地価LOOKレポート2022年第3四半期分が公表 下落地区がほぼ消えた大都市中心部地価
朝倉 継道
2022/12/01
下落地区はついに1に
この11月18日、国土交通省が令和4年(2022)第3四半期分の「地価LOOKレポート」を公表している。日本の大都市部地価が2020年以来の逆風だった「コロナ禍」によるショックをいよいよしのぎ切ったかのように見える数字が挙がっている。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。
まずは、国内「全地区」における前回、前々回からの推移だ。
上昇 65地区
(前回58、前々回46)
横ばい 14地区
(前回17、前々回21)
下落 1地区
(前回5、前々回13)
このとおり、下落地区はついに1となった。全80地区に対するパーセンテージは1.3%(1.25%を四捨五入)で、同じ数字が45.0%まで伸びていたコロナショックのピークの頃(2020年第3四半期)の状況からははるかに遠ざかった印象となる。なお「下落地区」とは、当該四半期において地価の下落が観察され、かつ当面の下落も予測されるといったエリアのことだ。
下落地区の割合を過去から辿ってみよう。
令和2年(2020)
第1四半期 4.0% (この期の冒頭1月に国内初の新型コロナ感染者を確認)
第2四半期 38.0%
第3四半期 45.0%
第4四半期 38.0%
令和3年(2021)
第1四半期 27.0%
第2四半期 29.0%
第3四半期 30.0%
第4四半期 17.0% (この期まで全対象地区数は100)
令和4年(2022)
第1四半期 16.3% (この期より全対象地区数は80へ)
第2四半期 6.3%
第3四半期 1.3% (今回)
このとおり、新型コロナウイルスへの人々の感染自体は6波、7波、8波と、今年も続いてはいるものの、コロナの影響を受けた他の多くの事象同様に、大都市部地価もいよいよそのくびきから放たれようとしている状況だ。
なお、カッコ内に記したとおり、上記の間に地価LOOKレポートの調査対象地区数は1度変わっている。令和3年(2021)第4四半期までが100地区、令和4年(2022)第1四半期(前々回)からは80地区となっている。
唯一の下落地区は、上昇率トップ地区から遠くない場所に
「下落地区はついに1となった」となると、それがどこかは当然気になるところだ。答えは下記となる。
熊本県 熊本市中央区 下通周辺(商業系地区)
一方、全国の上昇率トップ地区はというと、実はこことさほど遠くない場所にある。下記だ。
福岡県 福岡市中央区 大濠(住宅系地区)
この福岡の大濠地区は、全65の上昇地区のうち、唯一「3%以上~6%未満」の評価を得ているエリアだ(他は0%超~3%未満)。また、そうした状況は今回で3期連続となる。福岡市中心部に隣接する、マンション需要に沸く交通至便なミッドタウンエリアだ。
一方、隣県の大都市・熊本は、今回唯一の下落地区を抱える街となった。同じ九州の中での福岡市と他県各都市との間に生じているコントラストが如実に表れる結果となっている。
ちなみに、総務省の住民基本台帳人口移動報告によれば(2021年結果)、福岡県は全国に10ある(人口)転入超過都府県のうちのひとつとなる。対して、他の九州6県はいずれも転出超過県となっている。
さらに、福岡市の転入超過数7,158人は、全国の市町村転入超過数ランキングの5位となる。さいたま市(10,527人)、横浜市(10,123人)、札幌市(9,711人)、大阪市(7,893人)に続く数字だ。一方、熊本市は辛うじて転入超過しているものの、数は579人にとどまっている。かつ、2020年はマイナス=転出超過だった(-269人)。
観光がやはりカギとなる那覇
さらに今回、注目される動きとなっているのが、沖縄県那覇市の「県庁前」地区(商業系)だ。前回5つあった下落地区のひとつだが、今回は横ばいを経ず、一気に上昇地区となった。
「前回分での下落地区と今回の状況」
福島県 郡山市 郡山駅周辺(商業系地区) → 今回横ばいへ
東京都 港区 六本木(同上) → 同上
長野県 長野市 長野駅前(同上) → 同上
熊本県 熊本市中央区 下通周辺(同上) → 今回も下落地区のまま
沖縄県 那覇市 県庁前(同上) → 今回上昇地区(0%超~3%未満)へ
この那覇市「県庁前」についての不動産鑑定士のコメントを見てみよう。(要約)
・2022年の観光客数は、行動制限や空路減便の見直し等により、前年と比較して大幅な回復傾向にある。当地区でも国内観光客を主とした観光需要の回復傾向が続いた
・稀少性の高い立地の賃貸需要は底堅さが見られ、店舗・オフィス賃料も概ね横ばいで推移している。当地区の観光需要が回復傾向に移行したこと等を見据えた法人投資家等による取得需要も強まっている
・修学旅行等の団体旅行のほか外国人観光客も徐々に回復することが期待される。観光市場の回復見通しを背景にした投資需要が引き続き見込まれる
このとおり、観光需要が地価動向を大きく左右する当地区の実情を明確に示した評価といっていいだろう。
また一方で、注ぎ込まれる公共事業――官需のほかは「観光がもっぱら命綱」などともいわれる沖縄経済特有の課題も浮かび上がってくるものとなっている。
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもってわれわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
(文/朝倉継道)
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「地価LOOKレポート」令和4年第3四半期(2022年7月1日~10月1日)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001572149.pdf
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。