利回りは信じるな! 累計投資額1000億円の不動産投資のプロ、和田一人さんが語る価値ある物件の見分け方
ウチコミ!タイムズ編集部
2017/02/23
「利回りが高い物件はリスクが低い」というのは誤解
——「儲かる不動産投資の教科書」を拝読しましたが、不動産投資の本というと、「簡単に儲かる」「誰でもできる」と煽る内容の本が多い印象がありますが、この本は非常に誠実で実践的な内容だと感じました。まず、この本を出された動機をお聞かせください。
和田:不動産投資に関するガイド本は実に多く出版されています。ですが、本当に役に立つ本があるのかと聞かれたら、私の知る限りでは「これがおすすめ」と言える本に出会ったことがありませんでした。
たとえば、どの本にも「賃料から諸経費やローンの返済を差し引いてプラスになる物件を買いなさい」とは書いてあるのですが、では、その「プラスになる物件」をどうやって見きわめればいいのかというノウハウの部分がほとんど語られていないのです。
そこで、自分がこれまでに培ってきた不動産の評価に関するノウハウをはじめ、私の投資術の集大成をまとめようと考えて書いたのがこの本です。
——この本のおかげで不動産投資の基本的な考え方が理解できたように思います。不動産投資の常識とされていることにも、誤解があることがわかりました。
和田:その代表例が、「利回り」ではないでしょうか。
多くの人は、「利回りが高い物件は高収益が期待できるのでリスクが低い」と考えられていると思います。定期預金のように元金と利息の支払いが約束された金融商品なら、利回りは高ければ高いほど有利です。ですが、不動産投資はその常識がまったく通用しません。それどころか、実際には利回りが高ければ、それに応じてリスクも高くなるものなのです。
仮に、高利回りでリスクが小さい物件があったとします。そんな物件なら買い手が殺到するはずですから、物件価格はおのずと高くなります。そして、物件価格が高くなれば、その分だけ利回りは下がってしまうはずです。
なのに、利回りが一定以上に下がらないのは(物件価格は一定以上に高くならないのは)、リスクがあると感じているからです。それなりの理由があるからこそ、利回りが高くなっていると考えるべきでしょう。
「利回りが高い物件はリスクが低い」というのは誤解
——利回りについてもう少し詳しく教えてください。
和田:不動産投資を始める上で、まず知っておいてほしいのは、「業者がもっぱら提示する利回りは本当の収益性を示していない」ということです。
業者が説明に使うのはだいたいの場合、「表面利回り」です。ですが、不動産のプロ同士の会話で、表面利回りについて触れることはまずありません。表面利回りは、実態を反映した数字ではないからです。
不動産投資について勉強したことのある方ならご存知かもしれませんが、表面利回りとは、「満室になった場合の年間賃料収入」を「物件の販売価格」で割って算出した数値です。
最良の状態(満室)を想定した収益性である上に、その物件を購入する際はもちろん、購入後にも発生する諸経費をまったく考慮していない数値ですから、実態とはかけ離れた高い数字となるケースも少なくありません。
たとえば、東京の山の手線沿いに、表面利回りが40%を超えるオフィスビルがありました。このビルは、貸床面積(建物のなかで貸し出している部分)が小さい、いわゆる“ペンシルビル”で、賃料収入はあまり取れないのですが、それ以上に物件価格が安いために見かけ上の利回り、つまり表面利回りが高くなっているのです。
ですが、問題は経費です。まず、エレベーターの保守点検費用は貸床面積が小さくても一定額がかかります。また清掃代や修繕費なども面積が半分になれば半分ですむというものではありません。
つまり、賃料収入は少ないけれど一定の経費がかかるので、収入に占める経費の割合が高くなってしまうのです。実際の利回りを計算してみたところ、5%以下にしかならないという結果が出ました。
プロは「ネット利回り」と「自己資金利回り」を見る
——利回り40%という数字を信じて投資してしまったら大変なことになりますね。
和田:このケースからわかるように、表面利回りが高いからといって、実際の利回りまでが高いとは限りません。表面利回りは見かけ上の数字にすぎず、「真の利回り」ではありません。
真の利回りとはどういったものかについては、私の著書のなかで詳しく解説しているのでそちらを参考にしていただきたいのですが、利回りを見るのなら、基本的には表面利回りは無視して、「ネット利回り」と「自己資金利回り」で判断されることをおすすめします。
ネット利回りは、別名「実質利回り」とも呼ばれるもので、諸費用も踏まえて計算した利回りです。不動産業界では「年間の賃料収入—費用」は「NOI(純利益)」と呼ぶことから「NOI利回り」と言われることも多いです。
自己資金利回りは、賃料収入から諸費用だけでなくローンの返済額も差し引き、手元に残るお金をもとに計算する利回りで、利回り関連の指標のなかで私がもっとも重視しているものです。
「自己資金」とは、物件を取得する際に自らが負担したお金で、総取得費(物件価格+諸費用)からローンで調達した分を差し引いたものです。自己資金利回りは、「レバ後NOI利回り」「キャッシュオンキャッシュリターン(CCR)」「エクイティ利回り」とも呼ばれます。
ちなみに、不動産投資の入門本などでは、よく「諸費用は賃料収入の30%と程度と見積もる」と書かれていますが、プロが投資をする際にはそんなことは絶対にしません。必ず、過去の実績に基づいた正確な数字を使ってシミュレーションするか、自分たちの評価基準に基づいてシミュレーションしています。
東京の物件と地方の物件、どちらがおすすめ?
——たしかに、「費用=30%」と一律に決めてしまうのは乱暴ですね。実際には物件によってどれくらいの差が出るものなのでしょうか?
和田:正確には、それぞれの物件の実績に基づいた数字を出さなければわかりません。ただ、大まかな話をすれば、たとえば東京の物件と地方の物件を比べた場合、東京の物件における経費率は15〜20%で、地方の物件の場合は30〜40%となります。
仮に東京の物件の表面利回りが8%、地方物件の利回りが10%だった場合、この経費率を考慮したネット利回りはどうなるでしょうか?
それぞれ20%と40%の経費率の分だけ割り引いてみると、東京が6.4%、地方が6%という結果になります。ネット利回りで比較すると、実はどちらも同程度の収益性だということです。言い換えれば、表面利回りが同じなら、東京の物件のほうがネット利回りは高くなるわけです。
よく、「東京の物件と地方の高利回り物件のどちらがおすすめか」という質問を受けますが、表面利回りのトリックがわかれば、地方よりもはるかに需要が高い東京の物件を選んだほうが有利だと考えられるでしょう。
「首都圏の物件は利回りが低くて手元にお金が残らない」と、表面利回りが高い地方物件を売り込む不動産会社が少なくありませんが、表面利回りのトリックに騙されないようにしてください。
プロは「賃料単価」の高い物件に目をつける
——なぜ地方の物件のほうが経費率が高くなるのですか? 東京のほうが、いろいろなコストが高いように思いますが。
和田:それは、東京と比べて地方では、1坪当たりの賃料収入である「賃料単価」が大幅に低いからです。賃料単価とは、賃料を貸床面積で割って算出したものです。これが高いほど、収益性が高いと言えます。
たとえば、賃料単価が1万円の物件Aと、賃料単価が5000円の物件Bがあったとしましょう。賃料単価が半分だから物件Bの諸費用は半分になるということはあり得ず、1坪当たりで言えば同程度の費用が発生するのが現実です。
すごく簡単に言ってしまえば、物件Aと同じ賃料収入を得るためには、物件Bは2倍の坪数が必要になりますから、諸費用も2倍かかるということです。
そして、地方になればなるほど賃料単価は安くなるため、賃料単価に対して諸費用が占める割合、つまり経費率が高くなるのです。
——プロは、賃料単価の高い物件に目をつけるということですね。賃料単価の目安はどれくらいと考えればいいのでしょうか?
和田:詳しい説明は省きますが、賃料単価1万円というのが理想です。東京都内や神奈川県の一部では、1坪1万円の賃料が取れるところがあるのですが、首都圏であっても23区外や千葉、埼玉となると、それだけの賃料単価を取るのはむずかしいのが現実です。新築時点で賃料単価8000円をひとつの指標にしておけば失敗しにくいと言えるでしょう。
結局、賃料単価が高い物件は、土地の価値が高いのです。たとえば、土地と建物を合わせて1億円の物件があったとしましょう。建物が老朽化して、価値がゼロになったときに、土地の価値として6000万円が残るのか3000万円が残るのかによって「資産の再現性」が大きく変わってきます。
この業界でビジネスを続けてきてしみじみ思ったのは、世の中の不動産は「資産の再現性がある不動産」と「資産の再現性のない不動産」のふたつに分類できるということです。
資産の再現性がある不動産とはどんなものか一言で言えば、「購入してそこに新築の建物を建てても採算が合う土地」のことです。不動産投資で成功するためには、この資産の再現性にこだわることが非常に重要なのです。
どんな建物でもいつかは朽ち果て、新たに建て直されるものです。詳しくは、私の著書を読んでいただきたいところですが、その際に、どのような手立てを講じても建物を新たに立て直した場合に採算が合わなくなる土地が少なからず存在します。このように収益性が損なわれてしまう物件こそ、資産の再現性がない不動産です。
(参考記事)
不動産投資で総資産10億円超! メガ大家さんが破綻する日
不動産投資で成功するには、「資産の再現性」にこだわるべき
——投資額を回収できる見込みがない不動産ということでしょうか。
和田:先ほどの賃料単価が1万円の物件Aと、賃料単価が5000円の物件Bを例に考えてみましょう。先ほどもご説明したように、物件Aと同じ賃料収入を得るためには、物件Bは2倍の坪数が必要になります。仮に土地価格が同じで物件Aと同じ賃料収入が得られる新築に立て直すなら、物件Bは物件Aの2倍の建築費がかかることになります。
であれば、賃料収入が同じなのに、物件Bは2倍の投資額が必要ということで、当然、利回りは半減してしまいます。
つまり、物件Aは資産の再現性がある不動産で、物件Bは資産の再現性がない不動産ということです。
不動産投資で成功するには、資産の再現性がある物件にこだわるべきという理由がおわかりいただけるのではないでしょうか。
——表面利回りに惑わされず、価値のある物件を選び抜くことが大切ですね。
和田:不動産投資においては、物件の評価に関する勉強が非常に重要です。「不動産投資は株とは違って、価値がゼロにはならない」と言います。たしかに不動産の価値はゼロにはなりませんが、投資の成果としてはゼロどころかマイナスになる可能性もあります。
(参考記事)
頭金ゼロで不動産投資を始めた人の末路
ローンの返済が滞って競売にかけられてしまい、物件を売っても借り入れを返済できず、不動産を失った上に借金だけが残るということもあり得るのです。
そんな最悪のケースに陥らないために、評価の方法をしっかり学び、失敗しないように慎重な投資、慎重な物件選びを心がけてください。
私の著書が、不動産投資を志す人たちにとって、成功を勝ち取るための道しるべとなれば、それに勝る幸せはありません。
今回のこの人は…
和田一人(わだ・かずと)
キャピタル・アドバイザリー株式会社不動産投資部長
世界有数のコンサルティング会社であるKPMG FASで、破綻金融機関の資産査定における不動産評価の責任者として評価基準の作成、評価指導に当たる。その後、不動産ファンド会社でアセットマネジャーとして頭角を現し、上場不動産ファンド会社アセット・マネジャーズ(現いちごグループ)にて収益不動産の投資責任者を務める。累計1000億円以上の投資実績を有し、鑑定評価を含む評価実績は1万件以上を誇る「不動産評価」のプロ。収益不動産投資、仲介、M&Aを行なうほか、個人へのコンサルティングも手がける。
「儲かる不動産投資の教科書」
和田一人 著
2016年2月刊行
定価 本体 1,500円+税
四六判 並製 192ページ
ISBN 978-4-5940-7432-6
発売 扶桑社
この記事を書いた人
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