大麻密売グループと仲介会社スタッフが管理会社を騙した! 罰則が強化されている大麻事犯
2025/09/16

管理会社が「仲間」に騙された
賃貸住宅オーナーにとっては、まさに衝撃のニュースとなった。
8月29日、福岡県警が、福岡市と大阪市にあるそれぞれ別の不動産仲介会社に勤める社員2人を逮捕した旨、公表した。これを各メディアが一斉に報じている。
逮捕された1人は、福岡市東区の30代の男。もう1人は、大阪市中央区の20代の男と伝えられている。
2人は、大麻密売グループのメンバーが賃貸マンションの部屋をスムースに借りられるよう、それぞれ便宜を図ったらしい。
手口は、書類の偽造だった。
大麻の栽培や違法薬物の保管などを行うため、部屋を確保しようとしていたメンバーのために、2人はニセの就職内定通知書をこしらえた(採用決定通知書との報道も)。
これにより、メンバーの身分や収入が確かなように装い、マンション管理会社による審査を通過させたという。
結果、福岡で2室、大阪で2室、計4部屋で不正な入居が行われた。
物件内からは、栽培中の大麻草のほか、乾燥大麻、液体大麻等が押収されるなど、犯罪の拠点となっていたことが明らかとなっている。
なお、福岡および大阪、双方の仲介会社社員に互いの面識はなかったようだ。密売グループは、各地で業者を個別に選定し、不正を働きかけていたと見られている。
そのうえで、同グループは、上記4部屋も含め計10数カ所の部屋を借りていたということで、他でも同様の不正がなかったか、県警が捜査を続けている模様だ。
一方、こうした誘いに乗った社員、あるいは仲介会社の方にも、そもそも普段から問題があったのではというのも、少なくない見方となる。
入居審査に通りにくい入居希望者の審査を通すため、こうしたやり方に日ごろから手を染めていたとの疑いだ。
つまりは、契約の数をこなし、営業成績を上げたいスタッフ、収益を伸ばしたい仲介会社、それらを見透かしたうえでの犯罪グループからの甘いアプローチ―――。
それぞれの思惑が一致しての行動が、推察されかねない状況となっている。
昨今の賃貸不動産業界を悩ませている課題
大麻、特殊詐欺、違法風俗等々―――。
自身の大切な資産である物件が犯罪の拠点となり、温床にされるというのは、まともな賃貸オーナーにとっては耐えがたいこととなる。
ときには事件の現場として、建物を撮影した映像がテレビに大きく映し出されたり、インターネット上に晒されたりすることもある。
そのため、オーナーの多くは、プロである管理会社に対し、おかしな入居者が入り込まないよう、適宜厳正な審査を求めることとなる。しかし、そこには当然ながら限界が存在する。
たとえば、今回のように、業務上密接なパートナーであるはずの仲介会社、もしくはそのスタッフが、さまざま仕組みを講じ、本気で管理会社を騙しに来たとする。これを防ぐのはなかなか難しい。
何となれば、管理会社、あるいは家賃債務保証会社が、入居希望者が就職するという会社に電話をかけ、事実を確かめようとしたとしよう。
すると、そこにはさらに別の協力者がいて、
「〇〇さんは確かに当社へ入社される方です」
用意周到に答えて来るといった具合だ。しかも、その会社はちゃんと登記されていたりもする。
なおかつ、こうした協力者が、先ほどの内定通知など書類の偽造段階からサポートに加わるケースもある。要は、騙しのプロといっていい。
ちなみに、このたびの福岡・大阪の件では、こうした協力者、あるいは組織が存在したとの情報は、目につく範囲において見当たらない。
ともあれ、賃貸住宅をねぐらとしての犯罪や違法行為、それを幇助する人物・団体の存在は、このところ業界がかかえる悩みのひとつになりつつある。
数多い管理物件の全てにまではとても目が行き届かない管理会社の人的、物理的な事情も踏まえ、オーナー個々も、より積極的にこのことに目を配った方がよいだろう。
誤解は禁物。大麻の取締りは近年厳しくなっている
一方、大麻についての話となる。
大麻の取締りに関しては、近ごろ一部で誤解が増えているとも聞かれる。
「大麻を使用しても、いまどき大きな罪にならない」「なので、みんなやっている」などといったものだ。
要因としては、外国でのいわゆる解禁・合法化のニュースや、旧大麻取締法を都合よく解釈してのウワサの流布などが挙げられる。
しかしながら、実態は逆だ。日本における大麻の取締りは、昨今、以前よりも一段と厳しくなっている。
2023年12月の大麻取締法の改正等による、以降(現在)の主な罰則を見てみよう。
「所持・譲渡・譲受」
7年以下の拘禁刑
……かつて「5年以下」だったものが重くなっている。
(営利目的の場合は、1年以上10年以下の拘禁刑、または情状により、1年以上10年以下の拘禁刑および300万円以下の罰金)
「栽培」
1年以上10年以下の拘禁刑
……こちらもかつては「7年以下」だった。
(営利目的の場合は、1年以上の有期拘禁刑、または情状により、1年以上の有期拘禁刑および500万円以下の罰金)
「施用(使用)」
7年以下の拘禁刑
……施用(使用)の禁止とそれにともなう罰則は、今般法改正により新たに設けられたものだ。要は「使用罪」が創設されたかたちだ。
(営利目的の場合は、1年以上10年以下の拘禁刑、または情状により、1年以上10年以下の拘禁刑および300万円以下の罰金)
ちなみに、大麻取締法は、上記改正によって「大麻草の栽培の規制に関する法律」に名前が変わった。これにより、上段のうち「栽培」については同法が、「所持・譲渡・譲受」と「施用(使用)」については「麻薬及び向精神薬取締法」が、上記罰則を定める建て付けとなっている。
なお、かつて大麻の使用罪が規定されていなかったのは不思議なことだが、これは、大麻草を合法的に栽培する農家の人々を保護するのが主な理由だったとされている。刈り取りの際に成分が飛散し、それを彼らが吸引してしまう可能性があると考えられたためだ。
しかしながら、検査結果から、その懸念は払拭されていると認められたことなどから、このたび使用も明確に罪であることが規定されるに至ったようだ。(参考:厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ」)
対して、以前の(不思議だった)状態は、「大麻の使用は実は罪にならない」などといった噂やセールストークが飛び交う原因になっていたため―――実際には使用に付随しがちな所持・譲渡・譲受が犯罪のため、ほぼ抜け道とならないが―――ここが埋められた意味は大きい。大麻の使用、乱用を抑えるための重い扉が閉められたかたちとなっている。
加えて、知っておきたい。大麻で逮捕されると、その扱いは厳しい。多くの場合、在宅での捜査が認められることはない。勾留が決まってしまう。なぜなら、薬物事犯においては、釈放中に証拠隠滅や関係先との口裏合わせが行われる可能性が高いと判断されるからだ。
―――以上。いわゆる大麻解禁論を唱えることは自由だ。だが、わが国の現実は甘くない。大麻に対しては確実に厳しい方向に進んでいる。勘違いしたり、騙されたりして重罪に手を染めないよう、ぜひ注意してほしい。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室