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空間と心のディペンデンシー

目標とやりがいの効能と効果

遠山高史

2019/12/27

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若手のホープが突如、豹変した理由

画像/123RF

H君は、30代半ばの大手小売店のインターネット事業部長である。まだ、ネットショップが会社になかった頃に入社し、ほぼ一人で自社サイトを立ち上げ、事業部として軌道にのせた若手のポープである。
H君の合理的な仕事ぶりと、部下に対するこまめな気遣いで、女性社員から密かに人気があったのだが、仕事一筋という雰囲気で、誰も声をかけたりはしなかった。

そんなH君が職場の飲み会で同僚に、そろそろ結婚を考えていると言った。
H君には長く遠距離で付き合っている女性がいて、長期の休みはもちろん、土日や有休を利用して、相手の家に遊びに行っていたというのだ。これを聞いて周りは一気にお祭り騒ぎになった。近いうちにH君の結婚の報告が聞けると思えば、上司も同僚もソワソワし、女性たちは陰で悔しがった。

それからというもの仲の良い同僚は、H君を飲みに誘っては、進展を聞き出そうとした。普段は寡黙なH君も酒が入るとポロポロと話してくれる。

それによると、彼女との新居を探すのに忙しいとか。彼女は、箱入りで結構注文が多いとか。結婚してからも仕事はしたいと話しており、今、彼女は実家に住み職場も地元だから、こちらに来たら新たに職場を探すことになる。そのため家は交通の便が良い所がいい。でも騒がしい所は嫌だ、等々。当座はアパートに住むが、いずれはマンションか一戸建てでも購入したいと、照れくさそうに話すH君は幸せそうだった。

しばらくたって、H君は目に見えて太ってきて、顔色が悪くなってきた。心配した同僚がわけを聞くと、彼女の両親が結婚に反対しており、彼女がH君の住む街に移住することも当分ないということだった。
体重が増えたのは、失望で眠れず、夜必ず酒を飲むようになってしまったからである。

期待に応えるためのがんばりは大きな力を生む

その後、H君はいつもの飲みの席で、婚約が破棄されたことを仲間たちに打ち明けた。足を棒にして探した新居は契約寸前であったが、断りの連絡を入れ、2人用の家具のカタログもすべて捨てた。

元々、彼女の両親は、H君を良くは思っていなかった。大事な一人娘の夫にはしかるべき肩書をもった男性でなければならぬというのが、破棄の理由だった。
最初は、故郷を捨ててH君と暮らすと言っていた彼女も、強硬な両親に押し切られ、婚約破棄の旨をH君に伝えたという。

H君が、がむしゃらに仕事に打ち込んでいたのは、彼女の両親の期待に応えるためだった。新居を探すにしても、彼女の好みに合わせようと心を砕いた。忙しい合間を縫って、どうにか認めてもらうべく、自分の仕事の説明をしに彼女の実家を訪ね、季節の挨拶もかかさなかった。

顛末を聞いた仲間たちは、むしろ彼女に対して憤ったが、すべて終わった後であった。

へべれけになったH君に、仲間の一人が言った。

「結婚は、宝くじみたいなもんだ。だが、こればかりは引いてからハズレじゃ遅い。お前みたいな奴を振る女はハズレに決まってる。一緒に住む前に別れて良かったんだ」

もう一人が言った。

「部屋の契約をしなくてよかった。さっさと次の相手を見つけろよ。結婚祝いは倍だ。キャリーオーバーだからな。期待してろよ」

この一件の後、H君のネットショップは、業績を急激に伸ばし、数ある事業部の中でもトップの売り上げを誇るまでになった。そんなH君を射止めるべく女性社員たちが躍起になっているとかいないとか。
当のH君は、どうやら「大アタリ」が現れたらしく、次に部屋を探す日もそう遠くないようである。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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