東京のみに横ばい地区が集中、なぜ? 地価LOOKレポート2023年第2四半期分
朝倉 継道
2023/09/05
下落地区は3期連続でゼロに
8月25日、国土交通省が令和5年(2023)第2四半期分の「地価LOOKレポート」を公表している。上昇地区が前期より1地区増え、全80地区中74地区と、全体の92.5%を占めている。なおかつ、前々期に始まる下落地区ゼロの状態が3期連続で続く結果ともなっている。
さらに、住宅系地区においては、すべての地区が上昇地区である状態が今期で5期連続となった。すなわち1年を超えたことになる。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては当記事の最後であらためて紹介したい。
まずは、国内「全地区」における前期、前々期からの推移だ。
状況 | 地区数 | 前期 | 前々期 |
上昇 | 74地区(92.5%) | 73 | 71 |
横ばい | 6地区(7.5%) | 7 | 9 |
下落 | 0地区(0%) | 0 | 0 |
繰り返すが、下落地区は3期連続で0地区=0%となった。コロナ禍のピーク時(2020年第3四半期)は、同じ数字が45.0%まで伸びていた。まったく異なる様相の現在といっていい。
なお、「下落地区」とは、当該四半期において地価の下落が観察され、かつ当面の下落も予測されるといったエリアのことだ。
大都市圏外にも地価上昇の勢いが波及
地価LOOKレポートは、さきほども記したとおり、全国の主な大都市部の地価にのみ調査対象を絞っている。
そのため、これらの多くは、東京・大阪・名古屋の「三大都市圏」か、札幌・仙台・広島・福岡の「地方四市」に属する地区に占められることとなる。
具体的には、全80地区中70地区がこれに該当する。残りは10地区で、顔ぶれは以下のとおりとなる。
福島県 | 郡山市 | 郡山駅周辺 (商業系地区) |
長野県 | 長野市 | 長野駅前 (〃) |
新潟県 | 新潟市中央区 | 新潟駅南 (〃) |
石川県 | 金沢市 | 金沢駅周辺 (〃) |
静岡県 | 静岡市葵区 | 静岡駅周辺 (〃) |
滋賀県 | 草津市 | 南草津駅周辺 (住宅系地区) |
岡山県 | 岡山市北区 | 岡山駅周辺 (商業系地区) |
香川県 | 高松市 | 丸亀町周辺 (〃) |
熊本県 | 熊本市中央区 | 下通周辺 (〃) |
沖縄県 | 那覇市 | 県庁前 (〃) |
(滋賀県草津市は大阪圏といってもいいが、地価LOOKレポートでは地方圏に含めている)
そのうえで、今期はこれら全てが地価上昇地区となった。
前期までは、長野市の「長野駅前」と、熊本市中央区の「下通周辺」が横ばい地区だったが、両者ともにいよいよ足踏み状態を脱している。
地価上昇の勢いが、大都市圏外となる地方の中心都市へも広く波及していることを示す結果といえるだろう。
横ばい地区は全てが東京に集中
一方、横ばい地区は(全6地区)、今期すべてが東京都内に集中する結果となった。
千代田区 | 丸の内 (商業系地区) |
有楽町・日比谷 (〃) | |
港区 | 六本木 (〃) |
品川駅東口周辺 (〃) | |
江東区 | 青海・台場 (〃) |
立川市 | 立川 (〃) |
なお、このうち「青海・台場」にあっては、前期は横ばいから一旦上昇に転じていた。しかしながら、今期は再び横ばいに落ち着く重たい動きとなっている。
これら各地区につき、不動産鑑定士による評価の中から、ポイントと思える部分を抜き出してみよう。
- 千代田区 丸の内
…「オフィス賃貸市場は弱含みで推移。賃料はわずかな下落傾向」 - 千代田区 有楽町・日比谷
…「オフィス賃料は、わずかながら引き続き下落傾向にある」 - 港区 六本木
…「テナント確保に時間を要する物件が見られる。オフィス賃料は横ばい傾向」 - 港区 品川駅東口周辺
…「オフィス賃料はやや下落傾向で推移。店舗賃料についても同様」 - 江東区 青海・台場
…「オフィス賃料とともに、店舗賃料も概ね横ばい傾向」 - 立川市 立川
…「オフィス賃料は安定的。貸主・借主ともに今後の動向を注視する状況」
このとおり、特に都心部の「丸の内」「有楽町・日比谷」「六本木」「品川駅東口周辺」においては、オフィス賃貸市場におけるやや重苦しい状況が、評価に影を差す様子が窺える。
ちなみに、オフィス仲介大手「三鬼商事」の公表によれば、東京の今年のオフィス坪当たり平均賃料は、この7月まで一貫して下がりっぱなしとなっている。逆に、概ね右肩上がりが続く大阪や名古屋に対し、コントラストがかなりはっきりした状況となっている。(三鬼商事株式会社「オフィスマーケット」)
地価LOOKレポートでも、こうしたデータに符合する評価がやはり示されているといったところだろう。
なお、今年は、以前から取り沙汰されている「東京・オフィス2023年問題」の始まりの年でもある。東京都心部において、オフィスの供給が過剰に積み上がることにより、市況がにわかに厳しくなっていくとされる予測・予想だ。
こうしたことも見据えながら、今後を見守っていきたい東京の地価となる。
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。
「令和5年第2四半期分(2023年4月1日~7月1日)地価LOOKレポート」
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。