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甘い話に乗せられるとどうなるのか?

情弱がババをつかまされる不動産投資の実態

尾嶋健信尾嶋健信

2015/12/14

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不動産投資のメリットとは?

 いま、ひそかに注目を集めている不動産投資。書店の店頭には不動産投資関連の入門書がズラリと並び、その表紙には「資産○億円達成」「ラクして副収入」「家賃収入○万円」「○歳までに現役引退」「老後も安心」など魅力的なフレーズが躍っています。これらの1冊を偶然目にして、不動産投資に興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。

 不動産投資とは、簡単にいえば、収益を得ることを目的に不動産を購入・取得すること。収益を得る方法には2パターンあります。

1.購入した不動産を購入金額以上で売却すること
2.購入した不動産を第三者に貸して家賃収入を得ること

 不動産投資といえば、本来的には1を意味するのでしょうが、今日のわが国では2を指す場合が多いようです。

 いま不動産投資が注目されているのは、具体的に次のようなメリットが期待できるから。

(1)少ない自己資金でも始めることができる(銀行の融資を受けられる)
(2)老後の蓄えになる
(3)固定資産税や相続税などが軽減されて節税対策になる
(4)家賃収入はインフレになっても目減りしない
(5)万一の場合には生命保険代わりにもなる

 ただし、これらのメリットは、あくまでも「期待できる」というほどのレベル。すべてのメリットが約束されているわけではありません。その点をしっかり頭に入れておかないと、不動産投資で失敗する可能性が高いですね。

 なぜなら、不動産投資の世界ではいま、ババ抜きの“ババ”に該当する「ババ物件」が数多く存在しているから。正しい知識のない人=情報弱者がこの世界に安易に足を踏み入れると、まず間違いなくババをつかまされてしまうでしょう。

不動産価格の高騰でババ物件が増殖中

 では、不動産投資の世界に出回っている「ババ物件」とはどのような物件なのか。それを説明するためには、不動産投資における「利回り」について、まず説明しなければなりません。

 不動産投資の世界でよく耳にする「利回り」とは、家賃収入を得る目的で取得した不動産に対して使われる用語。先ほどご紹介した不動産投資の定義でいえば、「2.購入した不動産を第三者に貸して家賃収入を得ること」にあたるケースにおいて。ごく大雑把にいえば、「利回り=年間収入÷購入価格」の式で割り出されます。

 たとえば、家賃8万円の貸室が10室ある都心の賃貸マンションAを1億円で購入したとしましょう。この場合、1年間で得られる家賃収入は、8万円×10室×12カ月=960万円。この年間収入を購入金額で割れば、おおまかな利回りが計算できます。すなわち、960万円÷1億円=0.096で、物件Aの利回りは9.6パーセントになります。

 この物件Aのように、利回りが10パーセント前後かそれ以上ある物件であれば、不動産投資の対象に十分なり得ます。購入資金の1億円を全額年利4.5パーセント前後の銀行ローンで調達したとしても、差引で5パーセント前後のプラスになるからです。もちろん、賃貸マンションを所有した場合、マンション管理会社に支払う管理費、修繕・リフォーム費などの経費がかかりますが、差引5パーセントのプラスが出ていれば、それらの経費を差し引いても利益は残ります。

 ところが、アベノミクスが始まった2013年以降、不動産価格は上昇局面に入りました。とりわけ都心部では、2020年の東京オリンピック開催をにらんで不動産価格が高騰。そのため、以前であれば1億円程度で購入できた物件Aのようなマンションも、価格が1億4000〜5000万円まで跳ね上がってしまいました。その一方で、家賃相場は急には上がらないし、家賃が高いと入居者が出ていってしまいますから、家賃は月8万円に据え置かざるを得ず、年間収入は960万円のまま。その結果、960万円÷1億5000万円=0.69で、利回りは7パーセント前後まで落ちることに。

 利回りが7パーセント程度しかない場合、不動産投資で利益を上げるのは至難のワザ。4.5パーセントの銀行ローンを支払った上に諸経費まで負担するのであれば、利益はほとんど残りません。それどころか、10室ある賃貸マンションに1室でも空室が出れば、たちまち赤字に転落してしまうでしょう。

不動産投資市場はババ抜き状態に

 このように、買っても利益を出しにくい利回り6〜7パーセントの不動産投資物件を私は「ババ物件」と呼んでいます。不動産価格が高騰しているいま、実は不動産投資市場にはこの手のババ物件があふれているのです。

 そうとは知らず、ババ物件をつかまされているのが、年収700万円以上の医師・公務員・外資系ビジネスマンの人々。業界では「属性が高い」といわれている人たちです。

 彼らは、お金こそ持っているものの不動産の知識を持たない情報弱者。そのため、不動産投資物件を専門に扱う業者から「副収入」「現役早期引退」「悠々自適」などのキーワードを持ち出されるとひとたまりもありません。業者のなかには、物件さえ売れればいいと、マイナス要素なんて口が裂けても言わない業者も確実に存在します。

 かくして、不動産投資市場では「ババの多すぎるババ抜き」が日夜行なわれており、誰がババを引いてもおかしくない状況になっているのです。

 この連載ではこれから、不動産投資の裏側と、そこでババをつかまされないためにどうすればいいのかという処方箋を、できる限り赤裸々に語っていきます。末永くおつきあいいただければ幸いです。

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この記事を書いた人

満室経営株式会社 代表取締役

1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。

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