あるババ物件をめぐる本当にあった怖い話
尾嶋健信
2016/02/24
あるババ物件との偶然の再会
今回はババ抜きの話をしましょう。といっても、トランプゲームのことではありません。あくまでも不動産投資の話です。
私が「ババ」あるいは「ババ物件」と称しているのは、不動産投資の世界で「買っても儲からないハズレ物件」、「買うと損をする要注意物件」のこと。
私は以前から本コラムで、「不動産投資市場にはいま、多くのババが出回っているから注意が必要」と警告してきました。つい先日、その興味深い実例に遭遇したので、ここでご報告したいと思います。
少し込み入った話になるので、最初に要約しておきます。つい先日、私はある人から相談を受けました。「不動産投資用の中古マンションが1棟1億4000万円で売りに出ているが、買うべきかどうか」。詳しく話を聞いて、驚きました。ちょうど2年前にも、その同じマンションを買うべきかどうか、別の不動産投資初心者の人に相談されていたから。
つまり、そのマンションはババ抜きのババのように、情報弱者である不動産投資初心者の間で、ぐるぐると回り続けていたわけです。
そのババ物件を初めて知ったのは2年前のこと
私がそのマンションを知ったのは、前述の通り、2年前のことです。杉並区のはずれにある、当時築10年のデザイナーズマンションで、販売価格は1億2800万円。地上3階建てで、1階はすべて駐車場、1DKの居室が2階と3階に5室ずつ計10室。平均家賃は1室8万円で、表面利回りは7.5パーセント。
私に、そのマンションを買うべきかどうか相談してきたのは、地方公務員のKさん。不動産投資セミナーに数回通っただけの、まったく初心者です。
私は話を聞いて、購入しないように忠告しました。なぜなら、築年数といい表面利回りといい、いい物件とは到底思えなかったから。中古マンションは、特に賃貸経営初心者には扱いにくいのです。その扱いにくい物件を、Kさんはオーバーローンで買おうとしていました。
不動産を購入する場合、必要なお金は物件価格(土地・建物代金)と諸費用の合計になります。諸費用とは、仲介手数料、登記費用、銀行手数料、火災保険料、不動産取得税、固定資産税清算金など。諸費用は物件価格のおおよそ7〜10パーセントかかります。たとえば、物件価格が1億円なら、総額で1億1000万円ほどかかるわけです。
不動産を購入する際は一般的に、物件価格の20パーセント程度を頭金にして、残りをローンでまかなうもの。それに対して「フルローン」とは、諸費用分だけを現金で用意し、物件価格の全額を金融機関から借りること。また「オーバーローン」とは、頭金ゼロで、物件価格+諸費用を丸ごと金融機関から借りることです。
Kさんは1億2800万円の投資用マンションをオーバーローンで買おうとしていました。総額1億4000万円ほどを全額融資してもらうというのです。実際の不動産価格以上に借金するわけですから、購入した瞬間から、Kさんは債務超過に。金融機関側から見れば不良債権ですから、今後銀行金利が下がったとしても、Kさんは借り換えができないのです。
しかし、私が忠告したにもかかわらず、Kさんは不動産屋の口車に乗せられ、そのマンションを購入してしまいました。不動産投資用のアパートローンは、住宅ローンと違って金利が高く、おおよそ4.5パーセント。35年ローンだとしても、毎月の支払い額は約67万円に。全10室が満室だったとしても、毎月13万円しか利益は出ません。中古マンションで今後修繕費がかかることを考えると、1室でも空室になれば赤字になります!
売りに出されていたのは、あのババ物件だった!
その後、Kさんの消息はまったく耳にしませんでした。そしてつい先日、まったく別方面の知り合いのEさんから、「中古マンションを買いたいんだけど」と相談を持ちかけられたのです。
聞けば、杉並区にある築12年の3階建てデザイナースマンションで、販売価格は1億4000万円だとか。諸費用込みで、およそ1億5500万円。詳しく話を聞いて、アッ!と思いました。そう、それは2年前に地方公務員Kさんが購入したマンションだったのです!
私が想像するに、Kさんは結局、賃貸経営に失敗したのでしょう。もともと、1室でも空室が出れば赤字に転落する、危うい物件でした。2室も空室の状態が何カ月も続いたり、水漏れなどで修理工事の費用がかさめば、たちまち経営危機が訪れます。
毎月のローン返済に窮したとしても、オーバーローンで物件を買っているKさんは、ほかの金融機関への借り換えもできません。マンション経営が破綻した場合、Kさんはマンションを手放すしか方法がないのです。それも、不動産屋からおそろしく買い叩かれた金額で。Kさんに残るのは、いまより少しだけ少額の借金だけ…。
こうして、どこかの不動産屋に買い叩かれた中古マンション=ババ物件は、不動産会社のあくどい利益分が上乗せされ、1億4000万円で売りに出されることに。表面利回りはさらに下がって、6.85パーセントに。この利回りでは、賃貸経営がよほどわかっている人でないと利益は出せません。
私は、相談を持ちかけてきたEさんに、「そのマンションは絶対に買ってはいけません。買ったら、ババを引くことになりますよ!」と強く忠告しました。Kさんの例をあげながら。幸い、Eさんは私の忠告に従ってマンション購入を中止。聞けば、2016年1月31日現在、まだ買い手はついていないようです。
さて、次にこのババを引くのは、いったいどこのどんな人なのでしょうか…。
この記事を書いた人
満室経営株式会社 代表取締役
1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。