地価LOOKレポート2023年第4四半期 歌舞伎町など、上昇幅さらに拡大
朝倉 継道
2024/03/03
全80地区中79地区が上昇地区に
この2月下旬、国土交通省が令和5年(2023)第4四半期分(23年10月1日~24年1月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。
上昇地区は、前期より1つ増えて全80地区中79地区となった。一方、横ばい地区はわずか1地区に。下落地区ゼロの状態は5期連続と常態化している。さらに、住宅系地区では、全てが上昇地区の状態が今期で7期連続となっている。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては当記事の最後であらためて紹介したい。
まずは、国内「全地区」における前期、前々期からの推移だ。
項目 | 今回 | 前期 | 前々期 |
上昇 | 79地区 | 78地区 | 74地区 |
横ばい | 1地区 | 2地区 | 6地区 |
下落 | 0地区 | 0地区 | 0地区 |
こうなると、唯一上昇地区と評価されていない一人ぼっちのエリアはどこなのかが気になる。答えは、東京都江東区の「青海・台場」地区となる。のちほどコメントを添えたい。
東京では3つの街が上昇幅を拡大
上昇地区には、率に応じて3つのレベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」、「同(0%超3%未満)」と、なる。
それぞれのレベルにおける、前期からの推移はこうなっている。
項目 | 今期 | 前期 |
上昇(6%以上) | 0地区 | 0地区 |
上昇(3%以上6%未満) | 7地区 | 3地区 |
上昇(0%超3%未満) | 72地区 | 75地区 |
このとおり、「6%以上」の上昇地区は2期連続で現れていないものの、それに次ぐ「3%以上6%未満」が前期の3地区から7地区に増えた。顔ぶれは以下のとおりとなる。
前期も今期も3%以上6%未満 | 東京都 中央区 銀座中央(商業系地区) |
京都市 下京区 京都駅周辺(〃) | |
福岡市 中央区 大濠(住宅系地区) | |
前期の0%超3%未満から上昇 | 東京都 新宿区 歌舞伎町(商業系地区) |
東京都 豊島区 池袋東口(〃) | |
東京都 中野区 中野駅周辺(〃) | |
横浜市 西区 みなとみらい(〃) |
このとおり、7地区中4地区を東京のエリアが占めた格好だ。このうち、東京・歌舞伎町については、不動産鑑定士によるこんなコメントが付されている。
- 「多数の国内若年世代や外国人観光客等が当地区を来訪して活況」
- 「旧来の高級クラブ等の夜間中心の店舗等とは異なり、上記顧客をターゲットとした客単価の低い飲食店を中心に旺盛なテナント需要が続いている」
- 「空き店舗が発生した場合には周辺の賃料相場より高い水準で成約しているケースが多い。更新時に増額改定している物件も」
インバウンドで盛り上がる「体験型」消費地・歌舞伎町
上記の歌舞伎町については、最近は「歓楽」に加え、「観光」の街である色合いをにわかに増している様子がよく伝えられるところだ。
ちなみに、この街の場合、観光とは主にインバウンドによるものを指すことになるだろう。稠密でカラフルな照明の輝きが醸し出すエキゾチックな夜の風景に惹かれ、外国人観光客の来訪が引きも切らない。
そこで、2023年の訪日外客数を見ると、約2,506万6千人(推定値を含む)となっている。コロナ禍前の19年の約3,188万2千人に対し8割近くにまで回復している(日本政府観光局)。
なおかつ、観光庁の速報によると、23年の訪日外国人旅行消費額は5兆2,923億円で過去最高。19年比9.9%増とのこと。つまり、来客数ではコロナ前を上回れなかったものの、落ちたお金はすでにこれを超えている。
そこで、当該「消費額」の内訳を見ると、シェアは以下のとおりとなっている。
2019年 | 1位 買物代 | 34.7% |
2位 宿泊費 | 29.4% | |
3位 飲食費 | 21.6% | |
4位 交通費 | 10.4% | |
5位 娯楽等サービス費 | 4.0% | |
2023年 | 1位 宿泊費 | 34.6%(19年に比べ5.2ポイント増) |
2位 買物代 | 26.4%(同8.3ポイント減) | |
3位 飲食費 | 22.6%(同1.0ポイント増) | |
4位 交通費 | 11.4%(同1.0ポイント増) | |
5位 娯楽等サービス費 | 5.1%(同1.1ポイント増) |
このとおり、「買物代」のみがシェアを下げ、その減少幅も大きい。一方で、他は全て増加している。
これは、いわゆる「モノ消費からコト消費へ」「物的価値から体験価値へ」――といった変化の表れとも思えるデータだが、歌舞伎町がこの面で際立つパワーをもつ街であることは、われわれも多くが知るところだ。
唯一横ばいに留まっている「青海・台場」
一方、冒頭にも触れたとおり、今期、全国80地区中、唯一地価上昇地区となれなかったのが「青海・台場」地区だ。
不動産鑑定士のコメントから一部を抜粋する。
- 「当地区内の大型商業施設では、飲食フロア、物販フロアともに当期も空き区画が散見されるものの、飲食店舗の売上高やホテルの稼働率は回復基調にある」
- 「青海ST区画における開発計画の公表等、当地区の活性化への期待感が見られることから、取引需要は底堅く推移している」
なお、ここで「青海ST区画における開発計画」と呼ばれているものについては、「トヨタのアリーナ建設」といえば、ああ、あのことかと理解する人も多いはずだ。
プロバスケットボールなど、さまざまなイベントの舞台となる多目的アリーナ(25年開業予定)を核とする街が、間もなくここに建設される。
そこでいえば、先ほど歌舞伎町の話のなかで「モノ消費からコト消費」「物的価値から体験価値」――の旨を述べたところ、アリーナを舞台にしたプロスポーツ等のイベントといえば、まさにコト消費、体験価値の最たるものにほかならない。
歌舞伎町とは違ったかたちでのその部分での徹底した掘り下げ、こだわりを「青海・台場」の街には強く期待したいところだ。
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区全てにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。
「地価LOOKレポート 令和5年第4四半期分(23年10月1日~24年1月1日)」
さらに、途中で数字を挙げた訪日外客数、および、訪日外国人旅行消費額については、それぞれ下記でご確認いただける。
「観光庁 訪日外国人消費動向調査2023年年間値(速報)及び10-12月期(1次速報)について」
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。