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Stay Homeというけれど、海外で起こったDVは日本でも起こるのか?(1/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/04/24

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©︎123RF

よい夫がダメな夫に変わる理由

コロナウィルスの影響で、欧米ではDVの問題が増えているそうである。日本はどうだろうか。

Mさんは、頭が痛かった。緊急事態宣言を受けて、夫の会社が本格的に在宅ワークを推し進めた。この状況では、いずれは在宅がメインになることはわかりきっていたが、とうとう、来週から完全在宅になると言われた。いそいそと仕事用のスペースを確保しだす夫をみて、Mさんはため息をついた。本来ならば喜ぶべきことであるが、夫が毎日家にいると思うと気が重くなるというのが正直なところであった。

Mさんの夫は、大手玩具メーカーに勤務する、いたって真面目で勤勉なタイプである。典型的なサラリーマンで、毎日きちんと出勤し給料は標準より良いほうである。残業があるので、夜は遅いが毎日きっちり帰宅する。
これだけならば文句のつけようがない良き夫なのだが、家で深酒をする癖がある。

休日前は特にひどく、ベロベロになっては延々とMさんに愚痴や、小言を言うのである。「外で飲んでくれば?」と言っても、気を遣うのが嫌だと言って、家で飲む。夫の小言を無視すれば、「俺をないがしろにした」と言って、さらに愚痴が長引く。Mさんにだけ愚痴を言うのであればまだ我慢ができるが、子どもたちにも小言や説教をする。

問題は子どもたちも今、学校に行けず、毎日家にいるということだ。深酒をした翌日の夫は大抵機嫌が悪く、子どものちょっとした粗相をわざわざ見つけては小言を言う。暴力をふるったら離婚すると、きっぱりと言っているので、殴る蹴るはないのだが、物にあたったり、怒鳴りつけたりするので、思春期を迎えた子どもたちは、夫を倦厭(けんえん)するようになった。毎度、夫には酒や、家庭での態度について、注意はするが効果はない。

三密を避けよと言っても家庭内の「密」と精神的な「密」に目が向けられない

在宅になれば、そういったことがさらに増えるだろう。ただでさえ、狭い家だ、大の男が一人増えればそれだけで窮屈なうえ、一日中家にいたのでは、子どもたちに逃げ場もない。在宅の報告を聞いた長男からは「パパがずっと家にいるのは嫌だ」と言う始末。

在宅の期間は、GW明けまでということらしいが、Mさんにとっては終わりの見えない悪夢のように思えた。

このような、家族の不和に対する悩みは今、増えている。これが悪化すればDVにも発展するだろう。原因はひとえに、何日も狭い空間に詰め込まれているということにつきる。

金魚を飼育したことがあるだろうか。金魚に限ったことではないが、狭い水槽に何匹も詰め込むと、ストレスから、金魚同士で諍いが生じ、弱い個体は死んでしまう。人間も同じことで、国境も人種も関係ない。閉鎖空間では、必ず諍いが生じ、逃げ場のない個体は、悪くすれば死に追いやられる。

人間も生物であり、本質は金魚と同じである以上、この性質からは逃れられない。世間では三密を避けよと言っているが、家庭内の「密」や、精神的な「密」にはあまり注力していないようだ。「亭主元気で留守が良い」というのは、真をついている。どんなに仲の良い家庭であっても、適度な距離感あってこそで、逆に言えば、距離感が適切であれば、不和は起きない。

実際、家族それぞれが忙しくしていて、メンバーが留守がちな家庭のほうが、不和は起きにくいように思うが、現状、感染の脅威を避けるためには、外出を推奨するわけにもいかないため、なんとも対応のしようがないところである。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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