ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

至れり尽くせりのサービスの謎

無料の不動産投資セミナーに参加してみたら一体どうなるのか?

尾嶋健信尾嶋健信

2016/01/13

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

いま、不動産投資セミナーが大盛況

首都圏ではいま、さまざまな形態の不動産投資セミナーが毎日どこかで開催されています。試しに、インターネットで検索してみてください。どの検索エンジンでも、おびただしい数の不動産投資セミナーがヒットするはず。2020年開催の東京オリンピックがいよいよ近づいてきて、不動産投資ブームはいま、東京を中心に久しぶりの盛り上がりを見せています。

頭金0円からの不動産投資。プロが教える成功法則。サラリーマンにもできるマンション経営。初心者にもわかりやすい節税・相続税対策……。
どのサイトを覗いても、ちりばめられているのは魅力的なフレーズばかり。講師陣も不動産コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、税理士など、いかにもプロっぽい人たち。セミナーの定員は10〜30名が一般的で、なかにも限定5名というごく少人数のセミナーもあるようです。

こうした不動産投資セミナーは、ネット申し込みで誰でも簡単に参加できます。受講料は基本的に無料。そればかりか、セミナーに参加すれば、講師の書いた著書(ほとんどが不動産投資関連書籍)が無料で進呈されるほか、開催する時間帯によっては軽食まで供されることも。

セミナー参加者は、なぜここまで至れり尽くせりのサービスを受けられるのか。答えは簡単。参加者はセミナー主催者にとって、大切なお客様だから。主催者がこうしたセミナーを開催する最大の理由は、不動産投資について消費者を啓蒙するためでもなんでもなくて、ただ単純に、投資用分譲マンションを参加者に売りつけたいからなのです。

新築投資用ワンルームマンションはなぜ儲からないのか?

そもそも「不動産投資セミナーに参加してみようかな?」と考える時点で、その人が不動産の専門知識を持たない「情報弱者」であることは明らかです。しかも、投資に回せるだけのおカネを持っているのですから、不動産販売会社にとっては「属性の良い情報弱者」。もっともターゲットにすべきカモなのです。

そんなカモに売りつけようとするのは、主に都内にある新築ワンルームマンション。ここで断言しましょう。不動産価格が高騰しているいま、新築投資用ワンルームマンションは基本的に、買っても儲からない“ババ物件”だと。

新築ワンルームマンションは、不動産投資物件としてなぜ儲からないのか。

ワンルームに限らず、すべての新築マンションにいえることですが、その販売価格には広告宣伝費がかならず上乗せされています。住宅情報誌への掲載、折り込みチラシの印刷と配布、さらにはネット広告など、広告宣伝費はバカになりません。そのため新築マンションを購入した瞬間、その資産価値は販売価格より2割目減りします。販売価格4000万円の新築マンションなら、買った時点で3200万円の資産価値に。しかも、不動産価格はいまがほぼ上限ですから、資産価値は時間が経つほど確実に減っていきます。

今後の売却益が期待できないなら、賃貸経営に徹すればいい。そういう考え方も確かにあります。しかし、不動産販売価格が高騰している反面、家賃相場はそれほど上がっていないという厳しい現実もあります。

たとえば、リーマンショック後の2009年頃、東京23区内のある地域にある専有面積25㎡のワンルームマンションの販売価格が2400万円だったとしましょう。そして当時のそのクラスのワンルームの家賃相場が13万円だったとします。その場合、この部屋から得られる家賃収入は13万円×12カ月で年間156万円。この金額を購入金額で割った利回りは、156÷2400=6.5%になります。この利回り6.5%という数字は、賃貸経営でどうにか赤字にならない程度の、ギリギリの数字です。

 そのクラスのマンションはいま、不動産価格の高騰で、販売価格が3600万円まで上がったとしましょう。一方、家賃相場はあまり上がっておらず、月15万円程度。この部屋を賃貸経営した場合、年間収入は15万円×12カ月で年間180万円。利回りは180÷3600=5.0%。利回りがここまで落ちると、賃貸経営としてはかなり厳しいですね。

 しかもこの数字は、1年12カ月間、きちんと入居者がいた場合。空室になれば収入ゼロになるばかりか、マンション管理組合に支払う毎月の管理費や修繕積立金の分だけ赤字になります。その金額は1万〜5万円程度(マンションごとにバラツキあり)。これが結構、バカになりません。

 このように見てくると、新築のワンルームマンションはいま、不動産投資の対象になりにくいことがわかるでしょう。もっとはっきりいえば、新築ワンルームはいま、投資用に買うべきではありません。

不動産投資セミナーでマンションを売りつける

ところが、冒頭で紹介したような不動産投資セミナーでは、これらのマイナス要素には一切触れません。それどころか、「セミナー後、個別相談を受けつけます」と持ちかけ、「実はいまおすすめの物件があります」などと言葉巧みに新築マンションの購入をすすめてきます。押しに弱い人は、セミナーに参加しただけで、ほしくもないマンションを売りつけられるハメになるかもしれません。

考えてみてください。セミナー主催者は、セミナールームや会議室を借りるためにレンタル料を払い、講師陣に講演料を払い、さらには社員の人件費まで使って、なぜ無料のセミナーを開催するのか。それはもちろん、参加者にマンションを売りつけるためです。そして投資セミナーが各所で連日行なわれているということは、つまり、それだけセミナー商法が儲かるからです。なかには、開業医の名簿を手に入れ、片っぱしから「セミナーのご案内」の電話を掛けまくる業者までいます。

私は不動産投資全般を否定しているわけではありません。中古物件を安く手に入れ、適切なリフォームを施し、マンション経営で成功しているオーナーも大勢います。しかしそれらの人は、マンション経営についてきちんと学習してから事業を始めているのです。皆さんは、決して生半可な知識で不動産投資に首を突っ込まないようにお願いします。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

満室経営株式会社 代表取締役

1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。

ページのトップへ

ウチコミ!