『麒麟がくる』で登場、細川藤孝の素顔 常に勝ち馬に乗り続けてきた「遊泳術の天才」
菊地浩之
2020/04/06
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大河ドラマ『麒麟がくる』に眞島秀和演じる細川藤孝(ふじたか)が登場してきた。
細川藤孝は三淵藤英(みつぶち ふじひで)の異母弟で、細川家の養子となった。本能寺の変の時に出家して幽斎玄旨(ゆうさい げんし)と名乗ったので、俗に細川幽斎と呼ばれる。
『麒麟がくる』では「才能より情熱」の人と描かれているようであるが、実際は才能の人だった。当代一流の歌人として「古今伝授(こきんでんじゅ)」を伝えられ、能楽に堪能。包丁さばきに優れた腕を披露した。その一方、大男で武芸に秀で、怪力の持ち主だったという。剣術を塚原卜伝(ぼくでん)、弓術を波々部(ははかべ)貞弘に学び、弓馬故実を武田信豊から相伝された、今でいう「資格マニア」だった。ただし、個人としての力量は優れていたが、武将(管理職)としての評価は高くなかった。
さらに、冷静で政治的な判断にすぐれていたことでも知られる。室町幕府の重臣から織田信長の家臣に鞍替えし、本能寺の変では親戚の明智光秀に与(くみ)せず豊臣秀吉に評価され、関ヶ原の合戦では徳川家康についた。すべて勝ち組に乗っており、後世の人は藤孝を「遊泳術の天才」と評した。しかも、子孫は肥後熊本藩54万石の大名となり、細川護煕(もりひろ)総理大臣の先祖としても有名である。
細川家といえば、応仁の乱を起こした管領・細川勝元が有名であるが、藤孝が継いだのはかなり支流の方だったらしい。現在、世の中に流布している系図では、和泉半国守護・細川元常(もとつね)の養子になっているが、これは幕府から系図提出を求められた時に無理矢理こしらえた偽系図で、さらに支流の家柄だったらしい。
藤孝の母親は当代一流の学者・清原宣賢(のぶかた)の娘で、12代将軍・足利義晴の子どもを懐妊したまま、三淵家に下げ渡された。つまり、藤孝は義晴のご落胤との説がある。藤孝は若年の頃から一三代将軍・足利義藤(のち義輝に改名)に仕え、その側近として頭角を現した。
義輝が松永・三好らに殺害された時、藤孝はたまたま非番であったため難を逃れ、義輝の弟で興福寺の僧侶・覚慶(かくけい)の救出に尽力。覚慶が還俗して足利義秋(のち義昭)と名乗ると、その側近として上洛実現のために奔走した。
しかし、織田信長が義昭を奉じて上洛し、やがて両者が対立しはじめると、藤孝は徐々に義昭から距離を置くようになった。義昭が挙兵すると、筆マメな藤孝は京都の情勢を逐一信長に報告して信頼を得、義昭の下を離れて信長についた。
藤孝はその功によって、信長から山城国長岡(京都府長岡京市)の地を宛行(あてがわ)れ、青龍寺(しょうりゅうじ、勝龍寺とも書く)城に住んだ。
また、これを機に細川姓を捨てて長岡姓を名乗り、家紋を足利家と縁のない九曜紋に替えて、足利一門であったことを隠滅しようとした。
意外に知られていないが、細川家は江戸初期まで長岡姓を名乗り、忠興はほとんど細川姓を名乗っていない(ここでは通例に従い、細川藤孝[幽斎]、細川忠興で表記を統一する)。
ちなみに九曜紋を使うようになった契機としておもしろい逸話が残っている。
或る日、藤孝は九曜紋を付けた衣装で登城し、信長から「変わった紋様をつけておるな」と声を掛けられる。すると、藤孝は黙って信長の脇差しに指さした。その鍔(つば)に九曜紋が彫ってあったのだ。信長は藤孝の観察力とユーモアに感じ入り、以後、藤孝は九曜紋を家紋として用いるようになったという。
ただし、この九曜紋は、後に細川家に思いもかけない禍を残すこととなる。
織田家臣団に組み込まれた細川藤孝は、明智光秀の寄騎(よりき)に組み込まれた。信長の命で、藤孝の長男・細川忠興と光秀の三女・玉(のちの細川ガラシャ)が結婚し、血縁を通じて光秀との関係を強くした。
本能寺の変が起きると、光秀は当然、藤孝・忠興父子の加勢を期待したが、藤孝は剃髪して忠興とともに隠棲し、さらに玉を丹後国味土野(みどの、京都府竹野郡弥栄[やさか]町)に幽閉してしまう。
親族の有力大名である藤孝・忠興父子の離反は、光秀にとって大きな打撃となった。
山崎の合戦で敗走した光秀が討たれると、羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)は藤孝・忠興父子が光秀に与(くみ)しなかったことを高く評価した。
この記事を書いた人
1963年北海道生まれ。国学院大学経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005-06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、国学院大学博士(経済学)号を取得。著書に『最新版 日本の15大財閥』『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』『徳川家臣団の謎』『織田家臣団の謎』(いずれも角川書店)『図ですぐわかる! 日本100大企業の系譜』(メディアファクトリー新書)など多数。