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「かぼちゃの馬車」事件の解決はいまなお見えず

スルガ銀行が提示した代物弁済の問題点

大谷 昭二大谷 昭二

2020/03/12

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シェアハウス不正融資事件――物件を手放せば借金返済免除?

イメージ/©︎123RF

日本経済新聞によると、「スルガ銀行による不正な融資で過大な借り入れをしたシェアハウスの所有者が、物件を手放せば借金の返済を免除されることで調整されることが2月20日、わかった。関係者によると、スルガ銀はシェアハウス向けの債権を第三者に売却するための入札手続きを始めたもようだ。投資ファンドなどが、転売可能な価格を見積もって応札する見通し。シェアハウスの所有者が土地と建物を物納すれば、借金の返済をなくすことを債権売却の条件としている。ハウスの運営を続けたい所有者は対象外だ。」(2019.11.20日経新聞より抜粋)

かぼちゃの家などのシェアハウス問題は世間を騒がせたこの事案ですが、スルガ銀のシェアハウス向け融資の残高は2019年9月末時点で1992億円で、所有者数は1200人強にのぼりました。これらの債権売却に伴いスルガ銀には損失が出ますが、すでに19年3月期に多額の貸倒引当金を計上しているため追加的な財務負担は限られる見通しです。スルガ銀ではシェアハウスを含む投資用不動産向け融資で、審査書類の改ざんや契約書の偽造といった不正行為がまん延しており、こうした不正行為の代償を支払わざるおえなかったということではないかと思います。

スルガ銀行に対する金融庁の行政処分の内容とは?

2018年4月、この一件を問題視した金融庁がスルガ銀行に立入検査に入り、10月には金融庁からスルガ銀行に対して、金融庁より業務の一部停止命令ならびに業務改善命令の行政処分がなされました。10月5日付けで公表された金融庁からスルガ銀行に下された行政処分の大まかな内容は次のようになっています。

1.命令の内容
・法令等遵守、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢の確立(当局への正確な報告の実施にかかるものや過去の不正行為等に関する必要な実態把握を含む)と全行的な意識の向上及び健全な企業文化の醸成

・シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR(裁判外紛争解決手続)等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立

・上記を着実に実行し、今後、持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的強化

2.処分の理由
法令等遵守態勢、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢、信用リスク管理態勢、経営管理態勢等について、以下のような問題が認められたことによります。

(1)シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関する不正行為
シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、以下のような不正行為が確認されたこと

①相当数の営業職員が、不動産事業者(チャネル)の賃料や入居率の改ざんによる動産の評価額を元に、認識しながら、少なくとも相当の疑いを持ちながら、また、積極的に働きかけたり自ら改ざんを行って多額の融資を実行

②チャネルが、当行の融資審査を通すため
に実施
(ⅰ)自己資金のない債務者の預金通帳の残高の改ざん
(ⅱ)債務者の口座へ所要自己資金の振り込み(見せ金)
(ⅲ)一定の年収基準を満たすよう債務者の所得確認資料の改ざん
(ⅳ)売買契約書を二重に作成、等の不正行為について投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が、チャネルによる上記の不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行った

③審査部が資料の改ざん等の不芳情報のあったチャネルを取扱い停止にしたにもかかわらず、営業店が、取引継続を企図し、当該チャネルに新たなチャネルの設立を持ちかけるなど、迂回取引を行い、不正行為を継続・助長させた

(2)顧客の利益を害する業務運営
シェアハウス向け融資を含めた投資用不動産融資を実行する際に、カードローン、定期預金、保険商品等の顧客にとって経済合理性が認められない取引を行っている。また、銀行代理業の許可を持たないチャネルに顧客への説明を委ねており、顧客説明態勢に不備が認められる

代物弁済を行った場合の問題点(賃貸経営放棄の場合)とは?

スルガ銀行はシェアハウスの所有者が土地と建物を物納すれば、借金の返済をなくすことを債権売却の条件としていますが、これにはさまざまな問題の発生が予想されます。
以下は、考えられる代表的な問題点です。

①債権額と代物弁済で受け取ったものとの差が生じる場合の問題点
②代物弁済だと信用情報機関にも履歴が登録されるのではないか(ブラックリスト)
③不法行為の内容によって代物弁済でも残債が残る可能性
④ADR(裁判外紛争解決手続)の元本カットも、代物弁済に相当するほどの対応の可能性
⑤採算が取れている被害者でも対象となるか
⑥購入年月日が古いユーザーでも対象となる場合があるか、またその線引
⑦ADR(事業再生が目的)から代物弁済に移行したい被害者についてはどの時点で乗り換えが可能か
⑧合意契約後の税務問題 など



こうした行政処分に対するスルガ銀行の対応は、個別の顧客の事情を前提に、スルガ銀行の不正があった場合、元本一部カットの検討はするというものの、不正行為と顧客の投資判断関係を常に認めるものでないとしています。

つまり、あくまでも顧客の判断で決めたというスタンスは崩していないわけです。しかも、入居者があって物件収支の赤字が解消される場合は、元本一部カットしないということなのです。また、金利を引き下げてなおも赤字が解消しない場合は、買取に応じるのではなく解決金支払いで対応するといいます。 税務関係については、こうした解決にかかる資金は所得税課税されないという。

一連のスルガ銀行の不正融資が明らかになって、1年になろうとしていますが、いまもスルガ銀行から代物弁済に対する統一見解が出ていません。一連のシェアハウスをめぐる融資のこの投資物件に対する代物弁済は「令和徳政令」として金融業界も注目し、金融取引における公正(fairness)さや金融秩序が正に問われています。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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