地価LOOKレポート2025年第2四半期 中野のクールダウンと進撃のインバウンド

2025/09/09
中野サンモール商店街
全地区「上昇」が6期連続
8月29日、国土交通省が令和7年(2025)第2四半期分(25年4月1日~7月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。
前期に続き、今期も80地区全てが地価上昇地区となっている。これで6期連続だ。住宅系地区は13期連続で3年超、商業系地区は6期連続で1年半、現在の状況が続いている。
以下、国交省のコメントとなる。
- 住宅系地区
「利便性や住環境の優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことなどから、上昇傾向が継続した」 - 商業系地区
「再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあり、店舗・ホテル需要が堅調であったこと、また、オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続した」
いずれも前期と同じ内容になっている。「マンション」「再開発」「インバウンド」が、いまの日本の大都市部地価を支える3つの柱となる。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。
再開発計画「白紙」の街の評価が上昇
地価LOOKレポートにおける地価上昇地区には、率で表す3つの評価レベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」「同(0%超3%未満)」となる。今期のそれぞれにおける数は以下のとおりとなっている。
| 地価 | 地区数 | 前期 |
| 上昇(6%以上) | 0 | 0 |
| 上昇(3%以上6%未満) | 5 | 5 |
| 上昇(0%超3%未満) | 75 | 75 |
「6%以上」は見てのとおりゼロだが、それに次ぐ「3%以上6%未満」の地区は5つある。顔ぶれは以下のとおりだ。
| 東京都 | 中央区 銀座中央 | 商業系地区 |
| 新宿区 歌舞伎町 | 商業系地区 | |
| 中野区 中野駅周辺 | 商業系地区 | |
| 京都市 | 下京区 京都駅周辺 | 商業系地区 |
| 福岡市 | 中央区 大濠 | 住宅系地区 |
なお、前期は「3%以上6%未満」だったが、今期は「0%超3%未満」に下がった地区は下記となる。
横浜市 西区 みなとみらい(商業系地区)
とはいえ、資金調達、インバウンド需要など、現状の環境が変わらない限り、みなとみらいもまた、首都圏の地価上昇を牽引する代表的な街であることに当分変わりはないだろう。
以下は、みなとみらい―――みなとみらい21地区について、今年の3月に横浜市より公表された数字となる。
| 2024年の年間来街者数(推計値) | 約8,260万人 | コロナ禍前の水準に回復・19年比99% |
| 2024年の年間就業者数(12月時点) | 約144,000人 | 過去最多 |
| 2024年の事業所数(12月時点 ) | 約2,010社 | 過去最多 |
一方、前期は「0%超3%未満」だったが、今期は「3%以上6%未満」に評価が上がった地区は下記となる。
東京都 中野区 中野駅周辺(商業系地区)
この「中野駅周辺」については、不動産鑑定士が面白いコメントを綴っている。
「(前略)また、中野サンプラザの跡地の再開発計画についても白紙化が決定され、不透明性が払拭された。このような状況から、当地区の地価動向は上昇で推移した」
中野サンプラザ跡地については、当初、高さ約262メートルの超高層ビルを中心とした複合施設の建設が計画されていた。オフィスやホテル、商業施設、住宅に加え、7,000人規模の多目的ホールや、展望施設なども入居する、いわば都会的かつ豪勢なビジョンに溢れたプランだった。
ところが、報道等でもよく知られるとおり、この計画は予測される建設費の高騰によって断念された。代案も提示されたが、区による検討の結果、そちらも見送られた。これにより、東京・首都圏のみならず、全国的にも注目されていた再開発計画は一旦白紙となっている。(6月19日、中野区議会が事業者との協定解除の議案を可決。6月30日、事業者がこれに同意)
しかしながら、その結果、却って「不透明性が払拭された」ということで、そのことが当該地の地価上昇に寄与しているとの分析がここではなされている。なかなか面白い。
なお、東京に23ある特別区は、一般の市町村と同じく、基礎自治体に位置づけられるものだ。その点、政令指定都市における行政区とは違う。すなわち、中野駅周辺というのは、人口約34万4千人の「中野市」の中心部であるということにもなる。
よって、いかに東京都心と隣接、一体化している中野の街といえども、そういった観点からは、262メートルの高層ビルや、7,000人規模の多目的ホール等々を擁する当初の計画は、いささかゴージャスなものでありすぎた感も無くはない。
そのため、今般プロジェクトの白紙化は、民間、行政問わず、多くの人々に対し、いっときの前向きなクールダウンをもたらしている可能性もある。
インバウンドの伸び続く
上記、上昇率「3%以上6%未満」地区の中で、「銀座中央」「歌舞伎町」「京都駅周辺」は、とりわけインバウンド需要が地価の上昇に大きく影響しているエリアとなる。
3地区、それぞれにおける不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。
銀座中央
- 「当期においても訪日外国人観光客による消費が活発な状況」
- 「買い手側による当地区への選好性や開発期待が非常に高い」
- 「物件供給が少ないなかで当地区の不動産に対する取得需要は強い」
歌舞伎町
- 「多数の国内若年世代や外国人観光客が当地区を来訪し、活況が続いている」
- 「当地区の好況感を背景に需要は堅調」
- 「今後もインバウンドをターゲットとした店舗需要を中心により活況を呈すことが見込まれる」
京都駅周辺
- 「インバウンド需要は引き続き旺盛」
- 「今後予定されている各種開発による波及効果等への期待感から不動産市場は活況」
- 「収益用不動産の取得需要は強含みの状態で当面は推移すると見込まれる」
そのうえで、今年のインバウンドの状況だ。日本政府観光局・JNTO発表「訪日外客数」8月20日公表分より抜粋する。
| 月 | 訪日外客数 | 昨年よりの伸び率 | 内、観光客数 | 昨年よりの伸び率 |
| 1月 | 3,781,629人 | 40.7% | 3,455,149人 | 44.8% |
| 2月 | 3,258,491人 | 16.9% | 2,965,065人 | 16.4% |
| 3月 | 3,497,755人 | 13.5% | 3,149,434人 | 13.7% |
| 4月 | 3,909,128人 | 28.5% | 3,587,187人 | 29.8% |
| 5月 | 3,693,587人 | 21.5% | 3,368,573人 | 22.1% |
| 6月 | 3,377,800人(推定値) | 7.6% | ||
| 7月 | 3,437,000人(推定値) | 4.4% |
このとおり、年明け以降、全ての月が前年比増となっている。このままの勢いが続けば、今年のインバウンド総数は、年間で過去最高の昨年(3687万148人)を大きく超えていくことになるだろう。
ちなみに、上記の内の7月だが、国・地域別の内訳を見ると、香港で36.9%減という極端な数字が挙がっている。これは、先般SNSで拡散された「7月に日本で大災害が起こる」との噂が少なからず影響したものと見られている。
ともあれ、そんな混乱を含みつつも、上記343万7000人(推定値)は、7月としての過去最高を記録するものとなっている。
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。
「地価LOOKレポート 令和7年(2025)第2四半期分(25年4月1日~7月1日)」
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。























