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ほんとうは怖い「住まい」にまつわる漢字の秘密

「家」・「屋」・「室」・「宅」・「居」の意味することとは

正木 晃正木 晃

2019/10/27

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イメージ/123RF

「住まい」にまつわる漢字といえば、住・家・屋・室・宅・居などがある。実はこれらの漢字には、どれも深遠な由来や意味が秘められているらしい。
まず、「住」の偏(へん=左半分)にあたる「亻(にんべん)」は「人が立っている姿」を意味する。旁(つくり=右半分)にあたる「主」は、「柱」を意味する。「柱」には「停止するもの」の意味がある。そこで、「住」とは「一箇所にじっと立ち止まっていること」を意味し、ひいては「住む」を意味することになったという。

「家」・「屋」・「室」・「宅」・「居」については、漢字の研究に生涯をついやした白川静先生(1910-2006年)が、以下のような由来や意味があると述べている。ちなみに、白川説に対しては、学会の主流派から、呪術的な側面を強調しすぎていて、残された資料から実証できない要素を導入しているという批判もある。しかし、古代漢字の研究に画期的な貢献を果たしたことは確かであり、賛同者も少なくない。白川先生によれば、「家」という漢字には、まことに不思議というか、不気味というか、私たちが「家」という漢字に対して漠然といだいているイメージとはまったく異なる要素が秘められている。

最古の文字である卜文(ぼくぶん=うらないのための文)に用いた亀の甲羅などに刻まれた文字)や金文(きんぶん)(青銅器の表面に記された文字)の字形では、屋根を意味する「宀(うかんむり)」の下に描かれているのは「犬」だという。つまり家を建てるにあたり、犬を犠牲にして、神霊を祀り、地鎮祭をいとなんでいたと白川先生は読み解いている。

神や天に捧げられる犠牲獣というと、他の地域では羊や山羊が代表的だ。ところが、こと古代中国では犬が犠牲獣として用いられた例が多く、とりわけその血で器物を清めていたと伝えられる。

また、ここから転じて、「家」には、先に亡くなった王を祀る場所を意味する場合もあった。後に、家族とか家系、あるいは家格とか家名というぐあいに、「家」という漢字に血族や氏族の意味が込められた理由も、このあたりに由来が求められる。

この件に関連して、「屋」は、もともとは葬儀をいとなむために、板を並べて建てられた建築(板屋)を意味していたともいう。同じように、「室」も、死者を祀る場所を意味していたようだ。

「宅」もよく似た由来が指摘されている。現代では、「宅」といえば、「住宅」のことで、人が住む場所を意味するが、古代中国ではそうではなかった。「宅」は人が居るべき場所ではなく、神霊が宿る場所であった。「宅」には、巫祝(ふしゅく)といって、特別な霊能をもつ者(シャーマン)が、身を清めてから入り、神霊をお迎えして、いわゆる神懸かりし、神意をお伺いする場所だったのである。

「居」も同類だ。祖先の霊を祀る祭祀のとき、一家の主が、死者に代わって、倚子に腰掛けている姿に由来する。

では、「住まい」にまつわる漢字がこのように宗教的な由来や意味をもっているのは、なぜか。その理由は、次のように考えられる。

古代においては、屋根や柱や板壁や複数の室を備えた立派な「住まい」は、神殿のような宗教関連の施設か王侯貴族のような政治権力者が居住する宮殿くらいしかなかった。しかも、そのころの政治は宗教と切っても切れない関係にあり、多くの場合、王や貴族は神官でもあった。それを思えば、「住まい」にまつわる漢字が宗教的な由来をもつのも、無理からぬ成り行きだったといっていい。

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この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

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