壁紙の上からのペンキ塗り――DIY塗装で注意すべき5つのこと
内村恵梨
2022/02/02
イメージ/©︎janpietruszk・123RF
ローラーでお部屋の壁をペンキ塗り。一度はやってみたいと思っている方も多いのではないでしょうか。アメリカの映画などでよく見るシーンで憧れますよね。ペンキ塗りは、一見とても簡単そうに見えますが、実際はどうなのでしょうか。
今回は塗装の難易度やメリット、壁紙(ビニールクロス)の上から塗ることを検討する場合の注意点についてお話していきます。
壁のペンキ塗装は本当に簡単?
塗装というと、ローラーやハケでペンキを塗る光景を思い浮かべると思います。しかし、その作業にたどり着くまでの準備が意外と大変なのです。
塗装作業は、「養生8割、塗り2割」といわれます。養生とは、保護をすること。ペンキがたれたり、付いたら困る部分を保護する作業です。
例えば、部屋の壁の一面だけ塗装するとしましょう。その壁に接している天井部分、右側の壁、左側の壁、床、壁についているスイッチやコンセント部分などを、マスキングテープやマスカーと呼ばれる養生材で保護する必要があります。
気を付けて塗れば大丈夫と、タカをくくって養生を適当にすると、必ず「なぜここに付いた!?」という場所にペンキが飛び散ったりはみ出たりしていることが起こります。そして、その補修をしないといけなくなるという、無駄なコストと時間がかかることもあるのです。
しかも、養生はただカバーしておけばいいという訳ではありません。塗る部分と塗らない部分の境界線にあたる箇所は、まっすぐ慎重にマスキングテープを貼らないと、きれいなラインになりません。ここにプロと素人の違いが大きく出ると言っても過言ではないくらいの、神経を使う作業なのです。
ペンキを塗る作業も、もちろんプロのようにハケ目やムラなく均一に塗る、というのは難しいです。ただ、塗装壁はざっくり手作り感があってもよし、という方も多いので、それを味と捉えられるのであれば比較的誰でもチャレンジしやすいと思います。
最初の準備が出来上がりの善し悪しを決める
部屋の壁を塗装するメリットは?
現在、日本の住宅の内装は、壁紙であることがほとんどです。それでは、あえて塗装壁にするメリットはどんなところにあるのでしょうか。
①修繕が簡単
壁紙の場合、一部に汚れがあるだけでも、基本的には部分補修でなく、全面貼り換えが必要になります。塗装の場合は、汚れた部分だけを塗り重ねることも可能なので、簡単に修繕ができます。
②みんなで楽しめる
塗装ではカッターなど刃物類は使用しないので、子どもでも安全に作業ができます。また、壁紙貼りに比べると難易度は低く、ハケやローラーは扱いが簡単なので、家族や友人と気軽に楽しみながらDIYできます。
③ゴミが少ないのでエコ
壁紙貼りの場合、古い壁紙を剥がして新しいものを貼るので、古い壁紙は毎回ゴミになってしまいます。塗装の場合は使用済みのハケやローラー、残った塗料や養生材くらいなので、ゴミは少なめで済みます。
④少しくらいムラがあっても味に変えられる
塗装は、DIYで塗ると必ずムラやハケ筋などが少しは残ります。ただ、塗装仕上げのカフェや美容院などを想像してもらうと分かるように、手作り感が残っても逆に味が出てオシャレな雰囲気になります。
⑤失敗しても上から塗れる
万が一仕上がり悪かったとしても、2度塗り、3度塗りと重ねていくとそれなりに仕上がります。また、塗料が思った色と違った場合も、別の色で塗り直すことができます。
⑥壁紙貼りより道具は少ない
塗装は、ハケ、ローラー、塗料を入れるバケット類があれば塗れるので、必要な道具が少ないのも嬉しいポイントです。
壁のペンキ塗装はみんなで楽しみながらできる!
ペンキ塗装と壁紙貼り替え――かかる費用の差は?
続いてコスト面も見てみましょう。DIYでお部屋の壁を塗装しようとした場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
6畳のお部屋の、面積の狭い方の壁を一面塗ると考えて、計算してみます。6畳と言っても、厳密には地域によって若干のサイズの違いがあるため、今回は関東に多い「江戸間」のサイズで考えます。横幅約2.6m×高さ約2.5m=6.5㎡の面積が工事の対象です。
コスト計算に必要なものは、塗料・養生資材・道具の3つ。
●塗料
日本の会社のターナーさんの、「J COLOR」というシリーズを使用する場合、1Lで6~7㎡を2回塗りできるので、0.5L缶1650円×2=3300円(税込、定価)となります。
●養生
マスキングテープとマスカー(マスキングテープと養生シートを一体化させたもの)を用意します。マスキングテープは1個約220円、マスカーは1個約250円です。
●道具
ハケとローラー、そして塗料を入れるローラーバケットを用意します。ハケは約200円、ローラー&ローラーバケットはセットで約1000円です。
上記全てを合計すると、4970円となります。
同じ面積を壁紙貼りする場合は、生糊付き壁紙が送料込みで約5000円、道具一式のセットが約1400円なので、合わせて6400円程度です。
ここでは塗装の方が若干安くなりましたが、実際は塗料や使用道具のグレードによっても変わってくるので、塗装もクロス張りも大きくは変わらない、といった印象です。
ローラーとローラーパケットだけでは道具は足りない
壁紙(クロス)の上に塗装するのはあり?
近年、既存の壁紙の上から塗れる塗料が増えています。壁紙の上から塗れるのであれば、簡単そうだしやってみたい、と考える方も多いのではないでしょうか。
実際、状態のいい壁紙の上から塗れば、下地調整(凹凸を埋めるなど)も必要なく、塗りやすいことは確かです。しかし、DIYとプロの考え方は、先々を見据えた工事をするかどうか、というところに現れます。
プロの視点から意見を聞くと、基本的に「壁紙の上に塗装はNG」といわれることが多いのです。その理由は、壁紙の上に塗装をすると、その後に壁紙を貼り替えようとなった場合、壁紙が固くなり剥がすのがとても難しくなるためです。
そもそも一般的によく貼られているビニール壁紙は、5年~10年が耐用年数といわれています。貼りかえ前提で作られている製品なので、剥がしやすいようになっています。しかし、壁紙の上から塗装をしてしまうと、こうした製品の特徴でもある剥がしやすさは失われます。
その状態で壁紙貼り工事を業者さんにお願いすると、古い壁紙の剥がしや下地調整の工程でかなりの時間を要するため、工賃が高くなる可能性があります。さらに、うまく剥がれないときはスクレーパー等を使って剥がすので、下地を痛めてしまう可能性も高まります。
あまりにも剥がせない場合は、下地(石膏ボード)ごと交換することもあるので、余計なコストがかかります。
このような理由から、将来的に壁紙をまた張り替えることも考えている方は、壁紙の上からの塗装はやめておいた方がいいかもしれない、という結論になります。
とはいえ、壁紙の上から塗る以外の方法は、DIYではなかなか難しいのも事実です。具体的には次のような作業が必要です。
・壁紙を剥がし、残った裏紙を全てはがし、必要箇所にパテを塗る
・現在の壁の上からベニヤや石膏ボードなどを上張りし、段差や隙間をパテで埋める
といった具合に、ペンキが塗れる状態の壁を作らないといけないので、かなり大がかりなDIYになってしまいます。
また、壁紙の上から塗装をする場合は、今貼られている壁紙に撥水機能が施されていないかの確認が必要です。
壁紙にはいろいろと種類があり、水回りなどにはときどき撥水トップコートの付いた製品が使用されている可能性があります。霧吹きなどで水をかけてみて、球状になって流れる場合は撥水機能付きの可能性が高いので、ペンキがうまくのらないことがあります。
こうした場合は、3~4回塗り重ねたり、ペンキの前にシーラーを塗るなどする必要が出てくるため、そういった壁紙の上に塗装するのはあまりおすすめできません。
ペンキ塗装は手軽にできそうに見えるけれど……
壁紙の上から塗装するときの材料の選び方
壁紙の上から塗装をする場合、普通の水性塗料でなく、壁紙(クロス)に対応した水性塗料を選ぶ必要があります。
塗料の説明書き部分に、「クロス(壁紙)対応」「カベ紙・ビニールカベ紙の上にも塗ることができます」などの記載があるものを選びましょう。
例えば、ターナー色彩株式会社の出している、「J COLOUR」という塗料は、壁紙の上から塗ることができます。カラー数はなんと200色もあります。
また、もっと色にこだわりたい!という方は、アメリカのペイントブランド、「Benjamin Moore(ベンジャミンムーア)」もおすすめです。オーダーメイドで調色するので、約3600色から自分好みの色を選ぶことができます。日本にはないような色味も多く、海外っぽいおしゃれな塗装壁が実現します。
ペンキの色はとりどり/©︎janpietruszk・123RF
いかがでしたか?
壁紙の上からの塗装は注意点も多いですが、塗装壁はおしゃれな雰囲気が醸し出せるのでとても魅力的ですよね。DIYする場合は、将来的にリフォームする際にかかる費用なども考慮に入れておくのがポイントです。
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この記事を書いた人
匠アカデミージャパン 事務局長 (運営:株式会社イマジンネクスト)
匠アカデミージャパンは2016年に開校した内装リノベーションのスクール。 単にDIYのノウハウを教えるスクールではなく「人生100年時代の大人の学び直し」の場として、副業やセカンドキャリア、定年後の生き生きとしたライフスタイルに生かせる技術を身につけることを提唱している。 講習内容は、クロスや床材の張り替えや、賃貸住宅大家さん向けワンルームの原状回復コースなど、まったくの経験のない方に対してDIYを超えた職人の技を伝授。照明プランニングや内装コーディネートのセミナーなども開催中。 http://www.takumi-ac.jp/