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高齢者の運転は本当に危ないのか 交通事故のデータを冷静に眺めてみる

朝倉 継道朝倉 継道

2024/01/10

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「交通戦争」がピークだった時代

昭和という、長く激動だった時代が残した大きなインパクトのひとつが「交通事故」だろう。筆者が子どもの頃、子を持つ親たちの多くは、これがわが子の身に日常迫る最大の脅威と認識していた。

数字を挙げてみよう。昭和40年代(1965~74)のデータだ。

交通事故死者数 警察庁・事故発生後24時間以内での死亡
昭和40年(1965) 12,484人
昭和41年(1966) 13,904人
昭和42年(1967) 13,618人
昭和43年(1968) 14,256人
昭和44年(1969) 16,257人
昭和45年(1970) 16,765人
昭和46年(1971) 16,278人
昭和47年(1972) 15,918人
昭和48年(1973) 14,574人
昭和49年(1974) 11,432人

このうち、昭和45年のところに16,765人という数字があるが、これがわが国交通事故死者数における年間最高記録となっている。漫画「ドラえもん」の連載が始まった翌年だ。

「交通戦争」の言葉がメディアを飛び交い、小学校近くの道路では学童擁護員――緑のおばさんが、あちらこちらで必死に旗を振りながら、笛を鳴らしていた時代となる。

近年の交通事故死者数は2千人台

一方、最近の数字だ。こんな様子となる。

交通事故死者数 警察庁・事故発生後24時間以内での死亡
平成26年(2014) 4,113人
平成27年(2015) 4,117人
平成28年(2016) 3,904人
平成29年(2017) 3,694人
平成30年(2018) 3,532人
令和元年(2019) 3,215人
令和2年(2020) 2,839人
令和3年(2021) 2,636人
令和4年(2022) 2,610人
令和5年(2023) 2,678人(増加は8年ぶり)

もちろん軽んじてはいけないが、このとおり、交通事故で亡くなる方は近年かなり減っていると言っていい。(なお、負傷者数も同様、14年711,374人――23年速報値365,027人)

なお、現在は24年1月だが、この月に多い、餅による窒息事故の死亡者を含む「気道閉塞を生じた食物の誤嚥」による死者数は、厚生労働省の調べで一昨年(22年)4,696人とされている(人口動態統計)。

つまり、同じ年の交通事故死者数の約1.8倍だ。このうち9割以上が65歳以上の高齢者となる。

高齢者の運転は本当に危険なのか

さて、交通事故――高齢者、と話が及んだところで、本題に進みたい。

近年、交通事故のニュースとしてメディアに大きく報道されるものにあっては――おそらく気のせいではないだろう――高齢者が起こしたケースが、より頻繁に取り上げられる傾向にある。

  • 「70代が車で店に突っ込んだ」
  • 「80代が道路を逆走した」
  • 「90代がアクセルとブレーキを踏み間違えた」――

そういった事例が、テレビやインターネットをたびたび賑わせ、特にネットではそれに対して辛辣なコメントが寄せられることも少なくない。

そこで、当記事では、このことに関する実際の数字をいくつか見ていきたい。

メディアから受け取る印象どおり、高齢者が起こす交通事故は他に比べて多いのか。彼らの運転はほかの世代以上に危険なものなのだろうか?

ある公式なデータから、それを探っていこう。

20代の起こす事故の数は後期高齢者の1.8倍以上

まず、この数字だ。

令和4年(22年)における「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別交通事故件数」というものだ。(警察庁)

言葉の定義を押さえておくと、

  • 「原付以上運転者」――自動車、自動二輪車、および原動機付自転車の運転者のこと。
  • 「第1当事者」――最初に交通事故に関与した事故当事者のうち、最も過失の重い者。

要は、そのドライバー、あるいはライダーの過失(=その事故において最も重い過失)によって、事故が起こされたケースとなる。

まず、高齢者の数字を見ていこう。

65~69歳 18,659件
70~74歳 22,363件
75~79歳 14,329件
80~84歳 8,630件
85歳以上 3,868件

次に、若者だ。

16~19歳 8,487件
20~24歳 27,825件
25~29歳 22,176件

いかがだろう。

見てのとおり、5歳区切りで分けられた各世代のうちでは「20~24歳」の数字が最高のものとなる。70~74歳がこれに次ぐが、それとほとんど変わらない数字を25~29歳が積み上げている。

ちなみに、高齢者をいわゆる前期・後期で分けるとこんな様子となる。

前期高齢者(65~74歳) 41,022件
後期高齢者(75歳以上) 26,827件

対して、20代の合計はこうなる。

20代(20~29歳) 50,001件

つまり、単純には、20代が起こす事故件数は、同じスパン(10歳分)を跨ぐ前期高齢者の約1.22倍となる。また、スパンがさらに広がる後期高齢者の約1.86倍にのぼっている。前期も後期も併せ、高齢者すべての数字をかき集めることで、やっと20代を上回る計算だ。

よって、現実として、若者が起こす事故の数は多い。

なおかつ、忘れずにひろっておこう。家族から「免許を自主返納したら」などと言われて複雑な気分でいる人も多そうな80代前半が起こしている事故の絶対数は、視力や聴力に優れ、運動能力も高い10代後半と似たり寄ったりの水準だ。

事故の「起こしやすさ」が突出する“幼い世代の若者”

次に、上記の切り口を変えた数字を見ていこう。

「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数」というものだ。(警察庁)

すなわち、同じ人数当たりに換算した数を比較することで、こちらでは、各年代における事故を起こす可能性――起こしやすさが判ってくる。一気に並べていこう。

高齢者 65~69歳 299.1件
70~74歳 341.0件
75~79歳 372.1件
80~84歳 423.4件
85歳以上 498.4件
若者 16~19歳 1,039.2件(年代別の最高)
20~24歳 597.2件(同2位)
25~29歳 414.8件
参考:最も数字が下がる3つの年代 35~39歳 290.6件
40~44歳 282.2件
45~49歳 290.7件

以上のとおり、インパクトにあふれた結果といっていい。

なかでも際立つのが「16~19歳」における1,039.2件という数字になるだろう。これは、カッコ書きしたとおり年代別の最高で、高齢者側にあっては、そのいずれの数字を採ってもこの半分も超えられない。

加えて、「20~24歳」における597.2件も突出度が高い。こちらも、高齢者の数字いずれもが太刀打ちできないものとなっている。

つまり、年配の読者はよくご存知だろう。社会の共通認識として、かつては当たり前だった「若者の運転は危ない」は、今も十二分に言えることなのだ。

ただし、上記には、ほかにも見逃してはいけない部分がある。それは、高齢者の数字における、加齢にともなう右肩上がりの件数増となる。

妙な言い方になるが、80歳を超えると、その運転の危なさ加減は20代のレベル辺りにまで「若返って」しまうのだ。

ただし、それでも10代ほど深刻ではない。

「踏み間違え」はどの世代も。「逆走」に高齢者は注意

以上、高齢者が起こす交通事故は他に比べて多いのか、彼らの運転はほかの世代以上に危険なものなのだろうか?

今回、それを考えるのにちょうどよいデータを、警察庁による数ある交通事故に関する統計の中に探り、ひろってみた。

結果は、示したとおりだ。

高齢者の運転は、現状、少なくとも若者ほど事故に結びつきやすいものではないようだ。

なお、似たような事実を語るデータや調査結果は、同じ警察関係のもののなかにも、他のリリース等にも、探せば見つけることができる。

たとえば、そうしたひとつ、一般社団法人日本自動車連盟(JAF)が昨年10月に公表したコラム記事においては、とても興味深いアンケート結果が紹介されている。

内容の一部を下記に掲げよう。

高齢者による交通事故原因の“定番”とも思われがちな「アクセルとブレーキの踏み間違え」だが、これを経験した割合が以下のとおりだ。

アクセルとブレーキの踏み間違え
39歳以下 1.0%
40~64歳 1.0%
65歳以上 1.0%

一方、様子が異なるものもある。同じく高齢者に多いイメージのある「逆走」だ。

逆走した(しそうになった)ことがある
39歳以下 0.3%
40~64歳 0.5%
65歳以上 0.7%

つまり、「踏み間違え」は高齢者ばかりの専売特許ではないが、「逆走」はそうでもない。どうやら、年齢を重ねるほど起こしやすくなってくるものと言えそうだ。

そのうえで、JAFは、若年層について「アクセルとブレーキを踏み間違えてもその後のリカバリーが上手いため、事故になりにくいのかもしれない」旨のコメントも付け加えている。

(なお、上記「踏み間違え」「逆走」は、アンケート回答者が加齢による運転の衰えを感じた場合の「衰えの種類」として選択肢に挙げられるかたちで、設問化されている)

この記事で紹介したデータは、それぞれ下記でご覧いただける。

警察庁 交通事故発生状況 統計表」(窓口ページ)
――「令和5年中の交通事故死者数について」(e-Stat)
――「令和4年中の交通事故の発生状況」(e-Stat)

JAF Mate 高齢ドライバー=危険は先入観! 若い世代も注意を

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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