

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この記事を書いた人

1963年北海道生まれ。国学院大学経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005-06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、国学院大学博士(経済学)号を取得。著書に『最新版 日本の15大財閥』『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』『徳川家臣団の謎』『織田家臣団の謎』(いずれも角川書店)『図ですぐわかる! 日本100大企業の系譜』(メディアファクトリー新書)など多数。

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