最大震度7、北海道胆振東部地震、その時民泊は
川久保文佳
2018/10/02
イメージ/123RF
2018年9月6日3時7分に最大震度7で北海道胆振東部地震が発生。北海道内において、旅行客94万人のキャンセルが発生し、売り上げ292億円以上の損失が出ることが予想されました。現在、北海道は、交通や電気・水道・ガスなどのインフラの稼働も通常に戻り、旅行客への受け入れ態勢も整ってきています。しかし、震災から1か月ほどたった10月になっても。まだ旅行客の足は遠のいたままです。旅館・ホテル、簡易宿泊所、民泊の物件への建物等の直接の影響は少なかったものの、ブラックアウト(※1)によって、電気や交通が遮断されたことへの「風評被害」は計り知れないものがありました。北海道観光は、未だに海外からのイメージダウンに見舞われたままです。
(※1 ブラックアウト 今回は地震発生当時、全電力需要の半分を発電していた苫東厚真火力発電が停止してしまったので、他の発電所も発電機の故障を防ぐために次々に自動停止して北海道全域で連鎖的に停電が発生し、道内全域が真っ暗になった事象)
そのような中、日本政府は9月28日、北海道地震からの復旧・復興支援策として予備費153億円の予算を計上しました。旅行会社や宿泊施設に補助し、割安ツアーを販売するなど、旅行需要を喚起する割引制度「ふっこう割」を導入する予定になっています。
「ふっこう割」は、1泊あたり5~7割(外国人は7割)、2万円を上限に旅行代金や宿泊代を割り引けるよう、観光会社などへ補助する予定です。また、北海道への旅行、日本人は3泊まで、外国人観光客は5泊までの補助を設ける考えで、補助を受けたツアーの販売期間は19年3月までの予定となっています。こうした利用者によるSNSなどを通じて今の札幌の様子を伝えてもらうことで「風評被害」が払しょくされることを祈りたいところです。
地震当初、予期せぬ災害に北海道中の人々が震撼し、深夜の恐怖に怯えました。それは、北海道住民だけではなく、海外から来ていた観光客にとっても同様で、異国の地での恐怖は計り知れないものがあったと想像します。しかし、施行後すぐの民泊については、災害においての災害ハザードマップの徹底が、まだまだ完備されていないのが現状でした。それぞれの管理業者の対応に大きな差が出たようです。
北海道の自治体が民泊の宿泊者に対して、どのような対応がとれたのでしょうか?
今回は、北海道の住宅宿泊事業法の管理業者を取材しました。
管理業者の話によると、民泊新法施行後の災害対策や安全対策の事例もまだ少ない中で、運用代行の管理事業者が旅行者ひとりひとりに声がけを行い、恐怖を取り除いていったそうです。北海道で運用の住宅宿泊事業法の管理業を行う「アイカンシャ」の長谷川幸郎代表にお話を聞いたところ、即時、災害対策に動いたそうです。
被害が多く報告されている札幌市清田区に事務所を構える同社は、自社の混乱よりもゲストの身を案じ、翌早朝に管理している全物件に宿泊しているすべてのゲストに連絡を取り、無事の確認や被害の状況を聞き、安全対策について連絡し、サポート。他施設から締め出されたゲストも誘導し、空いている部屋の提供を行ったそうです。さらに、余震が収束し、地震発生直後の混乱が一段落したあとも飛行機が運航しない状況があったため、災害時にゲストが宿泊している物件の全オーナーに連絡を取り、延泊のサービスを全室で行い飛行機が運航するまでの2-3日、安心してそのまま泊まっていただける手段を断行したとのこと。ゲストも災害の恐怖は経験したものの、その後の処置について感銘して頂いたそうです。
民泊で必要な非常時の備えについて
緊急事態が起きたときにこそ、災害対策をしっかりと考えたいところです。旅館・ホテル業同様、水害や地震のハザードマップはもちろん、非常時の避難経路や誘導表示、災害時における防災リック、水や食料品の確保も含めて、どのような対策が必要かという事を考えておく必要があります。さらに緊急時の緊急連絡先や急病に際しての近くの救急医療機関など、災害時ガイドを用意する必要を感じます。
しかし、まだ、十分な備えをしている民泊は少なく、緊急災害やテロ対策も含めて、2020年のオリンピックに向けて、事業者の意識を高めていくことが、大切です。
必須、民泊新法の宿帳とパスポート情報
2018年6月15日から施行された民泊新法の義務である宿帳とパスポート情報の備えは、こういった災害時に有効と思われます。即時に被害数を確認する必要があることから、次のステップとして、エリアによる即時人数の把握が望ましいです。サービスが一元化していない民泊においては宿帳の管理や災害時、現時点でのエリアにおける国別などの人数把握が必須と思われます。安全対策のための早い整備が望まれます。民泊受付について、ICT機器(※2)の普及からデーターを集約することで、災害時に役立つと考えられます。
ICT機器については自治体によって、宿帳項目以外の確認事項に差があり、同一の仕様で全国運用ができないケースが起きています。
例えば、東京都品川区では宿泊者の本人確認のサインが必須だったり、北海道では動画が必要だったりと自治体によって要求するものが統一されておらず、自治体の裁量に任せられているようです。(※2 ICT機器 民泊においては、対面ではないチェックイン時に必要とされ、旅館・ホテル業でもカウンターの無人化として利用可能。受付タブレット等を利用して、宿帳や本人確認を行う手段に用いられます。)
まだまだ、スタートしたばかりの住宅宿泊事業法や簡易宿泊所はもとより、旅館・ホテル業など、宿泊を受け入れる施設全体としての益々の整備と受け入れるための顧客サービスなど、向上すべき点は数多くあります。これらを向上させてこそ、観光立国日本の品質が確立していくのだと考えます。
この記事を書いた人
一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事
一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事 北海道函館市生まれ。現在の札幌国際大学 卒業後、リクルート住宅情報事業部にてライターを務めた後、IT企業を経て不動産関連事業へ転身。その一方で、化粧品とサプリメントのコンサルティングや専門家としてのアドバイザー務める。海外派遣先では、フィリピン・タイ・カンボジア・マレーシアなどで日本への輸出入をテーマにセミナーを行うなどマルチに活動している。