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地価LOOKレポート2025年第1四半期 「コト消費」するために街へ行く?

朝倉 継道朝倉 継道

2025/06/20

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5期連続で全地区が「上昇」

今月12日、国土交通省が令和7年(2025)第1四半期分(25年1月1日~4月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。

前期に続き、今期もほぼ変化が無い。80地区全てが地価上昇地区となっている。住宅系地区は12期連続、すなわち丸3年。商業系地区は5期連続で1年を超えた。全地区が上昇地区の状態も5期連続だ。

以下は、国交省のコメントとなる。(抜粋)

住宅系地区
「利便性や住環境の優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことなどから、上昇傾向が継続した」

商業系地区
「再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあり、店舗・ホテル需要が堅調であったこと、また、オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続した」

どちらも前期と同じ内容になっている。「マンション」「再開発」「インバウンド」が、いまの日本の大都市部地価を支える3つの柱だ。

なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。

「3%以上6%未満」は6地区から5地区に

地価LOOKレポートにおける地価上昇地区には、率で表す3つの評価レベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」「同(0%超3%未満)」となる。今期のそれぞれにおける数は以下のとおりとなっている。

項目 今回の地区数 前期
上昇(6%以上) 0 0
上昇(3%以上6%未満) 5 6
上昇(0%超3%未満) 75 74

「6%以上」は見てのとおりゼロだが、それに次ぐ「3%以上6%未満」の地区は5つある。顔ぶれは以下のとおりだ。

東京都 中央区 銀座中央(商業系地区)
新宿区 歌舞伎町(商業系地区)
横浜市 西区 みなとみらい(商業系地区)
京都市 下京区 京都駅周辺(商業系地区)
福岡市 中央区 大濠(住宅系地区)

なお、前期は「3%以上6%未満」だったが、今期は「0%超3%未満」に下がった地区は下記となる。

東京都 豊島区 池袋東口(商業系地区)

とはいえ、資金調達、インバウンド需要など、現状の環境が変わらない限り、池袋もまた東京・首都圏の地価上昇を牽引する代表的な街であることに当分変わりはないだろう。

そのうえで、当地ではこれより大規模再開発が始まる(池袋駅西口地区・池袋駅直上西地区の市街地再開発事業)。地上50階・約270メートルを筆頭に、3棟の高層ビルが建ち上がるビッグプロジェクトとなる。

予定では今から18年先の完成となる一大事業だが、池袋の街を大きく変貌させるはずだ。街の重心移動が起きることによる(東寄りから西寄りへ)悲喜こもごもも、いろいろと生じていくことになるだろう。

インバウンド需要にさらなる勢い

上記、上昇率「3%以上6%未満」地区の中で、「銀座中央」「歌舞伎町」「京都駅周辺」は、とりわけインバウンド需要が地価の上昇に大きく影響しているエリアとなる。

3地区、それぞれにおける不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。

銀座中央

  • 「当期においても訪日外国人観光客による消費が活発な状況」
  • 「物件供給が少ないなかで当地区の不動産に対する取得需要は強い」
  • 「多様な需要者により極めて高額で取引されている事例も」

歌舞伎町

  • 「多数の国内若年世代や外国人観光客が当地区を来訪し、活況が続いている」
  • 「好況感を背景に需要は堅調」
  • 「今後もインバウンドによるさらなる商況の回復が見込まれる」

京都駅周辺

  • 「当地区は観光客の集散拠点」
  • 「今後予定されている各種開発による波及効果等への期待感から不動産市場は活況」
  • 「収益用不動産の取得需要は強含みの状態で当面は推移すると見込まれる」

そのうえで、今年のインバウンドの状況だ。(日本政府観光局・JNTO発表「訪日外客数」5月21日公表分より)

訪日外客数 昨年よりの伸び率 内、観光客数 昨年よりの伸び率
1月 3,781,629人 40.7% 3,455,149人 44.8%
2月 3,258,491人 16.9% 2,965,065人 16.4%
3月 3,497,600人(推計値) 13.5%    
4月 3,908,900人(推計値) 28.5%    

このとおり、1月以来連続しての前年比大幅増となっている。なおかつ、4月の数字(推計値)は、単月で過去最高だった1月の数字をさらに上回るものとなった。

このまま勢いが続けば、今年のインバウンド総数は、年間で過去最高の昨年(3687万148人)を大きく超えていくことになる。

アリーナ建設が話題の湾岸2地区

地価LOOKレポート80の対象地区のうち、潮風薫る東京湾沿い2地区で、スポーツ向けアリーナの建設が話題になっている。ひとつは、千葉市美浜区「海浜幕張」地区。もうひとつは、東京都江東区「青海・台場」地区となる。

千葉市「海浜幕張」地区

地価LOOKレポートでは「JR京葉線の海浜幕張駅からの徒歩圏。高層の業務ビルが建ち並ぶ幕張新都心内の業務高度商業地区」と、紹介されているエリアだ。

この東側にある千葉県立幕張海浜公園で、プロバスケットボールクラブ「アルティーリ千葉」の新しい本拠地となるアリーナの建設構想が進んでいる。

地区の現況はどうか。不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。

  • 「海浜幕張駅前の人通りは増加しており、駅前商業施設については空き区画が少なくなっている」
  • 「海浜幕張駅の新改札口前ではホテルが建設中であり、海浜幕張駅前商業施設の大型複合施設への建替え計画、幕張海浜公園での商業施設やスポーツ関連施設の建設計画、幕張ベイパークにおけるタワーマンションの供給等により当地区の拠点性が強まることも期待される」

上記のうち、「スポーツ関連施設の建設計画」とあるのが、新アリーナを指すもののはずだ。

なお、一方で、当地区からは、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの本拠地「ZOZOマリンスタジアム」が転出する旨、先ごろ決まった。ただし、行き先はすぐ目の前。西隣の豊砂地区だ。開業は、予定では今より9年のちのこととなる。

東京・江東区「青海・台場」地区

こちらは開業が間近に迫っている。

いわゆるお台場エリアの一角「青海」に「TOYOTA ARENA TOKYO」がオープンする。今年秋の予定だ。プロバスケットボールクラブ「アルバルク東京」の新しい本拠地となる。さらには「サンロッカーズ渋谷」も2026―27シーズンから当アリーナにホームを移転する。

収容人員約1万人を誇る(バスケットボールの試合開催時)メインアリーナのほか、サブアリーナ、スポーツパーク等を併設し、バスケットボール以外にもコンサート、コンベンション、エキシビション等、さまざまな催しの舞台となる総合的な空間が生まれることになる。

当地区における不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。

  • 「大規模開発計画への期待感とともに開発素地に係る取引需要は安定的に推移し、引き続きインバウンド等による来街者数の持ち直し等による賑わいの回復も続くと予想される」
  • 「商業施設を中心に当面は賃貸需要の強まりが続くと見込まれるため、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される」

街は「モノ消費」第一から「コト消費」が先行する場へ

以上、アリーナ建設が話題の2地区だが、ここでのアリーナに代表されるような「コト消費」の場が、これからは都市の賑わいをかたちづくる中心になっていくものと筆者は思っている。

昭和の頃を思い出そう。街の象徴といえば、何より百貨店―――デパートだった。モノ消費のまさに殿堂だ。デパートの階数が多いこと、それらが数多く建つほどに、そこは都会と呼ばれ、そう感じられもしたものだった。

一方、時代が下り、モノ消費の場はネット空間に大きく移動した。また、その一足先に“クルマ空間”にも移動している。すなわち郊外だ。

そこで、現在、街に人が集まる理由として、コト消費が大いに重みを増している。経験や体験にお金と時間を使う消費のことだ。

デパートも然り。いまや数が激減し、首都圏中心等、限られた大都市部のみに生き残りつつ、その性格としては、ハイクラスな買い物を体験し、楽しむ、コト消費の場に変わっている。

ちなみに、スポーツ向けのアリーナではないが、一昨年に横浜市「みなとみらい」地区に開業した音楽専門ホール「Kアリーナ横浜」は、年間動員数で世界第2位と公表されている。(アメリカ音楽業界誌による。23年11月16日~24年11月13日におけるライブイベントの動員数)

なお、みなとみらいは、先ほども示したとおり地価LOOKレポートにおける評価レベル「3%以上6%未満」5地区のひとつに挙げられている。堅調なオフィス市況のみならず、Kアリーナ横浜のようなコト消費の核となる存在もあって、この街は目下賑わいを増しているわけだ。

コト消費は、これからの都市の賑わいを牽引し、構成していく根幹となっていくだろう。もちろん、インバウンドもその重要なひとつとなる。

地価LOOKレポートとは?

最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。

国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。

全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。

留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。

以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。

地価LOOKレポート 令和7年(2025)第1四半期分(25年1月1日~4月1日)

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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