賃貸経営・不動産投資、困ったときのフクマルさん ♯4 〜今年も災害被害が多数 修繕対応はどうしていますか?〜
福丸 利津子(Ritsuko Fukumaru)
2021/08/25
イメージ/©️ digidreamgrafix・123RF
不動産と建築の業界に携わって今年で33年目。「住まいは女性が一番知っている」「女性の大家さんには堂々と賃貸経営に携わってもらいたい」「安心安全な不動産取引をしてもらいたい」、このような思いから、女性大家の会「白ゆり大家の会」を2016年に立ち上げました。
不動産業界で生き残れるかどうかは、知識があるかないかで変わる、と私は思っています。私の経験談、そして、昨年の民法改正などについて、私独自の見解も交えながら6回にわたってお届けさせていただきます。
◆◆◆
民法改正で気を付けていただきたいこと
4回目の今回は、今まさにお困りの方もいらっしゃるかもしれない内容です。
今年の夏も、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で外出自粛のなか、家に在宅されていることも多く、外は猛暑の地域、一方、大雨という梅雨前線停滞で、雨漏りや土砂災害などが発生していますが、所有の借家やアパート・マンションがその被害にあったとき、修繕対応はどうされていますか?
昨年4月の民法改正で、特に気を付けていただきたいことは、貸室・設備等の故障やトラブルの対応です。
それは、修繕及び一部滅失等による賃料の減額の取り扱いについて、貸室・設備等が壊れて使えなくなってしまうことによって、通常の居住ができなくなってしまった場合、契約者の過失を除き、賃料はその滅失部分の割合によって【減額される】となりました。
一般的な住宅賃貸借契約書の契約条項について記載されているのは、
①本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰すべき事由によらないときは、甲及び乙は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、賃料減額の要否や程度、期間、賃料の減額に代替する方法、その他必要な事項について協議するものとする。この場合において、賃料を減額するときは、その使用できなくなった部分の割合に応じるものとする。
②本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、残存する部分のみでは乙が賃借した目的を達することができないときは、乙は、本契約を解除することができる。
※改正前民法との相違点として
改正前民法では、賃借人の請求により賃料減額の効果が生じていましたが、改正民法では請求によらなくても当然に減額となるのです。また、契約解除にあたり、改正前民法では滅失が賃借人の帰責によらないことが必要でしたが、改正民法では滅失が賃借人の帰責による場合でも解除可能とされます。
ただ、今回の修繕義務に関する改正民法は責任や権限の所在を明らかにした程度で、細かなところに明確な基準などは設けられていませんでした。そこで、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が【貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン】を出し、不具合が発生した場合の計算例も出ていますが、全てがその通りでなくあくまで参考です。それを踏まえて説明していきます。
【貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン】によると、設備故障の状況別に、賃料減額割合と免責日数が規定をされています。(一部抜粋)
1.トイレが使えない:減額割合30%(月額)免責日数1日
2.風呂が使えない:減額割合10%(月額)免責3日
3.水が出ない:減額割合30%(月額)免責日数2日
4.エアコン不作動:減額割合5000円(月額)免責日数3日
5.電気が使えない:減額割合30%(月額)免責日数2日
6.テレビが使えない:減額割合10%(月額)免責日数3日
7.ガスが使えない:減額割合10%(月額)免責日数3日
8.雨漏りによる利用制限:減額割合5~50%免責日数7日
【上記記載を基にした例】
例:賃料10万円の賃貸物件でトイレが3日間使えなかった場合
計算=賃料10万円×減額割合30%×日割り3/30-免責日数1日
減額金額=2000円が賃料からの減額の目安
賃料減額のこのガイドラインは、あくまで目安であり、必ずしもこの通りに減額しなくてはいけないというものではありません。入居者が安心して賃貸物件で生活ができるように、基準を明確化したものなのです。
また、電気・ガス・水道等の停止が貸室設備の不具合を原因とするものでなく、供給元の帰責事由に基づきます。ですが、猛暑のときはエアコンも故障しやすく、修理はすぐには来てくれません。その場合の減額割合は免れないのです。
パッと見ると、「設備の不具合が発生すると賃料減額しないといけないといけない、家主にとってはとても不利な内容なのでは?」と感じられるかもしれませんが、場合によっては設備不具合による、必要以上の大きなトラブルを防げる場合もあると思いますので、必ずデメリットになるという訳ではないと思います。
例えば、トイレの水が流れないような場合に、バケツなどで水を持ち込めるので使えないわけではないものの、故障して数日間続くとなればさすがに我慢できません。ただし、我慢ができる限界といっても人それぞれで異なります。
修繕に至るまでの期間は、故障状況や修理業者の状況によっても異なります。今回の民法改正には明確な基準がない以上、現時点では円満な賃貸借関係を継続するため、借主と貸主の間で協議し、適正な減額割合や減額期間などを双方の合意のうえで決定することが望ましいと考えられての目安となります。
予測されるトラブル
また、入居者に故意がない場合はオーナーに修繕義務があるために、入居者の判断で修繕を行ってよい、という項目が民法に加わったことで、予測されるのはその修繕費用に関するトラブルなのです。
①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当期間内に必要な修繕をしないとき
②急迫の事情があるとき該当する場合は、賃借人に修繕権限が認められる。
ですが、賃借人による修繕を避けたい場合には、修繕の範囲・方法等に関する条項を特約に定めておくことが望ましいです。ただし、賃借人が消費者の場合、権限を制限する条項が消費者契約法により無効とされないよう注意が必要となります。
それは、休日や夜間に発生した故障は、急を要するからといって入居者がすぐ業者を手配してしまうと割増料金などが加算されて、通常よりも高額な修繕費用が発生します。また、修繕に要する時間よりも交換の方が短時間できるからと、入居者の判断で勝手に新品交換などを行った場合も、修繕よりも高額な費用が発生する可能性があります。
このようなトラブルを未然に防ぐために必要になるのは、こちらも契約書による明文化が必要です。
特約条項の一例として、以下のような内容を記載しました。
・設備に異常が発生した場合は速やかに管理業者に連絡する義務があること
・オーナーや管理会社の対応ができない時間帯であれば指定業者に連絡すること
・修繕工事は平日に実施すること
・規定の箇所や金額の条件を満たす内容の修繕ならば後日の請求に応じること
今回の修繕義務に関することも改正民法には明確な基準がなく、責任や権限の所在を明らかにした程度のために、設備や建物の修繕について詳細な条件を契約書内で取り決めておくことで、修繕の期間に費用に関する「常識的な範囲」があれば円滑に修繕を行え、大きなトラブルにはならないようにしておくことも重要です。また、入居者としても、修繕が必要になった際の対処が明確になっている方が、勝手な判断でトラブルとなる心配が無くなります。
なかには責任回避をしたいために、【貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン】をそのまま添付している管理会社もあるようです。あくまでガイドラインですので、建物によっても異なります。管理会社、もしくはお付き合いしている不動産会社と十分に話し合って、契約書を明文化してください。
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この記事を書いた人
株式会社アトリエハウス 代表取締役・「白ゆり大家の会」主宰
保育士、製菓会社、建売会社のCADオペレーター・現場審査立会い業務を経て賃貸仲介会社へ転職。その後、地元老舗不動産会社から事業拡大のためヘッドハンティングされ、宅地開発、建売事業を行いながら賃貸管理会社・建設会社を設立。全営業責任者となり、建築営業において全国NO.1の営業表彰を受ける。2014年、アトリエハウスを設立し独立。不動産コンサルタント・講師業として活躍。不動産会社、建築会社や賃貸住宅オーナー向けに講習会も行う不動産のエキスパート。 資格:ファイナンシャル・プラニング技能士2級、宅地建物取引士、2級建築施工管理技士、賃貸不動産管理士、住宅ローンアドバイザー、不動産キャリアパーソン、損害保険代理店資格、占術鑑定士(四柱推命・気学<九星・方位・家相学>)、保育士・幼稚園2級教諭。